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戦国天神伝~神騙りスローライフ~  作者: 菅原暖簾屋


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つみき

「お、夫!? 旦那ってことですか!?」

「配偶者とも言いますね」

「言い方の問答してるんじゃねぇんだよ別に!」

「佐那の父方の祖母でもあります」

「おっおっおっ……」


 見た目二十代の女性に手を出すって、爺お前さ。


「結婚したのは今から五十年ほど前、彼が二十九の時分でした」

「……なら別におかしくないのか? あ、やべぇ。混乱してきたわ」


 眉間を揉みながら年代で足し算引き算を繰り返していると、ジャンヌさんが嘆息して続ける。


「私のことなどどうでもよいではありませんか。重要なのはアナタがそのノートで時渡りを完全継承するということ。

 そして、その恐ろしさをアナタにお教えしなければなりません」


 そういうと、ジャンヌは鞄から小ぶりのナイフを取り出して素早く首元を掻き切った。


「Nooooooooooo!!」

「何故リアクションが欧米チックなのですか」


 ガッツリと血を流しながらケロッとした表情でジャンヌさんが俺のリアクションに指摘する。いや、それよりも止血を。


「あれ? 血が……」

「ご覧いただけましたか? これが時渡りの代価です」


 ジャンヌさんの首元は血で汚れてはいるものの、既に出血は止まっており、深く切り裂いたはずの切創は塞がっていた。

 異様な光景を目にした廉次はSANチェック。


「時渡りで自らが存在すべき世界から移動した者は世界から嫌われ、老いず死なずの呪いに犯されます。刑死する寸前のところを久様に助けられた私は、十九の肉体のままに長年この世界を漂うことに」

「へぇ、そりゃ大変だね! 血が畳につくからタオルタオル!」


 ジャンヌさんが死なないなら俺は畳に血が付く方が気になるよ! ドタバタと洗面所からハンドタオルを取ってきて彼女に投げ渡す。

 俺のそんな態度が可笑しいのか、彼女は首元を押さえながら大口を開けて笑い出す。


「妙なところで現実的なのは久様そっくりですね」

「そりゃ何十年も一緒に暮らしてたからな! あー、ちょっと畳に血が付いちゃったじゃんかもー!」


 雑巾で血の付いた畳をポンポンと叩いて染み抜きをする。うーん、綺麗に取れない。


「廉次様はどちらの時代に時渡りされているのです?」

「ちょっと今世間話してる場合じゃないから!」


 血が滴ってるから喋るな!







「夫から金の買取を依頼されたことでピンときまして」

「あー、あれを買い取ってくれたのはジャンヌさんだったのか。その節はどうも」

「いえ、私は指示を出しただけですから」


 自決騒動でドタバタしてしまったが、彼女の人生を聞くとなかなかに破天荒な人生を送ってきたらしい。

 まず、ウチの婆さんに助けられてこちらの世界に来た後、ブローカーをしていた爺を通して日本の戸籍をゲット。そのまま婆さんの薦めで爺と婚約、子供を三人授かって日本で暮らしていたが、主への献身を捨てることができずに単身フランスへ旅立つ。

 あちらで平和への貢献をしつつ、色々と裏で準備をして起業。世話になった婆さんの手伝いをする準備をしていたらしい。だが、婆さんは再びタイムトラベルをすることはなく、準備のために広げていた事業が当たりまくった結果、建てた会社はフランスでも有数の大企業に。現在は会長として会社を操っているとのこと。

 そして、俺が金を爺に売りつけたことで婆さんの身に何かあったと察したらしく緊急帰国。葬儀も既に済んでいたことにショックを受けたが、爺が婆さんから手紙を預かっており、そこには自分のことなど忘れて生を楽しんでほしかったやらどれだけ離れていても友達なんてことが書かれていてジャンヌさんは感涙。命を賭しても孫である俺のことを手助けすると心に決めて今日訪れた。これが真相。

 うん、史実通り。思い込んだら一直線のタイプみたいだな。ヤンデレともいう。


「我が社は爪楊枝からミサイルまで、様々なものを取り揃えておりますわ! 是非ともご用命の際はこちらの番号に!」


 そういって、彼女は俺の目の前で電話をかけた。それが俺のスマホに着信する。俺が教えたわけじゃないので爺が既に教えてあったみたいだ。

 ようやく恩を返せると思っているのか知らないが、鼻息まく彼女に俺は告げる。


「金の買取には手を回して貰うかもしれないけどさ。俺は俺の力でタイムトラベルを楽しむよ。婆さんと違って誰かを助けているわけじゃないし、ジャンヌさんの力は極力借りない」

「何故です? 力があれば楽に十川王国でも築けますでしょうに……」


 十川王国って何!? やっぱ危険思想抱いてるってこの人。


「あのさ、こういうのって自分の考えで積み木を積んでいくのが楽しいんだよ。

 俺は婆さんじゃない。助けたい奴もいなければ、あっちで大軍を率いたいわけじゃない。手の届く範囲で遊びたいだけなんだよ。いわばスローライフってやつ」


 俺の言葉にジャンヌさんは口を開いて硬直し、数秒ほどして再起動した。


「なるほど。積み木は積むのが楽しい、ですか」

「出来上がったもん貰っても見るしかできないからな。どうしても力が必要になったときは金払うから手を貸してくれ」

「……承知しました。いやはや」


 ジャンヌさんはククッと声を殺して笑う。何かおかしいことを言っただろうか。


「久様にも昔、同じことを言われたことを思い出します」


 そら、血を分けた身内ですから。





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