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31話 養子になるか後見人を得るかという死亡フラグ

「フィクタ嬢。会って二回目だが、君に提案したい。私達の養子にならないか?」

「謹んでお断り申し上げます」

「……」

「……」


 すっごいしょんぼりした顔したわね。

 老夫婦、長年生きていれば酸いも甘いも知っているでしょうに、若い娘のお断り一つでそんなしょんぼりするってなんなの。

 ここで物語の修正力の話でもしてやろうかしら。小説では薬を使って酩酊させて養子にする書類にサインをさせた。そして正式にマジア侯爵姓が認められた後、フィクタは夫妻を殺害し遺体を侯爵邸に放置する。やっぱりフィクタ鬼畜だわ。悪役なんて言葉ではぬるすぎよ。


「書類も用意していたんだが」


 やる気満々すぎて引くわ。


「お断り申し上げます」


 と、隣で優雅に食事をとっていたエールが小さく笑った。


「フィクタはそう言うと思ってました」

「……なに?」


 妙な笑顔。

 そういえば、偶然会えたにも関わらず侯爵夫妻ってば書類も完璧に用意していたわね。そもそもすれ違いばっかりだった広い城の中で今日この日にこうもタイミングよく会うものかしら。

 そこにきて隣の男が一枚噛んでいるのではという考えがよぎる。

 まさか。


「さすがフィクタ。正解ですよ」


 何も言ってないのに正解とはどういうことだ。

 同時、扉が叩かれる。

 開かれて出てくるキャラクターにふと学院でばれてしまった記憶が重なった。


「は~い、子猫ちゃ、おっと、これ軽薄なんだった」

「ほぼ言っているではありませんか」

「ごめん」

「マジア侯爵夫妻の前です。少しは態度を改めなさい」

「分かってるって」


 嫌な予感しかしない。


「フィクタ、先に謝っておきますね」


 ごめんなさい。

 それ、笑顔で言う台詞じゃないわよ。


「お二人はなんの為にここに?」

「フィクタちゃんの後見人になろうかなあって」

「は?」


 イグニスと? マーロン兄が?


「まあデビュタントしたら必要ないと思ったんだけど、これからのこと考えたらパトロンいないと危ないよねえ」

「城を行き来するようになってから貴方が多くの者の目に止まるようになりました。より危険になった為、対応が必要になっただけです」


 そういえば学院でばれた時に国家連合設立までは囲い込みたいみたいなこと言ってたかしら。

 というか、それなら城の行き来を採用しなきゃよかったじゃない。


「僕のミスだねえ。フィクタちゃん優秀すぎて目立つみたい」


 最悪だ。こっちだって目立ちたくないし。


「でもフィクタちゃんがマジア侯爵夫妻の養子になるなら譲るよ~! もちろん僕ら二人が後見人になって且つ夫妻の養子になるっていう二つの選択をとることもできる」

「どっちもお断りしたいです」

「それは無理」


 つまり狙われている度合いが高く、今にも手を出されそうだということね。そこまで放っておかないでよ。

 というか養子になるのと同時に別で後見人を得るって法律上できなかった気がする。いやイグニスのことだから、そういうことをできるようにしてからの今ここがあるはず。追及するのはやめよう。


「フィクタ、申し訳ありません」

「エクシピートル様?」

「本当は私が守れればこのままで良かったんです。けど少し面倒なことになってきまして」

「面倒って?」

「第一皇子が貴方を排除しようとしています」


 げええ、あの男ここで出てくるわけ。


「加えて南の紛争地域が第一皇子派に関わりを持つようになってきています。なにより、一部の人間にこれからのことを感づかれています」


 皇弟が継いだ時点で気付いてるものは気付いているだろう。早ければ国際法に触れた時点でも分かる。連合加盟しないかと誘った国から情報漏洩も考えられるし。

 そうなると過激派は関わる穏健派全ての人間を排除しようと考えるかな。その中で一番手っ取り早いのは平民の後ろ楯なしな私になる。


「フィクタが嫌がるのは分かっていました。けど、貴方の安全を先にとりたいんです」

「やめてよ……」

「適性のある方々に限りがありまして」

「よりによって殺す相手と殺される相手とか勘弁して」

「え?」

「おっと」


 幸いエールにしか聞こえてなかったらしい。

 ちなみに小説でフィクタが殺すのはマジア侯爵夫妻とイグニス、殺されるのはマーロン侯爵だ。


「悪い話じゃないと思うけどな~」

「私達は命の恩人であるフィクタ嬢を助けられるなら是非お願いしたい」

「ああでも誤解しないでね。この件がなくても再会したら養子の打診はしてましたよ」

「……」


 はあああなんなの? 死亡フラグが深く食い込んでくる。私にそこまで圧力をかけないでよ。

 でもこのままフリーでいても別で死亡フラグが新たに立っている。これが物語の修正力?


「フィクタ」


 私にしか聞こえない声音でエールが囁く。


「イグニス様や兄様が後見人になるのも、マジア侯爵夫妻の養子になるのも利点がありませんか?」

「あるわけないわ」

「彼らと関わると死ぬかもしれないというのなら、近すぎてすぐに変化が分かる方が回避できると思うのですが」

「……ん?」

「フィクタ自身が死を管理する、というのはどうでしょう?」


 なるほど。

 今までは近いけど意図も読めず、いつなにをしているかもわからなかった。それをもっとお近づきになって詳細まで把握できるようになれば、私はいつでも死のリスクから逃れることが出来る。

 そういう考えもできるわけ。


「さすがエール」

「いかがでしょう」

「うん、採用」


 結局私は養子も後見人も両方採用した。書類手続きは夫妻やイグニスたちがやってくれて私は何もしない内に侯爵令嬢に成り上がる。

のせられてますね、フィクタ(笑)。もはや出来レースと言っても過言ではない。外堀埋め始めたエールもこういうとこ抜けてるフィクタも大変美味しい。


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