19話 フィクタ、ユツィに発破をかける
「ああ、ユツィ。フリーゴスとカロルの面白い姿が見られるぞ」
「!」
推したああんんんん!!
ヴォックスのお相手、ユースティーツィアことユツィが舞い降りた! 美しい!
こ、これが後のプレケスの英雄……カリスマをびんびんに感じる。眩しい!
「面白い姿?」
ユースティーツィアが双子に視線を寄越す。未だむすっとした双子に推し・ユツィが少し目を丸くした。
「珍しいね。あまりそういう顔をしないのに」
「なんてことない。主の取り合いだよ」
「ああ」
推しヴォックスにこちらだと紹介された。名を名乗り礼をとる。成程、とユースティーツィアが頷いた。
「レースノワレ王国の誘いもウニバーシタス帝国の誘いも断るわけだ。こんな可憐な主がいたら無理ですね」
「ユツィたや……!」
「たや?」
おっといけない。ユツィ呼びはヴォックスの特権だったわね。自重しよ。
「君なら分かるか?」
「そうですね。主の為に腕を振るえるのは、この上ない幸せでしょうし」
レースノワレ王国のファーブラ王女のことね。分かる!
ファーブラ王女が好きでめっちゃ可愛がって甘やかすもの。知ってるよ!
「フィクタを守るのがいい」
「ユースティーツィアみたく護衛やりたい」
「やめてよ」
近くに護衛騎士やるキャラいたから、自分たちもと思いを強くしたらしい。
「ユツィ、なにか用があったのでは?」
「ええヴォックス、学長がお呼びです」
「分かった」
「フリーゴス、カロルもです」
推しカプが離れることに寂しさを感じつつ、ユツィが双子の相手をしている間にすすっとヴォックスに近づく。
「第二皇子殿下」
「名前で構わないが」
「はい。ありがとうございます。尊っ、あ、いえ、ちょっと伺っても?」
「ああ」
「ユラレ伯爵令嬢が王女付き騎士になった暁に贈り物はお考えですか?」
意外な質問だったのか僅かに眦があがった。
「そのつもりではあるが……」
なに贈ればな~ってことでしょ。悩んでたのは知ってる。
「殿下には頼れる弟殿下がいらっしゃる」
「ああ、シレか」
「第三皇子殿下の側付き侍女さんも博識でいらっしゃる」
「……君はシレと知り合いなのか?」
「い、いえ。小耳に挟んだだけでして」
「そうか……今度帰るから丁度いいな」
せやせや。頑張れ!
ここで薔薇を贈らないと意味がない。これからのキーアイテムだからね!
「ヴォックス」
「行こう」
「ああ」
双子がヴォックスに声をかけ三人はこの場を去った。さて、ヒロイン・ユツィに癒されるとしよう。
「御二人の御結婚はいつですか?」
「え?」
いけない。つい心の声が表に出てた。
いや、逆に好機かも。レースノワレ王国が滅ばない道を歩みそうな今、推しカプが結ばれる為のきっかけが必要だ。枯れない薔薇プレゼントでほんの少し意識するけど、それじゃ足りない。がつんと想いに気づいてもらおう。
「私たちはそのような関係ではありませんよ」
大人の対応たまらん!
いやだめよ、私。ここは食い下がれ。悪役やってた経験を活かす時だ。
「おや。第二皇子殿下がどなたかのアプローチを受けてしまうかもしれませんよ」
「騎士としても皇子としても優秀ですから当然あるでしょうね」
「今日の交流会でもテンプスモーベリ総合学院女生徒から黄色い声があがってましたし」
「そうでしたか」
あくまで大人の対応を貫く気?
ふーん、じゃあもう少し踏み込むか。
「婚約だってデビュタント前にする者はたくさんいます」
「フィクタ嬢も?」
「……そうですね。これを機に私から第二皇子殿下に婚約を申し込むのもいいかもしれません」
「え?」
驚くだろう。そして引けないはずだ。これが二つ目の外伝ヒロイン・ソミアなら身を引く可能性がある。けど、存外ユツィは嫉妬を隠せない。で、行動に出るはず。
「私が第二皇子にアプローチしようかなあなんて」
「ちょっと待って下さい」
なぜかエールから待ったがかかった。
なんでよ。
「私がいるのに、なにを言っているのです」
「え? 私とエクシピートル様は婚約してないし、ただの友人でしょ」
「な……」
邪魔しないでよ。
外伝ヒロイン・ユツィに発破かけてヴォックスと結ばれてもらって癒されるんだから。あるべき未来へ導かなきゃいけない。それが物語に介入する覚悟ってやつだ。
「待って下さい。フィクタ、本当に第二皇子殿下に婚約の申し出をする気ですか?」
「ええい、私は今ユラレ伯爵令嬢と話してるの。エクシピートル様は黙ってて」
「黙ってられません」
「はあ?」
妙に食いついてくるな。いい加減にしろ。ユツィとの会話が大事なのに。
「おや」
と、ユツィが笑う。なにちょっと理由は分からないけど美しすぎて眩しい。
「失礼、笑うつもりはなかったんですが」
「いえ、こちらこそお騒がせしまして申し訳ございません」
「ふふ……確かにフィクタ嬢に言われて目が覚めました。彼に今相手ができると考えると良い気分ではありませんね」
よっしゃー!
他人に言えるほどの自覚がきたととるから!
となれば、どうする? やはり二人の告白はあれか、和平パフォーマンスか!
「ユラレ伯爵令嬢の王女付き騎士の授与式が終われば、帝国が主催する騎士たちによる大会が催されます」
「そうなのですか」
「初めて開催するものになります。初めてとあれば主催者の皇弟から大きな褒賞があるはずです」
「褒賞?」
「そうです。そこで第二皇子殿下との婚約を申し出ればいいんです」
つまり優勝しろいうことだ。外伝では最初の大会でヴォックスが勝つ。今、私が物語に介入したといえど、ヴォックスが勝っても告白はあるはず。つまりユツィからの告白という逆も確保しておけば安泰というわけだ。
あとは大会を開催できればいい。交流会終わったら帝国に手紙ね。きついわあ、白目剥きそう。
「成程」
「皇弟から認められれば公認ですし外野から手出しもありませんし」
「成程」
「ね、頑張りましょう!」
ひとまずユツィを頷かせる。
ここまでフラグたてればいいだろう。
仕事は増えたけどなんてことはない。そもそも私は物語本編と外伝の推しカプが結ばれるの幸せになるのを目標にしている。
うん、これはいつもと違ってやる気出るわ。
エールがひどい(笑)。いやまあ鈍ちんなフィクタがいけないんですけど、フラグたてて結ばれないと困るのよ。でも今回は察しの良いユツィだったから、なんとかなったようなものです。いやもうユツィ本当察しがよい子よ。




