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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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発展の一欠

 一五二九年(享禄二年) 一月下旬 尾張国 天神村十川屋敷 十川廉次


 寒い。三日ほど現代に戻ったことで休みボケしていたのか半袖でタイムトラベルしてしまった。六月の気候に慣れたでは、小氷河期における一月の温度にはすぐ対応できず、身体が凍りつきそうなほど寒い。またたく間に鳥肌が立ってしまう。

 バタバタとトラベル場所であるガレージの壁に掛けておいた防寒着を急いで纏い、酒場にあるキッチンに駆けこんで熱いコーヒーを淹れて貰う。


「廉次にーちゃん、お口真っ青だね」

「おう、クソ寒いからな。おまえもコーヒー飲むか、琴?」

「苦いからココアがいいなぁ」

「そうかそうか、琴にココアを一杯やってくれ」


 俺の大声に対して、厨房の奥からキッチン担当の恰幅のいいオバちゃんが発したあいよーの声が返ってくる。あのオバちゃん、今では自来也の料理の先生なんだが俺が天神村を作ったときから見ただけでも体重が十キロ近く増えているせいか、声の通りが屋敷にいる誰よりもいいんだよな……


「琴たちは今日は何をしているんだ?」

「さっきまで雪かきのお手伝いしてたけど、力丸おじちゃんたちが屋敷に帰ってあったかくしなさいって」

「そうか、雪かきの状況はどうだ?」

「道のほとんどは薄っすら積もってるぐらいになったよ。明後日には溶けて出歩けるぐらいになるんじゃないかなぁ?」


 志能便の里で仕込まれたのか、どうしてなかなか琴たちガキンチョーズの報告はそつがない。ぶっちゃけ、へらへら適当なことこいてる俺より理路整然とした言葉で会話ができる、琴ってまだ六歳なのに。

 そんな感じで琴とおしゃべりをしていると、何故か自来也がコーヒーとココアをもって俺の座っている席にやってきた。


「お待ちどうさまです兄御」


 流れるような動作で俺の前にコーヒー、俺の隣に着席している琴にココアの入った木製コップをサーブした。ついでに、お茶うけ代わりの練り羊羹が三切れずつ添えられている。


「今日は厨房の手伝いか?」

「いえ、雪かきをしていたのですが菊之助に休憩用の白湯を用意するよう頼まれまして。沸かしている間に兄御が戻られたので給仕をと」

「そっか、ありがとな。ああ、それじゃあついでに禊部屋にある袋に入れた荷物をもってきてくれ」


 俺の言葉に自来也はさわやかな笑顔で承知しましたと、軽やかな足取りで禊小屋に向かっていった。

 禊小屋とはタイムトラベルを行っている部屋である。別に名前なんて付けていなかったんだが、興味本位で覗くものが多かったために適当に近寄れない名前を付ける羽目になった。いつの時代も好奇心だけをもった奴は迷惑ばかりかけるものなのだ。


「廉次にーちゃん、今度はなにもってきたの?」

「薬と駄菓子と……あとは秘密だ。弾正忠たちへの贈り物だよ」


 そこまで聞いて深堀するのはよくないと思ったのか、琴はふぅんと呟いてココアを飲んでクピクピとかわいらしく嚥下する。

 子供の飲食をする姿からしか得られない栄養を補給していると、両手にビニール袋を抱えた自来也が酒場に戻ってきた。


「兄御、どちらに置きましょう」

「あー、ちょっと待ってな。角テーブルくっつけるから」


 円卓テーブルに座っていた俺だったが、そのまま持ってきたものを載せきるのは不可能であると察し、誰もいない二人掛けや四人掛けの角テーブルを引っ付けて即席の大きな置き場を作る。自来也はそこへ袋を置いてまだまだ残っている別の袋を取りに禊小屋へ小走りで駆けて行った。

 俺は駄菓子の入ったビニール袋をテーブルの上に広げる。琴は近くにあった椅子の上に飛びのって、俺が散らした駄菓子たちを視認すると、


「すごい綺麗! 廉次にーちゃん、これなに?」

「これがさっき言ってた駄菓子たちだ。ほれ、食ってみな」


 色とりどりの包装を見て目を輝かせたので、棒状のスティック菓子であるうめぇ棒の包装を一つ毟って適当に琴の口の中へ入れる。フレーバーを確認するとコーンポタージュ味のうめぇ棒だった。

 もがっと声にならない声をあげた琴だったが、口に入ったものが美味しいものだと気づいたのか、シャリシャリシャシャシャシャといった感じにうめぇ棒を齧り切り素早く頬に詰め込んだ。まるで餌を食らうリスのそれである。


「おいひい! がふっ」

「……ココア飲んで口の中綺麗にしな」


 唾液と絡んで粘土を持つようになった粉に咽る琴にココアを薦める。うめぇ棒って一気に頬張ると口の中でべしゃべしゃになるんだよな。琴へココアを飲むようにうながして、俺も一本ぺりっと包装を破って口に入れる。うん、明太マヨ味。


「あれ、廉次にーちゃんのアタシのと違う?」

「味が色々違うんだよ。琴が食べたのはコンポタ味、俺のは明太マヨ味。ほら食ってみな」

「ありがとー。……うん、ちょっと酸っぱい? 面白い味!」

「マヨネーズの酸味だな。唐揚げについてくる白いタレあるだろ、あれがマヨネーズだ」

「白兄ちゃんがほうれん草のおひたしでつけてたやつだ」

「通な食い方してんなアイツ」


 自来也の一風変わった味付けに琴と二人で笑う。白兄ちゃんとは自来也のあだ名のようなもので、自来也の自が白に見えることと頭髪が真っ白なので年下からそう呼ばれている。俺なら嫌なあだ名だが、本人は別に気にしていないようなので俺からはなにも言うことはない。


「にーちゃん、これ売るの?」

「……うーん、管理が面倒なんだよ。品物をもってくるのはいいんだが、どうしても金銭のやり取りが発生するから手間がかかる」

「じゃあアタシやりたい!」


 目を輝かせ、ふんすふんすと鼻息荒く宣言する琴。その姿を見て、俺は一度深く考える。

 正直、ギルドで購買設置案はありだと思う。酒場は夜遅くまで空いているが、それでも夜の二十一時には閉店してしまう。なので、酒場で管を巻いている連中はラストオーダー間際に大量の注文をするので以前からキッチン担当からどうにかならないかと相談されていたのだ。屋敷内に設置、もしくは周りの敷地は余裕があるのでそこに新店舗を構えればスタッフたちの負担も分散するはず。

 そして、何よりもの話なんだが、この村には商店がない。大口の取引は菊之助や十三郎がまとめるし、その他必要なものは俺に伝達が回ってきて揃えることになってる。これは村としてのあり方はかなり不健全だ。俺がいなくなると回らなくなるってのと同義だからな。今は無理だといえ、いつかは達成するために画策するのは村にとっていいことのはずだ。

 閑話休題、この村で一番暇なのは子供だ。俺が無理に働かせないように命じてあるからな。だから、職業訓練がてら店員をやりたいならやらせるべきではあると一考に値する。

 ……ちょうど駄菓子がある。せっかくだし、これを使って店のまねごとをさせてみるか。永楽銭が余っているからな。それらを天神銭から換金して一文菓子として売れば大した問題も起きないだろう。大人がついていてやる必要はあるだろうがな。


「わかった。琴にはお店を開いてもらおうかな」

「わーい! 頑張る!」


 この笑顔を見るだけでなんでも許しちゃいそうになるなぁ。



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