その事実はつゆしらず
うどんに入っている汁は、関西では色の薄い『うどんだし』で関東では色の濃い『めんつゆ』がよく使われます。『だし』と『つゆ』の違いをご存知でしょうか。
江戸時代、関西ではミネラル分の少ない軟水を使い、昆布から旨味を抽出した『だし』が作られました。
火山灰の多い関東の水は昆布のだしが出にくい硬水でした。
そこでカツオブシと濃口醤油をつかった『つゆ』がつくられました。
大阪で昆布だしが使われたのは、江戸時代の西回り航路の影響もあると言われています。
北海道の昆布が日本海から九州を経由して運ばれ、大阪には江戸よりも早く届きました。
その森ではマタタビの木が白い花を咲かせていた。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、梅を模した外郎があった。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。地上界の日本では、6月に雨がよく降るの」
「梅雨の季節だからな。北からの冷たい空気と南からのあたたかい空気がぶつかって、前線という境界線のようなものができるんだな。そこは雨が降りやすい。6月ごろには梅雨前線というのが日本上空に居座って、長期にわたって雨が降りやすくなるんだ」
「梅の雨って書いて『つゆ』って読むんだよね」
「『ばいう』とも読むぜ。もともとは黴が多い季節で『黴雨』と書いたらしい。いいイメージじゃないので、梅の実が熟する季節で『梅雨』に変えたみだいだな」
「そうだったんだ。じゃあ『つゆ』は、雨の水のことかな」
「つゆの語源は、湿っぽいという意味の古語で『露けし』とか、湿気で食べ物が痛む『潰ゆ』からきたって説があるな」
「さっき言ってた梅雨前線のせいで雨が降り始めたら『梅雨入り』で、梅雨前線の影響がなくなったら『梅雨明け』になるんだよね」
「厳密にいうと少し違う。日本の気象庁は、それまでの天気と一週間ぐらい先の天気を見越して、雨の日が続くことが予想されたら『梅雨入り』を発表するんだ。逆に雨が多い状況から晴れが多い予測ができたところで『梅雨明け』が発表される。住民の感覚とズレがあるかもな。『梅雨明け』の宣言が出されなかった年もある。8月に梅雨明けしなかったら、今度は台風シーズンだしね」
「『つゆ』ときくとお味噌汁を思い出すの」
「たしかにみそ汁が『おつゆ』と呼ばれるな。地域によってはスープとか汁物全般がおつゆと呼ばれることもあるぜ」
「んとね。僕、梅雨って梅干しを作る時期だと思ってたの」
「間違っちゃいないぜ。だいたい6月前半に収穫して、6月後半から梅干しづくりを始めるみたいだ。ただ、天日干しは晴れた日を選んでやんないとな」
「んとね。梅の実は生で食べちゃいけないって聞いたの」
「うん。梅の実には青酸っていう毒物があるんだ。まぁ、1個か2個たべただけで体調をくずすことはない。種の方は実の十倍ぐらい毒があるから注意だな。でも、梅干しを作る過程で毒は抜けるぜ」
「生で食べない方がいいってことだね」
「もし知らずに生の梅の種を大量に食べると、腹痛や下痢、吐き気や呼吸困難などの症状で、最悪は死に至るかもな」
「うわ、結構怖いんだね」
「それに『梅の毒』で救急搬送されると、『梅毒』っていう伝染病と誤解されるかもな」