現代具足制作譚・序
二〇二二年(令和四年) 七月初旬 愛知県 十川廉次
現代に帰還した俺は休む間もなく例の具足について動き回っていた。まず手始めにやったのは『えるめす』での情報収集、本物の具足ってのを見たことがないから自分で撮影した資料が欲しかったのである。
そんなわけで、俺は手土産をもってえるめすを訪れたのだが……。
「どうした」
「いや、なんでジャンヌさんがいるのかなって思って」
「あら、私は丈二さんのスケよ。ここにいてもおかしくないでしょ?」
店先でスケとかいうな。あと七十九歳はスケの範囲じゃねぇ。
「あらあら、怖い顔しないで廉次君。冗談よ、冗談。そろそろ帰国するから丈二さんと今夜食事でもしようって誘いに来たの」
なんだ、そういうことか。邪魔しちゃ悪いな、出直すか。
「そうかい、邪魔したよ。出直すわ爺」
「待て待て、なんか用事があるんだろ? 茶ぐらい淹れてやるから待ってな」
言うが早いか、爺は軽快な足取りで店の奥にある住居スペースに逃げていった。ふむ、ジャンヌさんが苦手なのか爺は? 本人に確かめてみる。
「爺ってジャンヌさんのこと苦手なの?」
「そんなことないですよ。誰もいないところで二人きりだと私がべったりするから緩衝材が欲しいだけだと思います」
「わかってんならやめてやってくださいよ……」
流石に同情するぜ爺。
◇
「具足か」
「よさげなのパシャパシャってさせてくんね?」
店先の上がり畳部分に腰掛けて三人で茶を啜る俺たち、茶を一口だけ口に含んで本題を切り出すと、爺は難しそうな顔をして頬を掻く。
「そりゃ無理だ」
「なんでだよ、金なら多少は払うぞ」
「そもそもウチに具足はないんだよ、嵩張るし売り買いの値段も大した額つかねぇしな」
なんということだ、初手から躓いてしまったではないか。
「つーか、具足の写真撮ってどうするんだ。必要ならネットでも画像拾えるだろう」
「いやな、具足を作らなきゃいけなくてよ。その資料が欲しかったんだわ」
爺の表情が訝し気なものになる、本気で俺の言ってる意味が分からないのだろう。
「まぁまぁ、久さんのお孫さんですから」
「……それもそうか」
「なんで俺の婆さんでヤバさのスケール測ってんの」
むしろ婆さんなにやってたんだよ。
「ごほん。あー、それはさておきだな」
「さておくな」
「具足が作りたいってんなら注文するって手があるぞ」
え、現代でも具足って作ってもらえんの? 目をパチクリさせながら爺の言葉の続きを待つ。
「さらにネット注文できる」
「やべぇなインターネット社会」
「なんなら俺も頼んだことある」
息子用にな、そういってジャンヌさんと顔を見合わせて笑う爺。在りし日の思い出を頭に思い浮かべているのだろう。
「本社が鹿児島だったか。待ってろ、パンフレットがあったはずだ」
「アナタ、それよりもサイトを教えて直接アポイントを取ってもらうほうがいいのではないかしら」
「あ、それもそうだな。確か会社の名前は……甲冑工房大武だったか、検索してみな」
おう、と軽く返答し、手元のスマートフォンで言われた名前を検索する。あった、一九五八年創業のなかなかの老舗だ。
「写し絵……武将たちのレプリカなら百五十万もあれば足りるだろうが、おまえさんの頼みたいのはオリジナルだろ?」
「んだ。せっかくだし図面引こうかなって思ってたんだ」
「それなら向こうの人と相談して現実的なラインに落とし込んだほうがいいぞ。あっちはプロだからな」
そう言ってニヒルに笑う爺へ俺は肘をウリウリとしながら、
「プロはプロを知るってやつかぁ? ジャンヌさんどう思います今の決め顔」
「とてもBogossですね」
「……爺、知らん単語出てきた」
「……かっこいいってスラングだよ」
あら、アツアツじゃないの。これはお邪魔虫はさっさと消えますかな。ゲヘヘ。




