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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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北信濃崩壊

 信濃の真田といえば、戦国時代を知るものならば名前は聞いたことがあるであろう真田幸村が一番有名だろう。もっとも本人は幸村と名乗ったことはないそうだが。そんな有名人の親父の親父、つまり祖父が俺の目の前にいる。祖父と言ってもまだ十五歳の子供なんだがな、ガッハッハ……やめよう、現実逃避にもならん。

 何故、信濃で根付いているはずの真田が遠く離れた尾張の天神領までやってきたのか、理解のできない俺は大橋さんを傍に控えさせ、難民である真田たちの代表者をさきほどまで談笑していた応接室に呼びつける。数分ほどして、脇差など全く身に着けていないボロボロな身なりで丸腰の若者が二人俺たちの前に姿を現した。礼儀作法は満点だが擦り切れた衣服のせいで、妙なちぐはぐとしたおかしさがある二人へ面をあげろと言って顔をあげさせる。俺は大橋さんと少ない時間で打ち合わせた、絶対に聞いておきたい疑問を彼らへ尋ねる。


「俺が自在天神様の使いである十川廉次だ。通称などはない、天上と下界の文化の違いである、気にするな。それで、だ。信濃にいるはずのお主らが何故尾張に現れた? 聞けば難民として保護を願い出たそうだな」

「はっ。厚かましくも自在天神様の御使いである十川様に目通りを願いましたのは、信濃の現状を十川様にお伝えし、配下である織田弾正忠殿に警戒するよう忠言をお頼みしたく候」


 俺の疑問に、二人並んだ俺から見て左側の背丈の低い垂れ目の男が答える。こちらが真田幸綱、有名なほうの真田家だな。血筋としては海野氏の分家筋にあたる。その隣に座すとっぽい顔の男は矢沢源之助、信濃の諏訪を治める諏訪氏の分家である矢沢家に養子として入った幸綱の弟で、小さいなころは坊主として京都の鞍馬寺にいたそうだが、すぐに還俗した男でもある。まぁ、簡単にまとめると名字は違うが血を分けた兄弟ってことだな。

 それにしても、えらく遠回しな言いぐさである。ぶっちゃけめんどくさい。あと信秀は配下じゃないし。大橋さんも訂正しなよ、……頷くなって。


「信濃の状況? かしこまらずに簡潔に言え。お主らも早く人心地つきたいだろうに」

「はっ。それでは失礼ながら申し上げます。信濃国諏訪郡並びに佐久郡、埴科郡、小県郡、水内郡、高井郡全て合わせて六郡が武田左京大夫率いる甲斐の国衆に奪われました。抵抗した諏訪刑部大輔率いる諏訪衆、村上左近衛少将率いる北信濃衆、そして我ら海野家が率いる小県衆が富士見高原の神戸で激突し、拮抗した流れのまま夕刻の迫った堺川での決戦にて鬼気迫る武田方の猛攻により信濃衆は壊滅。諏訪、村上、海野などの信濃の主だった家の当主らが戦の中で討ち死にをし、我ら真田が生き残りを集めて山を越え、御身の元に参りました。武田の次の狙いは南信濃を獲り、美濃を経由して尾張と接敵し、ゆくゆくは織田家の持つ金子の山と津島の港、そして十川様の御身を手中に収める腹積もりです。早急に対応をすべきと進言させていただきます」


 ……絶句するとはこのことか。そんなことある? 甲斐の国を統一してからまだ六年だぞ、さすがに夢見すぎじゃない信虎君。というか、本来なら神戸堺川決戦って諏訪側が押し切って武田が負けるんじゃなかったか? なんで武田側が勝ってるんだ。そのことについて真田幸綱に尋ねてみる。


「御自覚がございませぬか、十川様のもたらす益は何を失ってでも得たいほどのものだと、北は陸奥から南は薩摩までよく知られております。人の皮をかぶった悪鬼である武田左京大夫ならば御家以外の全てを代価として払ってでも御身を得たいでしょうな」

「……津島の取引相手は日ノ本にある港のほとんどです、そこから情報が流れているのは間違いないかと。人の口に戸は立てられませぬので。代わりといってはなんですが、その十川様の名前を冠する荷は運び手に手出しされず、さらには質もよいと評判で、言い値で売れることも多いのです」


 大橋さんの補足説明に納得する。この時代でいえば商品評価の名声と狙われる知名度ってトレードオフだもんね。いいもん持ってるってなったらどんな手を使っても狙うわな、特にないものは奪えばいいって思考の戦国武将たちは。

 とにかく、何故ここに至ったのかは理解できた。次は誰が生き残ったのかを聞こうじゃないか。


「真田の言い分、おおよそは理解した。では、その信濃の決戦にて生き延びた目ぼしき者の名前を教えてくれ。ここで過ごす場合に備えて中心人物の名を控えておきたい」

「承知しました。まず、手前味噌ですが戦死した兄上に代わりまして真田家の嫡子となった某、真田次郎三郎幸綱。我が実弟にて矢沢家に入った矢沢源之助。諏訪家は男児が生き残ることができずに華蔵院殿が取りまとめられており、村上や高梨、仁科と小笠原は別々で別れたので生きているかも死んでいるかもわかりませぬ」

「待て、武田は北信濃を根切りにする勢いで制圧したということか?」


 真田と矢沢両名は憤懣に満ちた表情でコクリと頷く。あまりに非現実的な行動に俺は隣に控えている大橋さんのほうを向き、


「どう思う」

「正気の沙汰とは思えませんな。統治に人手を割けるほど文官が多いわけではありますまい。知による支配など不可能……」


 大橋さんのその言葉で、俺と大橋さんに稲妻が走る。信虎は最悪の手段を取るつもりだ。


「源左衛門」

「承知しております。弾正忠様にお伝えいたしますので失礼仕る!」


 言うが早いか、目の前の二人への挨拶もせずに飛び上がる勢いでバタバタと駆けだしていく大橋さん。さすが、あれだけ憎まれ口を叩いても信秀に重用されるだけあってフットワークが軽すぎる。さて、残された俺は、ポカンとしている真田と矢沢の二人に追加で問うことができたので胡坐を正座に正し、背筋を伸ばして極めて柔らかい声色で言葉を発する。


「次郎三郎。聞きたいことが増えたので分かる範囲でよいので答えてくれ」

「はっ。某に分かることであれば、なんなりと」

「武田は戦の際に将を優先して狙っていなかったか? 例えるならば、兵を狙うついでなどでなく、あえて弓などで執拗に追撃したりだ」


 俺の問いに、両名は顔を見合わせる。数秒ほど見つめ合った二人であったが、何故か矢沢のほうが口を開き、


「確かに、村上の当主などは明らかに狙われておりました。逆に我ら分家筋の者たちは追い散らす程度の被害しか出ておりませぬ」


 といって、だからなんだよと言わんばかりの訝しげな表情を矢沢は見せた。こればっかりは知識と経験が足りていないんだろう。俺は知識が、大橋さんは商売の経験で武田の戦略を察することができたのだ。


「武田はお主らの言うたような尾張攻略なぞするつもりなどない」

「そのようなことは決して!」

「落ち着け、別におまえらが謀ったなどとは思っておらんよ」


 俺は大声で「誰かある!」と叫び、音もなく戸を開いた自来也に茶を用意するように伝えて、全てが面倒になったのでゴロリと横になり。


「おそらく、武田は信濃を餌場にして長尾と事を構えるつもりだ」


 真田と矢沢の二名に、そう教えた。



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