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53話 エールが好き

「……エール」

「フラ」


 迷わずサクとクラスの後ろにある窓を開けて飛び降りた。

 何階であろうと魔石で着地は緩和できる。仕方がない。このまま森に出て撒いた後、イルミナルクスへ向かおう。東に出れば土地勘はあるし、私に分がある。


「フラル!」

「早っ」


 視界に映るレベルで追いついた。同じように飛び降りてきたわね。エールにしては珍しく全速力で追いかけてくる。タチが悪いわ。


「フラル、話を」

「特にないわよ! このままさよならってことでお願い!」


 ぎりっと歯の根を噛んだ音が聞こえた気がした。


「絶対に嫌です」


 地の底から這うような声音。当然怒るとは思っていたけど。


「仕事、中途半端なのは謝るから」

「そんなことどうでもいいです」


 全然距離が開かない。山の中なら私の方が走るの有利なはずなのに、エールってばなんで走りに慣れてるわけ?


「国家連合はサクたんがどうにかするから」

「そこもどうでもいいです」

「あー……巻き込んだの悪かったわよ」

「なにを?」

「え?」


 十中八九、直近の大怪我の話なのに思い当たらない? なんなの?


「ああ……あの襲撃ですか」

「そうよ。責任とってエールのこと治したから、さっさと帝国に戻ってよ」

「成程」


 なんだか勝手に納得された。解せぬ。


「私のことはほっといて!」

「それは無理です」

「わぷ」


 追いかけられてたのに目の前にエールがいた。うっかり彼の胸に飛び込んでしまい、すぐに離れようとするも、がっちりエールが抱き込んでくる。


「な、」

「回り込んだだけですよ」


 すごいスピードでね。お土産に魔石なんて置いてくんじゃなかった。身体強化を限界までしたのね。


「怖くなりました?」


 お見通しな感じがして恥ずかしくなった。

 振り払おうと珍しく全力を使う。今まで似たことがあっても大して抵抗しないまま受け入れてたから今回はエールも少し驚いている。でもこのチャンスは逃さない。絶対逃げ切る。


「離して!」

「ま、って、」

「嫌よ、今すぐ」

「本当、待って」

「あ」

「っ!」


 暴れすぎたせいでバランスを崩してエールまで巻き込んで倒れてしまった。こんなとこまで巻き込みたくないのに。芝生がふかふかであまり痛くなかったのが幸い。


「フラル」


 逃げようとする私の両手を掴んで、私の身体を足の間に挟んで馬乗りになって拘束してきた。

 なにこれ、芝ドンは流行らないと思う。色気もときめきも全然ないもの。


「ぐぐぐ」

「抵抗したって離しませんよ」


 この頑固ものめ。


「フラル……ああもう本当」


 泣いてもいないのに顔がぐしゃぐしゃに歪んでいる。


「心臓止まるかと思いました」

「ステラモリスの山越えで?」

「話を逸らさないで下さい」


 確かにこの短時間でよく越えたわよねとは思った。話は逸らしたかったけど思った感想としては嘘ではない。そもそも治したばかりなのに。


「エール、病み上がりじゃない」

「起きたらフラルがいないから」


 しかも単身で行くなんて危険でしょうと咎められた。なんでよ。

 エールだってどう見ても単身きたやつだし。


「……故郷に行くんですか?」

「まあ……」


 東の国に行くつもりだったけど、集落には戻るつもりはなかった。顔は出すけど、その後は引きこもり先探ししか考えてなかったし。

 

「東の国に行くなら私も行きます」

「……は?」

「フラルの側にいます」


 どうしよう。譲る気がない声音だ。


「フラルの心を煩わせないよう努力します」

「それは」

「二度と怪我を負いません」

「……」

「ああ、でも軽い傷を負って心配されてみたいです」

「却下」


 わざとやる気なやつじゃん。


「今回だってふらぐは回収しなかったでしょう?」

「でも」

「フラル、もう一度訊きます。今回のこと、怖かったですか?」


 そんなのこたえられるわけない。エールが特別だって言ってるようなものだもの。


「私はフラルを失うのが怖いですよ」

「エール」

「フラルが怪我をするのも病にかかるのも、私の元からいなくなるのも」

「そこに嫌われるってのはないの」

「ええ。だってフラルは私のこと好きでしょう?」

「え?」

「愛着でも情がわいたでもなんでもいいです。フラルが私を好きならなんでも」


 なんでそんな当然みたいな顔するの。私が本当に考えているエールへの気持ちを疎かにされたみたいで不服だわ。

 はあああと盛大な溜め息をついてしまった。エールが少し眦をあげる。

 先程のサクの言葉が甦る。

 本当にやりたいことをやれ、か。

 主人公は私、ね。

 ここまできたら振りきれてもいいのかもしれない。


「情ぐらいはわいてるものかと思ってましたが」

「……」


 エールが私に向けるものは情がわいたとかそんなレベルではないのに、いまだ私にはそれを求めない。


「エール、手、」

「嫌です」

「逃げないから」

「……」

「どけて」


 悩むエールの瞳をじっと見つめて訴えたら、ゆっくり開放してくれた。行き場を失った手は私の顔の横に添えられる。

 エールの首に自由になった腕を回した。


「フラル、っ」


 距離を詰めたまま、触れた唇だけ離す。

 今まで近くてもここまで近いのはなかったかしら。瞳に動揺が走るエールを見つめたまま囁く。


「分かったでしょ……情がわく程度じゃないんだから」


 腕の力をゆるめて芝生に頭を戻す。エールは片手で口元を隠し、瞳を右に左に揺らした。


「……フラルは、私を好き?」

「言わせる気?」


 口元に置いていた手が私に伸びて頬に触れる。指先で優しく撫でるのがくすぐったくて小さく笑ってしまった。


「エール、自分で私を落とすぐらいなこと言ってたくせに」


 黙ったまま熱を持った瞳が私に訴える。いつも歳の割に大人びて控えめだったけど、子供みたいに求めてきているのが分かった。


「……観念するわ」

「フラル」

「エールが好きだから、これからも一緒にいましょう」

「フラル」


 触れてもいいですか、と掠れた声で訴えられる。

 どこにって、言わずもがなよ。


「いいわ」


 近づくエールをみとめ、静かに瞳を閉じた。

エールの脳内はエンダアアアアアアイヤアアアアアアアとなっております(笑)。よかったよかった。


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