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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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焦る真田

 一五二九年(享禄二年) 三月中旬 尾張国 天神領 十川廉次


「ここをな、引っ張ってとぉ!」


 クローラー型の自動運搬車のチョークを引いてエンジンを始動する。運搬車のけたたましいエンジン音に、物珍し気な表情で眺めていた天神村の村民たちは反射的に耳をふさいだ。


「凄い音ですね」

「おう、自分も乗れるタイプの運搬車だからな。排気量はそこそこあるぞ」

「……天上の言葉は難しゅうございます」


 菊之助が言外にわかる言葉で説明しろというので、取り巻いていた子供たちを荷台に乗せて運搬車を操作する。ゆっくり、だが自動的に動く運搬車に村人たちは驚いて一気に距離を取った。唯一、自来也だけが「さすが兄御」と言いたげに腕を組んで頷いている。俺は子供たちをのせたまま村を軽く一周してスタート地点だった屋敷前に戻ってくると、エンジンを切って子供たちを降ろしていく。


「楽しかったか?」

「最高だった!」

「そごーさまありがとー」


 子供たちは俺に礼を言って親のところに帰っていく。しきりに頭を下げる親たちに片手を振って問題ないと伝えると、菊之助へと向き直り告げる。


「これを使って、まず旧天神領内の畑を改善していく。荷運びはこいつ、畑の掘り起こしは耕運機って別の奴を使う。それと並行して苗たちをセルトレイで育苗するぞ」

「……しばし、時間をいただけますか。一気に見慣れぬ情報を取り込んだので混乱しております」

「菊之助、小難しいことを考えずとも兄御が出す指示を聞きながら作業するだけだぞ。慣れるまでは深く考えるな」


 俺は自来也のとりあえずやってみるってポジティブなところ好きだぞ。


「大根、大豆、水菜。あとの細々した作物は土の性質に合わせて植えるものを変える。ここさえ乗り越えれば保存食も幅が増える、今年が正念場だぞ菊之助」

「はっ、誠心誠意臨ませていただきます」





「あの、こううんき、とやらはとんでもないもんじゃの。源左衛門も欲しがっていたぞ」

「アレ、高えからなぁ……動かす燃料も俺じゃないと用意できないし」

「天上のものは我らにはまだ早いということか」


 俺に二日に一度は経過報告に来るマメさを見せつけてくるのは孫三郎、真田一行という面倒ごとを引き受けてもらっているので、代官をしてくれている織田家の人間には物資などでかなり融通を利かせており、足りないものを孫三郎自身が伝えに天神領までやって来るのだ。まぁ、こいつはただ単に屋敷のうまい飯が食いたいだけだろうけど。


「真田たちが天神領までやってきて、そこそこになるが様子はどうだ?」


 さして広くもない面会用の私室でコーヒーを啜りながら孫三郎に聞く。孫三郎はお茶うけのシフォンケーキを器用に箸で切り分けながら、


「真面目にやっているがな、なんだかんだ子供ばかりだ、役には立っておらんな。真田の小僧も頭は切れるようだが、どうにも先陣に立つ気性ではないとみえる。歳の変わらん自来也と比べると一目瞭然だな」

「子供を守るために泥と草食って生き延びる奴と比べるとそりゃそうだろうよ……」


 比較する対象が悪すぎるわ。つーか、十二そこそこで舵取りできる孫三郎も大概だけどな。織田弾正忠家って層が厚いよな、なんだかんだ有能な奴ばっかだ。信定パッパが家を盛り上げていく過程で無能を排除していったんだろうけどさ。


「まとめ役としては華蔵院殿が抜き出ておるな。本人の気性もあろうが聞き役として優れておる」


 華蔵院、名前を聞いてもわからなかったがあちらでは諏訪頼重の側室らしい。信濃の麻績氏から嫁いだそうだが、頼重元服と同時に武田と戦になったために子供がいないまま未亡人となった哀れな女性だ。本来の時勢なら頼重の正室が信虎の娘となっていたので、これも改変のあやという奴か。ちなみに、この人が諏訪御寮人の母親なので、このまま未亡人だと諏訪勝頼、別名武田勝頼は産まれない。いやぁ、乱世乱世。


「華蔵院はいくつぐらいだ?」

「十八といっておった。女盛りで旦那をなくすとは可哀そうなものよ」

「そうか、……聞いておくが華蔵院と真田で人心が割れるようなことはないだろうな」

「安心せい、華蔵院殿がさりげなく引いて真田を立てておる。今のところは大丈夫だ」


 よかった、この時代は男だからって女を舐め腐るカスが多いからな。真田の次郎三郎は分別があるから心配はしてないが、問題が起こっていなくて結構だ。


「真田は焦っているぞ」


 コーヒーへ砂糖を三回つぎ込んだ孫三郎は、グルグルと箸でコーヒーをかき混ぜながら言う。横に置いてるマドラー使えや。


「真田としては、兵をまとめて外敵に備えるとでも思っておったんじゃろう。小さい織田家なら自らが食い込む余地があると、至って軽い考えで天神領までやってきたら、なんてことだと外敵なんてありゃしない。名を立てる機会がなければずっと燻るままじゃからそら焦るわ」

「今川も北畠も津島とズブズブだからな……」


 荷留めされると家臣がブチ切れるほどには嗜好品輸出してるし、出元が俺だって割れてるから天神領を接収なんてしないよな。今川は当主交代でそれどころじゃないってのもあるだろうけど。


「暇があったら奴らに声をかけてやってくれや。得意じゃろ、そういう説教とかが」


 のんきにシフォンケーキの食べかすを口につけた孫三郎の能天気な言葉に、俺は大きく大きく溜息をついた。



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