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47話 フェンリルとドラゴン

 まずい。

 骨格から男だと分かる。フードで顔を隠してて明らかに不審者。第二皇子管轄の警備の中、どうやって入り込んだの。


「っんの」


 足で脛を蹴る。痛みに少し屈んだ。あら、丁度いい位置に顔が下がってきたわね。


「離しなさいよ!」


 右手を捕まれていたので左拳のストレートパンチをお見舞いした。運良く顔に入って拘束されてる手が緩む。手を引いて距離をとろうと思った時だった。

 ゴッと音がして目の前の男が横に吹っ飛ぶ。


「?!」


 そのまま地面に身を伏せた。起きあがらないけど、生きてるわよね?


「フィクタ!」


 ふわりと舞うようにおりてきたのに打撃は鋭い。男と私の間に入って背を向けたのはエールだった。


「お約束ね」

「……緊張感を持って下さい」


 ため息を吐かれた。でもおかげでエールの殺気は引っ込んだ。勢いのままトドメを刺しても困る。


「生きてるわね?」


 地面に這いつくばってる男は呻きながら顔を上げた。フードがとれて顔が良く見えたけど知ってる顔ではない。


「第二皇子殿下」

「ああ、問題ない」


 ユースティーツィアと共に剣を男に向け、囲むように距離を開けたところに騎士が控えている。さすが推しカプ。優秀ね。


「……くそっ」


 悪態つくだけかと思ったら右手に持つ何かを持っていた。持つ指先に力が入る何かが淡く光った後、粉々に砕け散る。


「魔石!」


 しかもすぐ割れるなんて不完全品も甚だしい。いやその前にどうしてこの男が持っていたの。


「フィクタ」


 男に近づこうとする私をエールが止めた瞬間、遠くに控える騎士の頭上を越え、迷わずこちらに駆ける獣の姿が見えた。


「野犬?」


 かなりの数が四方から攻めてきた。特段動く気がないエールやヴォックスにユースティーツィアにもおかしさを感じて、エールの袖を掴むと気づいたエールがこちらに顔を向ける。

 場に似合わないぐらい目元を緩ませて微笑んだ。


「大丈夫です」


 背後から何かが跳躍して私達の頭上を越える。

 白銀の毛並みと、野犬に匹敵する体躯。

 先頭に立った途端、美しい大きな犬は響くような吠え声をあげた。


「!」


 四方の野犬が地面に落ちた。全て失神して震えている。


「本当お前ちょろいな」

「サク、言い方よくないよ」


 背後から声がかけられ振り向くと本編推しカプのサクとクラスが歩いてくる。

 さらにその後ろからは外伝推しカプのシレとソミアが来た。シレは魔法で野犬に対し何か魔法をかけている。


「魔石で野犬を操っていたから魔法を解除してます」

「あ、そうなの」

「あいつはヴォックスの方で預かるからな」

「オッケー、サクたん!」


 怒涛のことで今一実感がないけど、間者を見事撃破的な?

 ヴォックスたちは拘束した男を他の騎士に預け、魔法を解除した野犬も控えていた騎士が連れていった。

 推しカプたちと私とエールが残る。え、楽園?


「おい、お前に挨拶だとよ」

「?」


 ヴォックスとユースティーツィアが道を譲った。先程の白銀の犬が私の目の前にくる。


「大きいわんこですね」

「ガルーダが息災なようでなによりだ」

「ん?」

「おや? 巡回者の記憶から私が誰かは分かるだろう」


 白銀の毛並みに金色の瞳。

 まさか。


「サクとクラス以外では君にだけ声が届くようにしている」

「フェンリル!」

「ああ」


 まさかこんなとこで会えるなんて! 聖女の元にしか現れないのに。いやサクがいるからいるとは思ってたけどフィクタと接触なんてしないでしょ?


「ドラゴン」

「ああ」


 フェンリルの頭の上に小さなドラゴンが現れた。これも私にしか見えないようにしている。


「ふおおおおおお!」

「フィクタ、アチェンディーテ公爵令息の飼い犬に興奮されても困ります」

「エール黙ってて!」


 小説本編でもフィクタはドラゴンとフェンリルを見ていた。この世界線では会うことはないと思っていたけど、こんなことがあるのね。


「巡回者の影響があるとはいえ、あの傍若無人ぶりが嘘のようだな」

「しかし本質は変わってないようだが」

「ん? お二人もみえてる?」

「ああ、そうだな」


 明らかに小説本編のフィクタを知っているような発言だった。


「はっ!」

「フィクタ……なにをしてるんです?」

「黙っててエール」


 ドラゴンとフェンリルの前で土下座した。小説のフィクタがやらかしたことについて。


「大変申し訳ございませんでした」

「サク、いいの? フィクタ嬢、君の飼い犬に土下座してるけど」

「シレ、ほっといていい」


 この二人を怒らせたら大変なんだからね!

 荷電粒子砲でるんだぞ!


「ああ、そのことなら気にすることはない」

「君は罰を受けたしな」

「表舞台にたてて我々も楽しかったぞ」

「あの世界線も悪くなかった」

「ん?」


 この言い方だと私の中身をみたとかではなく、純粋に小説本編の世界線にいたかのようだ。けど、この世界線は別物だよね?


「ああ、我々はどの世界線とも繋がっている」


 エスエフ小説も真っ青だわ。


「余談だな。君を通してガルーダの近況も分かったし、今後もこの世界線を楽しんでもらえればいい」

「はあ」


 ガルーダとは? なんかそんなスーパーな生き物と話した記憶ないけど。


「君の故郷にまじない師がいただろう」

「ああ!」


 そういえば、フェンリルとドラゴンによろしく的なこと言ってた気がする。


「君と接触した時に我々にメッセージを残していた」

「きちんと受け取ったよ」

「ほう」


 なんかやっぱりこのへんのキャラ出ると規格外になってくる。私は俄然わくわくする派。


「巡回者の性質も徐々に薄くなってるようでなによりだ」

「こちらのミスが解決するまで見守ろう」

「ありがとうございます?」


 今後も恩恵に預かれるならなんでもいいか。


「終わったな」

「ああ、サク。手間を取らせた」

「帰るぞ」


 サクの一言で解散の流れになった。さすがサク、すごいカリスマ性だ。


「え、サクいいの? フィクタ嬢、犬に土下座して終わりだよ?!」

「ああ? 終わりだよ。俺とクラスは帰るからな」


 二人をにやにやしながら見送る。

 推しカプも散り散りになり私とエールも帰ることになった。というか問答無用で馬車に押し込まれた。

そりゃ出てもらわないとね!傍から見てると犬に土下座する令嬢なわけですが、それでもやってもらわないとね!

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