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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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買い物で札束ビンタ

 二〇二二年(令和四年) 六月下旬 愛知県 十川廉次


 ウダウダと天神伝を綴った後、十四時間も眠ってしまった。疲労は知らず知らずのうちに溜まっているからなぁ。

 休暇二日目の本日はちょっと遠出して珍しいものを購入しに行く。向かう先は名古屋市、愛知県下においてだいたいの物が購入できる場所だ。


 大金を得ているのに一考に買い替える気の起きない型落ち軽自動車に乗り込み、相変わらずのでこぼこ道でダンスしながら片道二時間かけて最初に訪問したのは猟銃や罠を取り扱っている阿蘇狩猟鉄砲火薬店。

 当然のことだが現代日本で鉄砲を手に入れるのは大変難しい。警察や自衛隊に勤める以外で入手するには猟銃免許を取得するぐらいしか正規の手段はない。俺は狩猟免許をもっているので購入できるのだが……銃というのは大変高価である。以前の経済状況では手が出せなかったのでもっぱら罠猟専門だった。

 だがだがだが! 今は違う! 戦国時代から輸入した金を売りさばいたおかげで左団扇なんだよこっちは! ゲヘヘ、ずっと昔から欲しかったブルーチェスター社の散弾銃、ラフレシアが買えるぜ。新銃なら百三十万もするけど今の懐事情なら余裕だもんね。

 店の隣にあるパーキングに駐車して店のすりガラスドアを引いて、世話になっている今年還暦を迎えた阿蘇お爺さんに挨拶をする。


「おっす爺ちゃん久しぶり」

「おやおや、本当に久しぶりだね廉次君」


 レジスターを置いたカウンターで足の長い椅子に腰掛けて老眼と闘いながら帳簿をつけている阿蘇お爺さんが、俺の顔を見ると破顔して挨拶を返してくれる。二十からの付き合いだからもう四年も世話になっているお爺さんだ。


「今日は罠のパーツを補充に来たのかな?」

「さすがにあわてんぼうの俺でも六月に準備はしないぜ爺ちゃん」

「備えあれば患いなしって言葉もあるよ廉次君」


 ふふふと品の良い笑みで笑う阿蘇お爺さんにつられて俺も笑顔になる。悪人面のえるめすの爺とはえらい違いだ。

 雑談を交わしながら、一番最初に訪れたときからまったく変わらない位置にある棚を目指して店内を歩く。もう少しで俺のずっと欲しかった猟銃が――――


「……ない」

「うん? どうしたんだい」

「あの、爺ちゃん。ここにさ、中古のラフレシア置いてあったじゃん? どこいったの?」

「あぁ、ラフレシアは三週間前だったかな。美人のお姉さんが現金一括で購入してくれたんだよ。だから、今ウチの店頭に置いてる散弾銃はバーグの型落ちとローニンのレストア品だけだね」

「おぅ……あー、ラフレシアって新銃は……」

「もう生産停止して八年経ってるから市場にもないだろうね。生産数自体多くなかったから中古も厳しいと思うよ」


 ですよねー、と自然と肩が落ちる。金があっても物はない、本当に欲しいものは無理してでも買えってのが世の中の基本法則だよなやっぱ。

 見るからに脱力する俺を見て、慌てた阿蘇お爺さんはバタバタとカウンターの中からカタログを取り出した。一生懸命にページをめくってなにかを調べているようだ。


「爺ちゃん?」

「ちょっと待っとくれね。……あぁ、やっぱりラフレシアは生産停止してるね。だけど使用上弱かったところをマイナーチェンジしたカスタム品はオーダーメイドでまだ作ってるところがあるみたいだよ」

「マジ!? 注文したいんだけど」

「そりゃ願ってもないことだけどね。トータルで百五十万円を超えるよ? 残念だけど前金で半額は必要だけど払えるのかい?」


 俺に心配そうな表情で老眼鏡を外しながら尋ねてくる阿蘇お爺さん。長い付き合いだから俺の懐事情をよく知ってるもんな。しかし、俺は今! 金持ちなのである! ぬるっと懐から結構な嵩のある封筒を取り出して、カウンターの上に置く。


「百三十万入ってるから確認してよ」

「……うん、確認したけども。このお金どうしたの。悪いことして集めたわけじゃないよね?」

「当然だよ、俺が人脈と頭脳を駆使して儲けたお金さ!」

「なら、いいんだけどね。人脈って言葉を前面に出す人間はどっかで大きくコケるから気をつけたほうがいいよ」

「……よく覚えとくよ」





 猟銃も注文できたウキウキの俺が次に向かうのは布問屋。今から向かう布問屋は倉庫を開放して直接仕入れたものを販売している店だ。小売りを挟んでいないのでかなり安いとネットでは評判らしい。

 そこで、戦国時代で入り用の木綿とコットンを大量に買い付けることにした。言い分けたけど同じものなんだが。

 この前の大雪で困ったのが寒さだった。新築したばかりの屋敷でもストーブをつけていないと凍えるほどに寒かったんだ、隙間風が通る村民の家屋など外と大して変わらなかっただろう。寒さが原因で風邪になられても困る。あの時代には医療機関がないんだ、たとえ風邪だとしても蔓延することで致命傷になることだって少なくない。だから、家庭に十分な防寒具を配布することで予防に勤めることにした。ウダウダと言ったが木綿とコットンで布団を作るってことだ。ギルドで募集すれば針子はいくらでもいるしな。

 と、いうわけで、俺は倉庫内の木綿売り場で近くにいた店員さんを捕まえる。


「すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「布団を二百枚作れるぐらいの木綿が欲しいんですけど……」

「……はい? 悪戯ですか?」

「いや、本気です」


 懐から猟銃店で出したものとは別の札を入れた封筒を取り出して店員さんに見せる。

 百枚を超える福沢諭吉に目を見開いた彼女は、俺に向けて少々お待ちくださいと言って駆け足でバックヤードに消えていった。

 うーん、現ナマで人を動かすのって気持ちいい……



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