屋台交流
一五二九年(享禄二年) 四月上旬 尾張国 天神領織田屋敷前 十川廉次
説教という名の論点すり替え詐欺商法を終えた俺が屋敷の個室で少し休憩し、開いていた窓からの香ばしい匂いに気づいたのは夕暮れに差し掛かったころだった。
そろそろ準備が終わったと感じた俺は部屋の戸口に声をかける。
「自来也」
「はっ。兄御に指示されたとおり、天神村より屋台一式を伴った村民たちが到着し順々に信濃衆と元の村民に分け隔てなく食い物を配っております」
「名前読んだだけなのに完答されると怖いよ自来也」
スッと、戸口が開いて自来也がスススッと俺の傍に寄って答えてくれた。
自来也の言う通り、現在屋敷の前では祭りの的屋を模した屋台を準備している。まずは餌で釣る、これ人心をつかむ基本ね。
「屋台に出してるもんで人気の商品は?」
「人気が集中しているのは粉ものですね。一口お好み焼きにたこ焼き、男児たちには焼き鳥が好評のようですが、わたあめは女性陣が占領しております」
やっぱ、男は肉で女は甘味か。いつの世も趣向は大して変わらんな。
「元からいた住民たちは慣れているのかカリーを試しに食したり、胡瓜の一本漬けで酒を飲んだりしていますね。信濃衆は若年が多いのでラムネを好む者ばかりですが」
「さよか。元居た者たちと信濃衆は交流はできているか?」
「はい。孫三郎様が色々と世話を焼いてくれているようで……」
なんだ、その奥歯になにかが詰まった言いぐさは。もしかしてアホやったのか孫三郎は。問い詰める視線を自来也に飛ばす。
「……食い倒れました。それで、周囲にいた者たちが屋敷に運び込み、そこで壁が薄れたようで」
「……雨降って地固まるってか?」
本当に食い意地張ってんなアイツ。
「林様が傍についておられますが、林様も食事を取りながら監視する程度のようです」
「お前ハッキリ監視つったな」
「武士と言えどあの様は見苦しいので侮辱には当たらないかと」
「別に暴言の是非を問うているわけではなくだな」
「あと、大焚火の準備は完了しましたのでご報告を」
「あ、そうなの。じゃなくて、お前最近押しが強くなったなぁオイ」
「兄御の教えの賜物です」
別になんも教えてねぇんだけど……まぁいいや、それよりキャンプファイヤーの準備ができたのか、思ったより早かったな。
「兄御が神通力を見せてくださるとおっしゃってくださったので、それはもう領民たちは全力で木材を組み上げていましたよ!」
「面白いもん見せてやるがなんで神通力に変わるのかな?」
お前の翻訳機能いかれてるよ? 確かに起こす現象は神通力っぽいけどさ。
◇
「十川様、大焚火の準備は万事完了致してございます」
「ご苦労さん。火を入れてもいいぞ」
「はっ、失礼して……」
屋敷前の大通りに仰々しく組み上げられた俺の身長ほどのキャンプファイヤー、その周りになにが始まるのかと期待のまなざしでキャンプファイヤーを見つめる村民たちがいる。ざっと見たところ、信濃衆も元の村民も関係なしに交流をしながら手に持った食い物を食べつつ見学をしている、作戦は成功のようだ。
では、シメに戦国の世では分かりえない科学の実験を見せて神の使徒として偉ぶろうではないか。がっはっは。
「わぁ、おっきいほの~」
「あったかーい」
小氷河期に加え四月上旬の夕暮れ時だ、さすがに肌寒い。それを暖めるためのキャンプファイヤーでもある。現に冷え性になりやすい女性などはジリジリとキャンプファイヤーに近寄っていっている。俺はそんな彼女たちが気づくように大きな咳払いをして、
「では、これより我が神通力を見せよう。あまり近寄らないように」
そういって、彼女たちをある程度引き離して準備しておいたバケツ一杯に入ったアルミパックの袋をキャンプファイヤーに投げ入れる。そして素早く。
「カムチャッカハントゥ!! キェエエエエエ!!」
適当な言葉を叫び、両の手を叩き合わせる。すると、見る見るうちに炎の色が変色していくではないか。
「ほ、炎が青く……」
「こっちは深い紅みたいな色になったぞ!」
「見ろ見ろ、こっちは緑だ!」
「十川様凄ぇや! さっすが使徒様だ!」
……子供だましの科学実験でこうも感心されると心が痛むわ。




