騙りの後の飯準備
一五二八年(大永八年) 五月末 尾張国 十川廉次
「うぃーっす。お疲れー」
着色した髪を風呂場で落として、カラーコンタクトを外し、一日家でゴロゴロした後に社に戻ってきた。白ランはめんどくさいのでやめ、今はTシャツにジーパンのラフなスタイルである。
社の外に出ると、信秀と大橋さんは驚愕の表情を、自来也と孫三郎は安堵の表情を浮かべた。
「おお! 戻ってきたか十川!」
「御無事にお帰りになられて本当によかったです」
「自在天神様が手下の俺を殺すわけないんだから安心しろっての、まったく……」
実は俺のことを本気で心配してくれてたみたいでちょっと嬉しい。
「そっちが弾正忠と源左衛門か」
「いかにも、某は織田弾正忠信秀と申します」
「某は織田家家臣の大橋源左衛門重一と申します」
「もう一回名乗ってもらって悪いな。自在天神様に降りてもらってる間は夢を見てるみたいにフワフワした感覚で覚えてることが少ないんだわ」
なるほど、と織田家三人と自来也が頷き合っている。神に謁見したことで連帯感みたいなものが生まれたのだろうか。
ともかく、俺以外は腹が減っているはず。こんなに天気もいいんだからレジャーシートを敷いて食事にしよう。
「とりあえず腹減ったろ? 自来也、お前はガキンチョたちを呼んで来い。孫三郎はレジャーシート敷くの手伝え」
「はい、すぐに呼んできます」
「兄上と源左も手伝ってくれや」
◇
「チャーハン作るよ!」
「茶飯……?」
俺のいきなりのボケについてこれない信秀。大橋さんはニコニコ笑ってるし、孫三郎と自来也たちはまたいつものかぐらいの反応だからツッコミは君だけだ。頑張って反応してくれたまえ。
自来也たちに頼んで社の裏手にある業務用のガスコンロを、レジャーシートを敷いてある社正面に持っていく。俺は小型のプロパンガス担当だ。
「見たこともない品物だな」
「孫三郎はこれの小さいやつ見たことあるぞ。あの火が勝手につくやつ。あれの大きいのだコレ」
「あぁ、確かに見たことあるな」
スペアリブ燻してるときに孫三郎は触ろうとしてたもんな。
ガスコンロを設置し終えて、チャーハンの材料を取りに現代へ帰ろうとしていると、ガキンチョたちがレジャーシートから離れた場所で固まっているのが見えた。
孫三郎は大丈夫なんだが、信秀と大橋さんが怖いんだろう。とはいっても、こればっかりは克服するしかないからな、俺にはどうにもできない。
そうだ、苦手をなくすには共同作業が一番!
「弾正忠と源左衛門、せっかくこのような山奥まで来たのだ、釣りでもやっていけ。
自来也、琴、菊、清、月、雪、華、全員でお魚をいっぱい釣ってこい、いいね?」
俺のその言葉にガキンチョたちは目を輝かせる、昨日の釣りがよほど楽しかったのだろう。
「釣りか、遠い昔に親父と二人で行ったきりだな」
「私は手が空いた時は津島でゆるりと糸を垂らしておりますので、若様よりも上手な自信はありますぞ」
あ、信秀の蟀谷に青筋が。
「よういうたな、自来也とやら早々に案内せい!」
「ほっほっほ、参りましょう自来也殿。お嬢さん方も一緒に」
なんか勝手に火をつけ合ってるわ。一種のじゃれあいか?
「じゃあ俺も一緒に……」
「孫三郎、テメェは俺の手伝いだ」
「じゃよなぁ……。俺だけ名前呼ばなかったもんなぁ……」
俺一人で準備するの寂しいから、ちったぁ手伝ってもらうぜ。