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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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大雪

 一五二九年(享禄二年) 一月中旬 尾張国 天神村十川屋敷 十川廉次


 正月が過ぎ去り、天神村を襲ってきたのは三日連続の大雪だ。山の上と連絡が取れず、あばら家ばかりの天神村の家々も凍えるほどに寒い。温度計を確認すると気温はマイナス四度、対策しないと死ねる温度である。


「自来也、備蓄は?」

「菊之助に確認してもらっていますが、この程度では問題ありません。各家には外に出ないようにと伝達し、着火窯≪ガスコンロ≫を使用して煮炊きをして凌ぐようにと指示しました。それでも耐えられそうになければ天神屋敷まで逃げてくるようにとも」

「結構、当座の動きとしては十分だろう。酒場では一日を通して石油ストーブの火を絶やすな。誰がいつこの屋敷に逃げてくるかわからん。収容人数が限界を迎えない限り、誰が来ても収容を拒むな、いいな?」

「承知しました。……山上の牧場を確認には行かれないのでしょうか?」

「今は無理だ。俺はここに残って指揮を取らねばならん、だからといってヘタな人間に山を登れと言えば遭難は必然。……安心しろ自来也、山の上には食料も燃料も暖房器具も揃えている。家禽は死んでも人は死なん」


 俺の言葉に自来也はコクリと頷いて、あらかじめ避難してきた村民に配るスープをキッチンへと取りに向かった。

 当然ながら、山の上の牧場責任者である黙阿弥も他の従業員と共に牧場に取り残されたままである。身内である自来也が過度に心配するのも無理はない、一度は死に別れたと思った大事な身内だからな。


「十川様、ポンプの取っ手が凍って井戸が使えませぬ」

「ちっ、水圧ポンプ式にしたのはこういうときに不利に働くな。……備蓄の水を出していい、なんなら使い切るつもりでな。スープ……避難してきた村民に振舞う羹の中身は決めているか?」

「はい、といっても保存肉と干し大根だけですが」

「そこに米も加えて雑炊にしろ。弱った身体で腹が減ればそれだけで死にかねん」

「承知しました」


 キッチンで世話しなく走り回っているスタッフから報告を受けて指示を飛ばす。この雪が明けたら専用の避難所を作るべきだな。勘定係の十三郎に見積もりをだしてもらおう。





 三日続いた大雪は四日目には去り、澄んだ空気と共に青空がやってきた。しかし、村の中は信じられないほど積もった雪で酷いことになっていた。雪が脛のところまで来ているのだ。


「こんなに積もったのは初めてだなぁ」

「……そうか。みな、もう帰宅してよいぞ。しばらくは雪も降るまい、家に異常があれば教えることと周りの家の様子を見ておいてくれ」


 俺の言葉に避難していた村民らは空答えをしてドヤドヤと屋敷の外に出ていく。とりあえずはやっとゆっくりできるな。

 そう思っていると、自来也が白湯をもってきてくれたので酒場のテーブルに座って一服することに。すると、張りつめていた空気が緩んでいくのを感じたのか、屋敷内で働いていたスタッフが各自休憩を取り始めた。衆人環視の中でずっと働いてたからな、みんなお疲れさんだ。


「三日間ご苦労、今日は全員休みとする。各自の家に帰り休むもよし、適当に食事をして仮眠所で寝てもよい」


 ちなみに仮眠所とはこの村に来たばかりのときに仮宿であった例の家である。

 俺のテーブルの対面に座っている自来也も休みの言葉にソワソワしているので、山上の牧場にいってもよいと許可を出す。


「ありがとうございます!」


 バタバタと自室に消えていく自来也。よほど黙阿弥たちの状況が気になるらしい。ああ見えて賢い子だ、アホなことはしないだろうが逸って滑落などされても困る。誰かフォローについてくれないかと辺りを見渡すと、俺の視線に気が付いたのか志能便では二番目に年長の駄衛門が俺の傍にススッと音もなく近づいてきて、


「あっしが自来也坊のことを見張りましょう。なぁに、ちいと山の上まで散歩するだけです危険なんてありませんでしょうや」

「……頼んだぞ駄衛門。夕食に一杯つけてやる」

「そいつは役得だ! うんときつい奴をお願いしますよ」


 駄衛門は俺の言葉にルンルンとスキップをしながら戸口の外へ駆けて行った。自宅で山登りの準備をするのだろう。先に自来也が出かけることになったときには足止めしとかないとな。





 時間をおいて集まってきた情報は困ったことに大雪の被害は酷いものだった。死人こそ出てはいないが、家自体が潰れた被害が七件に寒さで感冒、つまり風邪になったものが多数。それに加えて村の一角にあったビニールハウスが雪で壊滅。うーん、被害甚大。人が死んでないだけまだましかと切り替えねば。

 しかも、これは天神領だからである。尾張、三河、駿河、近江も多少量が変わるとはいえ同様の大雪が降っており、死者がかなり出ている。史実において一五二九年に近江でまともに戦がなかったのはこの大雪が大きな原因ではなかろうか。


「十川様、お寒ぅございましょう。ささ、火におあたりくだされ」

「いや、まだ雪かきしだしたばかりなんだが……」


 雪かきに人の手が取られ猫の手も借りたい状況なので俺も雪かきに参加しているのだが、逆に周りに心配されて手を止めさせてしまっている。これが神輿ゆえの苦悩か。黙って監督官になることにする。

 マンパワーとは素晴らしいもので、朝から始めた雪かきは既に大まかな道路を覆っていた雪を排除し終えていた。地面がアスファルトじゃないので雪が溶けやすいってのも大きな要因ではあると思うがな。この雪かきには給与を出している、賦役ってのは無給が基本で天神村みたいに給与を払うのは珍しい。本来なら俺も払うつもりはなかったんだけども週の半分も雪で潰れて仕事ができずに生活が苦しい奴も多い。特にこの村には独身の男が多く、明日のことなんて考えてない奴ばっかりだからな。飢え死にされると困るのでいやいやながらも金を放出した。しかし、この金は天神銭でなく永楽銭だ。しばらく大量の人数を雇うことになるので全てを賄えるほどの天神銭は用意できない。


 それにしても、天神領の南側にいる孫三郎たちは大丈夫だろうか? 天神村と違って備蓄が潤沢にあるわけではないからな……



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