#009 裏切りの婚約者
自室へと戻ったベンズ。
国王の命令を無視し、ベッドに寝転び仮眠を取ろうとした。
そこへ一人の女性がやってきた。
「大丈夫なの、ベンズ?」
レクトの元婚約者、ナターシャである。
ナターシャはレクトを裏切り、ベンズと恋仲になっていた。
そしてレクトを裏切り、貶めた。
全てはレクトの立場と財産を奪い取るため。
結果としてベンズはレクトの立場を横取りし、ナターシャは贅の限りを尽くしていた。
しかし今は状況が一変。
贅沢するどころではなくなった。
どころか、下手をすればベンズ共々ナターシャの首も飛びかねない。
そんな状況でナターシャは優しくベンズに声をかけた。
たまらなく嬉しくて、感動で涙を流しながらベンズが言った。
「ナターシャ……ごめんなぁ、俺が仕事できないばっかりに……お前にも迷惑かけてるってのに、お前は優しいなぁ……ありがとう」
「は? 何言ってんの?」
するとナターシャの態度が激変。
鬼の形相でベンズの頬をビンタする。
「私が心配してんのは、あんたが仕事サボって大丈夫かって聞いてんの!」
「ちょ! ナターシャ、何をするんだ!」
続けてベンズの体を蹴るナターシャ。
「この穀潰しが! アンタが仕事やんないと、私に金が入ってこないんだよ! 贅沢できる機会が減るだろうが!」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないだろう! 今、この国は大変なんだ! 少しは我慢して……」
「テメェ! 私に我慢しろってのか!」
ドゴッ!
ナターシャの蹴りがベンズの腹部を貫く。
「ほんのちょっぴりでも私の自由を奪うってのか! テメェ容赦しねぇぞ! 死にたくなかったらさっさと仕事に戻りな!」
「わかった、わかったよ……」
渋々部屋を出て行くベンズ。
「ペッ」
ベンズの背中に唾を吐きかけるナターシャ。
そこでベンズは果てしない後悔をした。
「ナターシャがこんな女だったなんて……知らなかった、知らなかったんだ……」
涙を流しながらベンズは歩く。
「私はどうすればいいんだ。仕事は終わらない。国王からも、彼女からも散々な言われようだ。もうどこにも私の居場所はない………」
そしてレクトへの謝罪を口にする。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。レクト、私が悪かったんだ。お前の立場を奪って悪かった。できれば、そうなる前の平和だった頃に戻りたい。だから」
隠して、無様に泣き喚くベンズ。
「だから戻ってきてくれよぉ! もうたくさんだ! 私は、いつになったら救われるんだぁぁぁ!」