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6話 お手紙配布作戦

「で? その方法とやらを聞かせてくれる?」


 今、双子と私は違う商人の荷馬車を使わせてもらい山を越えようとしている。この商人もまた双子の伝手だ。あの商人のお使いで単独行動していると言えばあっさり信じた。まあその内あのあたりの惨状は伝わるだろうから、これっきりだろう。


「イルミナルクスとコロルベーマヌは取引してた」

「帝国も」


 お願いすれば聞き入れてくれる物流ルートがあるらしい。確かに手紙程度、顔見知りなら受けてくれるかな。取引相手だとか言えば信憑性も増すだろうから適当に嘘を交えておこう。うん、嘘をつくの前提にしてるあたり中々私も性格悪いわね。


「学院二つは?」


 ないらしい。ならこの二つは自分の力でどうにかしよう。

 商人の伝手というのは本当に助かるもので、夜に馬車を動かす一団にお願いしていれてもらえれば、寝る場所が確保できる。

 伝手を使い続けてイルミナルクスに入った。

 ここで高爵位界隈で取引をしている商人にお願いして手紙をアチェンディーテ公爵に届けてもらえるという。途中揉み消される可能性もあるけど、商人には信用問題もあるしアチェンディーテ公爵とパイプを持ちたい商人も多いからいけるだろう。

 ちなみに公爵、帝国にいるかと思ったら祝い事で一時的にイルミナルクスにいるらしい。祝い事だと結婚かな? 本編ヒーロー・サクが生まれるのがフィクタが十四歳の時だ。今から八年後であればなくはないだろう。結婚じゃなければ婚約かな? 時期的にも申し分ない。


「イルミナルクスの次は学院二つね」

「分かった」


 移動の間で知り合った商人の名前と伝手を使いグレース騎士学院とテンプス・モーベリ貴族院に向かう。

 ここは姑息だけれど郵便屋を待ち伏せし、私がうまいこと注意をひきつけてその間に郵便物の中に紛れ込ませる手段をとった。直接行ってももらってくれそうだけど顔を知られるのもリスクがある。郵便屋が学院に入るのを確認してから立ち去った。


「で、次は帝国を通り越して南端の港町ね」


 中々の遠出だ。

 ずっと荷馬車に揺られているから身体も痛い。やると決めたのは私だし双子は黙って耐えているのだから、こんなところで諦めるわけにはいかないわね。


「お、ヴャワんとこの双子じゃねえか」

「ヴャワはどうした?」


 南側へは高頻度で進出していたらしく、双子を見るや否や声をかけてくる商人が多い。いずれも友好的だ。あの男はかなり双子を虐待してる節があったけど、外では奴隷として扱ってなかったらしい。確かに身なりはしっかりしてたものね。

 あっさり手紙を届けてもらえることに成功し、帝国に行く荷馬車に乗せてもらってる時、ふとした雑談をふってみた。


「貴方たち名前は?」

「ない」


 つけてもらってなかったという。それ以前の名前も記憶にないとか。まあ奴隷扱いされてる人間に名前がないなんてのは割とある。


「名前はあった方がいいわよ」

「……つけて」

「?」

「名前、つけて」


 なぜそんなに期待値高めでお願いしてくるのだろう。あんまり関わらない方がいいのは今更だ。二人がフィクタから離れ自立して生きていく為には名前は必須。なんなら後々誰かに変えてもらえばいいだろう。


「フリーゴス、カロル、かなあ」


 掌を指して示す。

 きょとんとした顔をしてたけど、理解したら嬉しそうにした。互いに呼びあってる姿は和むわね。

 気軽に変えてちょうだいと言うと嫌だと拒否された。よくわからない。


「名前」

「ん?」

「君の、名前は」

「ああ」


 名乗ってなかったわね。隣の集落故に互いに顔は見たことあったけど、会話なんてしたことなかったし。


「……フィクタ」

「フィクタ?」


 悩んだ挙げ句偽名の方を選んだ。たとえ本名ですごそうとも物語に影響はないだろう。ただ西側の地から離れる時、名前が違うことで追跡のリスクをより回避できると思った。本編ヒーローが本気だしたら私は確実にバッドエンドだろうけど。逃げてもあっさり捕まりそうだな。


「おーい、帝国についたぞ」

「ありがとうございます」


 よし、問題はどう届けるかだ。

 商人の伝手でも城の中に入れる人間はいなかった。裏から入るにしろ表からにしろ騎士が見張りでいる。侵入せずに手紙をいれるにはどうしたらいい?


「郵便やさんとこに紛らせてもはじかれそう」


 間違って皇帝に届いても困る。確実なルートがほしい。


「……あ」

「どうしたの?」

「なにも主要キャラ宛にしなくてもいいんだわ」

「どうするの?」

「レクツィオ宛にしましょう」

「誰?」


 ユツィは騎士学院すら入っていない。ソミアもまだ実家。皇子宛は回避したい。皇弟派で渡しやすい人物で浮かぶのはレクツィオあたりになってしまう。けれどレクツィオがいるかすら危ない? 概ねソミアが四歳の段階だ。レクツィオが既に下働きとして入城しているかはわからない。小説に明記されてなかったから。

 ……ここは賭けだな。

 残念なことにシレの庭師と執事の名前が思い出せない。あの二人も恐らくシレ幼少期から第三皇子派として側にいるはずだ。年齢的にはレクツィオよりリスクがないのに、こんな時に思い出せないなんて悔しい。


「けど早くにやるしかない」


 他の場所に届いていることを前提にするなら同時期に届かないと情報の行き違いが起きる可能性もある。それに情報を手にした上で耳に入ってあれ? となったほうが話がしやすいはず。


「レクツィオ宛にしよう」


 学院同様、郵便屋の注意をひいて手紙を混ぜこんだ。あとはどうなるか。

何度でも繰り返す! 今作のヒーローは双子ではない!

いやもうこの懐き方は恋だろと思いつつも、恋愛するのはヒーローだけですと断言しておきます(笑)。


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