差異を得たり
翌日、永楽銭は古物としての価値があるかどうかを『えるめす』のじいさんに電話して聞いてみた。じいさんによると、永楽銭の中でも金銭や銀銭は高値が付くが、それ以外の銅銭は基本的に銅としての価値しかないとのこと。基本的にというのは、永楽銭は字体により高値がつくこともあることはあるそうで、それだと個別で買い取ることもできるが、作業に見合ってない利益しか出ないのでやめておいたほうが無難だとじいさんから教えられた。口ぶりからして銅銭の鑑定が本当に嫌なんだと察したよ、そこまで迷惑かけないってのに。
というわけで、銅銭は業者に買い取ってもらうことに決まった。ここで銅銭がどのような買取においてどのように分類されるか知っておく必要がある。
人の手で扱われる銅銭は新しいものでもなければ黒ずんでいる、これは空気中の水分などに反応しているためだ。これらは下銅というランクで扱われ、いわゆるピカピカのブロンズとは違う買取価格になるらしい。ジャンヌさんの伝手で買い取ってくれる会社はキロで千二百円、ネットで調べてみると相場より少し高く、明らかに忖度された値段だと気づいた。ジャンヌさん様様である。今日配送される自動運搬車を利用して暇な時間に、ちまちまとあちらから永楽銭を運んでこよう。
それよりも、急いで確認しなければならないことがある。昨日ガッツリ休んだけど急いでだ! それは武田の信濃攻め込みが俺の知る歴史と異なっているのは何故か、理由を確かめることである。居間に据え置いているラップトップを立ちあげて、アメリカの大手検索サイトで検索窓に武田信虎と打ち込む、ヒットした一番上のウィキのページを開きスクロールしていくと……あった、俺の覚えの通り、神戸堺川の戦いでは神戸で拮抗し、夕方の堺川の決戦で武田方が崩れて敗北していると記されている。明確にあちらで起こった事象とは異なっているな。
この結果から推測されることは、まず間違いなくあちらの世界とこちらの世界は干渉しあっていないこと。あちらでの戦の結果でこちらの子孫が消滅したりなんてのはないだろう、でなければウィキの内容が武田勝利にアップデートされているはずだ。
次に、あちらから持ち込んではいけないものが増えた。こちらで博物館などに収蔵されている刀剣の類を持ち込むと現品が二振りになり、非常にややこしいことになる。じいさんにも迷惑がかかるし、名刀の類は今日を以て扱いをやめるべきだろうな。
つまり、これから先は昨日決めた金や銅の取り扱いがメインになる。ジャンヌさんが婆さんと知り合いで本当に良かったわ。
◇
「お邪魔します」
「邪魔するなら帰って~」
「あいよ~、って何をさせるのですか」
俺はバリバリのフランス人のジャンヌさんが関西で定番の返しを知っていることに驚いているよ。
俺が肥料などの配送品を受け取り、夕飯をカップ麺でさっさ済ませてあちらにタイムトラベルしようとしたところ、不意にジャンヌさんが俺を訪ねてきた。黒いドイツの高級車で。フランス車か日本車じゃないんかい、そう思っているとぬるりと家に上がり込んだので適当にティーパックの紅茶を淹れて提供する。
「いきなり何用ですか? 暇そうに見えて実は忙しいんですけど」
「はい、存じています。ですが、どうやらあちらできな臭いことに巻き込まれたのではないですか?」
ジャンヌさんの慈母の如き優し気な表情から発せられた言葉に、俺は一瞬硬直する。なぜ分かった、こちらにもどって二日しか経っていないんだぞ。
「執拗に武田信虎について調べているようでしたので、あちらとこちらの歴史に誤差が出たのではと」
「なんで人の検索履歴知ってんだオメーッ!」
「ログが私に流れてくるようにクラッキングしておりますので」
ニッコリと笑いながらいうことじゃないってジャンヌさん。ガチで犯罪だよ! あ、俺も脱税してるから人のこと言えない、クソッ!
「以前はお断りになられましたが、事態は変わっていくものです。廉次さんとの繋ぎ役として、例の会社に人を入れておきました。兵器に関する売買は彼にご相談ください。名前はジョアンと言いますので」
「例の会社ってのは、金属買取の?」
「はい、色を付けるように指示していますのでドンドン売ってくださいね。特に金は強烈な利益になりますのでオススメです」
聖女ジャンヌも世界を跨げば俗物かぁ……誰のせいなんだろうね、なぁ、婆さん。




