宴会準備・前
二〇二二年(令和四年) 六月頭 十川廉次
鳥肉パーティでたらふく肉を食った後、屋敷に戻って現代に帰還した。
蒸し暑い。冬真っただ中の戦国時代から帰ってきたら夏の気温がお出迎え。風邪ひいちゃうよ。向こうで来ていたダウンを新たなタイムトラベル場所の新築ガレージに投げ捨てて母屋に戻る。
片道数分の母屋への道を歩きながら、戦国時間で明日に控えた推定・織田信広君誕生おめでとう宴会の準備に必要なものを考える。
まず、飯の準備はいる。おそらく宴会には毒見の関係で冷めても食べられるものしか出てこない。それに肉がない。これはほぼ確定。クソマズイ飯食いながら宴会なんてとんでもねぇぜ。あとは贈り物か。御使いを自称する俺の贈り物がショボいと天神様にミソがつくからな、名前を借りている以上全力を尽くさねば。
それ以外は……。遊び道具か。酒飲んでウダウダするだけじゃつまんねぇし、トランプやらリバーシやらも城に持ち込もう。
待て、荷駄運びのことを考えないといかん。あまりに持ち込みすぎると連れていく信秀から借りている兵の手が埋まってしまう。
「むぅ、悩ましい」
織田の駐留兵士は十人、俺の警護がメインだから数は少ない。城までの荷運びをギルドで雇うとして十人ぐらいか? 折りたたみリヤカーを十個ほど買っておくか。今後も使うだろうし。
母屋に到着して勝手口に靴を脱ぎ捨て、勝手口すぐ横にある冷蔵庫の麦茶を紙コップに注ぐ。独り身だから洗い物を増やしたくないので紙コップは役に立つ。一息に飲み干して再び麦茶を注ぎ、それをもって最近の作業スペースとなっている居間のノートパソコン前に座る。
ノートパソコンのスリープを解除し、文書作成ソフトを起動する。必要なもののリストをまとめるぞ。
まず、さっきも挙げたリヤカー。ゴム付きのをいつかは持って行かなくちゃなって思ってたので丁度いい。行きつけのメガミスモで注文しよう、あとで店舗に向かうからその時に忘れないように注意。
次に贈り物。赤ちゃん用品がベストだと思うんだよな。産着とか、粉ミルクとか、ベビー用品店で見繕うことにする。プロの店員さんに聞いた方が絶対いいし。お母さんには……、そうだ、駅前に綺麗な琥珀糖を売ってる店があるから、それをプレゼントしよう。
そして、重要な料理の食材。厨番に無理言って俺も作らせてもらおう。いやぁ、権力乱用は気持ちいいね! 作る料理は中華料理。大人数で食べるならやっぱこれだよな。
メニューは酢豚・清蒸石斑魚・焼売と小籠包・八宝鴨・卵炒飯と鴛鴦炒飯ってところか。あ、大皿に盛り付けて取り分けるからそれも用意しないとな。……食材と皿で結構なリヤカーの容量を食いそうだな。折りたたみリヤカーって意外と物が載らないんだよな。
赤ちゃん用品、食材、それと調理器具。これで五台は使うと見たほうがいいか? 机上の空論じゃ埒が明かんな。食材以外は腐るでもなし、まずは買いに行くか。
◇
「こんちは。折りたたみリヤカー十台ください」
「じゅ、十台ですか!?」
大型ホームセンター・メガミスモのサービスカウンターで予約注文しようとしたらものすごく慌てられた。そりゃそうだ。俺も飛び込みでリヤカー十台くれって言われたら混乱する自信があるわ。
「あの、確認はしてみますが、在庫があるかどうか……」
「メーカーは問わないのでとりあえず揃えてもらっていいですか。折りたたみだけでお願いします」
サービスカウンターのお姉さんが苦い顔で承知しましたと言って、サービスカウンター奥にあるノートパソコンをポチポチし始めたので店内をぶらつくことにする。
そうだ、園芸コーナーで春に蒔く種を見学しよう。……って、現代は六月なんだから春蒔きの種はもう置いてないよな。特殊な時差ボケにかかってるなこりゃ。
園芸コーナーへ歩を進めていたが途中で踵を返す。代わりにペットコーナーやDIYコーナーを覗いてみるも、これといったものは目に入らなかった。この手の物って必要に応じて買うもんだからなぁ。
そのままふらりふらりと陳列棚を順に見ていると、玩具コーナーであるものを見つけた。サッカーボールである。
「サッカー……。レクリエーションでやる予定のトランプやリバーシもそれだけでは合わない奴らもいるだろうし、……体を動かす道具も買うか」
日本のサッカー協会公認のサッカーボールを三つ抱えて、近くに配備されていた大きめのショッピングカートに置く。そうだ、ビブスやらカウンターやらいるわ。……いや、そもそも信秀の手下連中は直垂で来るよな。サッカーなんてできないのでは?
めんどくせぇ。洋服一式古着屋で買って、靴下と靴も結構なサイズを揃えてやるわ。