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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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きたる、改変の波

 一五二九年(享禄二年) 三月上旬 尾張国 天神領 十川廉次


 雪も解け、肌寒くはあるものの春の息吹が段々と感じられるようになってきた三月上旬、非常に面倒な問題が発生した。知多半島の収益が上がってきたのである。


「水野、あまりにもこれは酷いぞ」

「はっ。某の不徳の致すところでございます」


 俺に叱られているのは水野下野守、諱は忠政。歴史好きならピンと来るであろう、あの忠政だ。わかりやすくいえば、江戸幕府を開いた東照大権現こと徳川家康の母方の祖父にあたる人物だ。もっとも今は四十前の働き盛りな水野家当主だがな。

 俺が何故そんな忠政を叱っているかというと、信秀に渡す報告書を確認してほしいと乞われたことが発端である。俺の売ったコピー用紙に同じく販売したインクペンで記入した報告書を確認すると、まぁ、酷いものだった。そもそも三枚程度に収まる収支報告書は報告できてないっての。俺は眉間の皺をもみほぐしながら、忠政に報告書を投げ返す。


「佐治のところも見られたものじゃないから再調査して提出すると言っていたが……丼勘定がすぎるのは看過できん」

「しかし、水野家も佐治家も算術に強いものがおりませんので……」

「言い訳になっておらん。使ったもの、買ったものを紙に記して控えておけばよいだけだ。それよりも知多では米もとれぬのに、どうやって益を得ておるのだ。それすらも我らに伝わらんのは話にならんぞ」

「……いやですな。その、魚を獲ったりした銭でどうにかしてまして……」


 たははとはにかんで誤魔化す忠政、それを俺が見逃すわけもなく。


「喝っ! 貴様それでも土地を管理する為政者か! 入る銭出る銭ぐらいしっかりと把握しておけ!」

「はっ! 誠に申し訳ございませぬ」


 そういって、忠政は床につくほどに頭を下げる。いやに堂に入った謝罪に、俺は大きくため息を吐き、面をあげろと口にし、


「……とはいっても、基準がなければ難しいというのも理解しているし、弾正忠の下につくということは以前とも治め方も変わるだろう。水野家の家臣たちが算術の自信がないのなら、天神領に人を出せ。俺がある程度の金勘定を教えてやる」

「十川様自らがですか!?」

「そのぐらい酷い報告書だと自覚しろ! うちの琴のほうがまだ綺麗にまとめるわ!」

「はっ! 家中の者へのご指導謹んでお願い申し上げます!」


 未だに認識の甘い忠政へ吼えた。





「学校ですか」

「うむ、源左衛門の家にいる丁稚も参加してかまわんぞ。天神領の子供は強制参加だが、周りの家の子供も引き受けるつもりだからな。授業料もいらぬ」

「……それはそれは、思い切ったことをしますな。知恵とは普通秘匿するものですが」


 大橋さんは訝し気に俺へ訊ねる。この時代では知識は囲んで外に出さないのが一般的だ、そんな相手に教えを乞うには金を積むのが基本だからな。


「生活する上での読み書きや算術などは秘匿するものでもなかろう。それらにこの国の歴史や実際の畜産や農業を体験させる時間も加えることで親の後を引き継ぐだけでなくどのような職にも就ける力を得させる」

「そこまで十川様がお教えになるので?」

「自在天神の使徒たる俺から教えを受けたと言えるならば、この地でなくても士官の道も開けるだろう」


 確かにそうですな、といって大橋さんは腕を組んで深く頷く。商人だけあって利に繋がることには頭が柔らかい。

 

「しかし、何故に今、その計画を実行にうつされるのです? しばし待てば、尾張の状況も変わりましょう」


 言外に大和守家を失墜させるからもうちょっと我慢したらと大橋さんが言っている。無論、横やりが入らないように考えるならその方がベストだろう、だが、肝心なことをわかっていない。


「甘いな源左衛門」

「なにがでございましょう」

「大和守家を下し、領地を広げるとする。管理は誰がやる? 大和守家の文官がそのまま仕えてくれるとは限らん、武官はともかく文官の不足は敵に懐を握られるのと変わらぬ。隣にその手の手回しが上手い今川がいることを忘れるな」

「ですが、今川の病に倒れた当主に代わり、新たに当主へ就任した嫡男は元服したばかりのまだ年若い者だと聞き及んでおりますが」

「アホ。代理で祖母の寿佳尼が辣腕を揮っておるわ。そうでもなくとも歴史がある今川家は文官も武官も層が厚い、今は表だって動いてはいないが隙を見せたらいくらでも領土拡充の動きを起こすだろうよ」


 結局のところ、織田弾正忠家は他のものが満ちていても人材が圧倒的に足りないのだ。これは領土を拡大していくうえで非常に打破しづらい壁となるのは間違いない。


「そこまで構想が固まっているのでしたら、手前からも津島の商家に声をかけて丁稚を参加させるように伝えましょう」

「助かる。尾張の地力を上げるのに数がいたほうがいいからな」

「そして、回りまわって我らの利益となると」

「こやつめ、ははは」


 俺と大橋さんが嫌らしい笑みで笑いあっていると、俺専用の畳敷きの応接室と廊下を隔てる障子の外から自来也が通る声で語りかけてきた。


「ご歓談中失礼いたします。兄御、少々問題が発生いたしました」


 奥歯になにか挟まったかのような物言いの自来也に俺と大橋さんは顔を見合わせ、俺は障子のほうへ顔を向けて自来也にその問題とは何か問う。


「その問題ってのはなんだ」

「信濃より、難民が流れて参りました」

「難民の対応は明文化して任せているはずだ、俺に聞くまでもなかろう」

「いえ、その、……彼ら難民の集団が真田と、名のっておりまして」


 俺と大橋さんは再び顔を見合わせるのであった。



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