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鋳物師と水鳥牧場

 鋳物師の親方に頼んだ兵器。それはもちろん鉄砲だ。

 一五四三年、種子島にポルトガル人が漂流し鉄砲が伝来した。それを十五年も早く先取りして鉄砲を作成した。この世界の未来じゃ俺が外国人扱いされるかもな。


 親方に制作してもらった鉄砲はボルトアクション式のライフル銃。制作してもらったといってもパーツ自体は主要部分を俺が金属加工できる3Dプリンターで作成して、ライフルリングを掘り込んだ銃身などのデリケートな部分はコイン制作会社の伝手を辿って加工してもらった。親方の担当は主に組立と修理の仕方を確認することだ。

 弾丸は狩猟免許を持っている俺が現代で購入するので問題ない。いや、買いすぎると公安とか飛んでくるから気をつけないといけないんだけどな。


「試射はした?」

「はい、弟子が的を相手に。三発撃ち、一町ほど先の的に命中しました」


 あー、スコープつけてなかったらそんなものか。今度はスコープを持ってこよう。

 とりあえず、自衛の装備はこれで確保できたってことで村の安全は一安心していいか。これから親方にはライフルの量産に入ってもらう。この村って四方に砦とかないし、野盗とか出てきたら逃げ場がないので命がけで戦わないといけないからライフルを確保できたのはデカい。

 古典的な黒色火薬で飛ばす鉄砲なら現代で金属加工を発注すればいくらでも生産できるし、足がつかないこの時代でライフル銃をちまちま生産するほうが都合がいい。


「それにしても、資料を見たときは想像がつきませんでしたが恐ろしい兵器ですね」

「天の国じゃこれが出てきて戦の死人が倍増したもんさ」


 親方から手渡されたライフル銃を構える。ストックの当たりもよし、銃身も曲がっていない。綺麗に組み立ててくれているね。


「部品はまだあるよね? 一つ組み上げるのにどれぐらいかかりそう?」

「細かな部品の調節だけですので三日に一つはできるかと」


 旋盤なんてないから組み上げるだけでも結構かかるんだな。


「わかった。それで、もう一つの方は?」

「大筒はどうにも炉の温度が足りぬようで……」


 大砲は厳しいと。あんまり大っぴらに炉を組むのは攻められる可能性が増えるからやりたくないんだよね。信秀が勢力拡大したらしれっと仕組みを教えて作ってもらうか。

 冷静に考えたら、俺が城攻めするわけないしな。自衛用のライフルだけでも十分だわ。

 

「よし、お疲れさん。後で給金を渡すから酒場まで来るように」

「はっ。ありがたき幸せ」


 親方に酒場まで金をとりに来るように伝えて足早に水鳥小屋へ向かう。ずっと外で喋っていたので身体が冷えてきた。俺はジョギングがてら小走りで駆けだした。







「待たせたか?」

「いえ、久方ぶりの愚息との会話を楽しませていただきました。ご配慮いただきありがとうございました。勝手ながら自来也は他の志能便と罠の見回りに向かわせております」

「さよか。あいつの息抜きになるならそれでいい。それじゃあ水鳥牧場の今を見せてもらうぞ」

「はい。それでは小屋の方から――――」


 かつて俺が占領していた山の社付近は大きく手が加えられており、今では四軒の建造物が建てられている。

 一つは黙阿弥たち水鳥牧場の管理をしているスタッフの居住区。生き物を管理している以上、彼らには簡単に牧場を離れてもらうわけにはいかない。しかし、山の上はとても寒いので、現代の断熱材やモルタルなどを使ってなるべく快適な生活が送れるようにした家になっている。実際、彼らからの評判はとてもよい。村だって俺の屋敷以外は隙間風が凄いもんね。それに比べれば天国だよな。

 次、一番大きな倉庫。そのまんま倉庫である。羽毛を運ぶための黒いポリ袋だったり、狩り用の罠だったり、自衛用の槍なんかもここに置いてある。

 三つめは水鳥小屋だな。アヒルは鳴き声がうるさいから防音を考えた作りになっている。また、直通で水辺に出られるように柵で囲って道を整備していて、結果的にかなり手の込んだ畜舎になっている。

 現在の水鳥、アヒルの数は百五十を超えているらしく、そろそろ大きく〆数を増やさないと小屋がパンクすると先日報告を受けた。今日の視察はその判断がメインだ。

 最後に、解体小屋。ここは〆たアヒルの羽根をむしり、精肉にする作業場だ。先ほど訪れた食品加工所で鹿や猪は肉にするので、基本的にここではアヒルしか解体しない。道具もそれ用の物しか揃えていないしな。

 ちなみに解体が一番上手いのは黙阿弥である。俺が教えた手ほどきを一発で覚えて綺麗に解体する。というより、既に俺よりコツを得ている。一族の棟梁ともなると何事も器用でなくてはいけないのだろうか。


「〆る数を増やす以外に問題はなさそうだな。黙阿弥、お前から言いたいことはあるか?」

「そうですな、卵を酒場に持っていく際に割れてしまうのをどうにかしたいぐらい、でしょうか」

「あー、わかった。今度その対策道具を持ってこさせるわ」

「ありがたき幸せ」


 いちいち平伏するなって。本当にめんどくせぇなこの風習。

 卵の運搬に関してはスケーターを百均で山ほど買ってくればいいだろう。今の籠に詰めて運ぶスタイルよりは全然割れる心配は減るはず。

 あぁ、食品加工所でもあったが、水鳥牧場でも確認しておかないとな。


「そういえば、食品加工所であったことなんだが、黙阿弥たちは〆た鳥を食べたことはあるか?」

「いえ、ございませぬ。鳥は御使い様の所有物ですので。同じように卵も」


 あー、清廉潔白だこと。一匹二匹ちょろまかして貪ってもバレないってのによ。

 仕方ない、この意識から変えようか。俺の物じゃなくて、村の財産の一部だから適当に食っていいよって教えないとな。


「よし、肉と焚火の用意をしろ。ガスコンロじゃないぞ」

「はっ。どれほど仕込みましょう。二羽ほど食べられますか?」

「お前ら全員の分だよ。皆で食うんだから」


 黙阿弥が口を開いてポカンする。予想外か? 主と一緒に飯を食うなんてありえない身分だったろうしな。

 水鳥は解体せずに熟成させて牧場に保管してある。〆てすぐじゃあまり美味しくないからな。


「そうだ、ついでに自来也に水鳥の捌き方を教えるか。あいつには色んな経験を積ませてやりたい」

「……そうですな、しばらくすれば戻ってきましょう。それまでは我らが処理を」

「おう、俺も久しぶりに解体やるかぁ」

「それはそれは、是非とも御使い様の神技を郎党にお見せください」


 久しぶりの鳥解体だ。腕が鈍ってないといいなぁ。



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