彼女いない歴17年。仕方ないから、義妹で手を打とう
高校生になれば、自然に彼女が出来るものだとばかり思っていた。
世の中のラブコメを見てみろよ。ぼっちな嫌われ者だって、きちんと高校在学中にヒロインと結ばれているだろ? だからせいぜい陰キャ程度の俺だって、女の子と結ばれるものだとばかり思っていて。
12月23日。
今日は二学期最終日だった。
クラス内の話題は、明日のクリスマスイブをどう過ごすのかの一点に限る。
家族と過ごす者、恋人と過ごす者、或いは友達と過ごす者。楽しみ方は三者三様だが、年に一度の聖夜を楽しみにしていることだけはみんな同じだった。
そんな中、俺・瀬崎晃太が一体どんなクリスマスイブを過ごすのかというと……現状自室にこもり、一人でゲームをするという選択肢しか持ち合わせていなかった。
友達がいないわけじゃない。だけどその友達は全員彼女持ちなので、当然クリスマスイブは俺より彼女を優先する。
もしかしたら、俺も女の子に「イブの予定ある?」と誘われるかもしれない。そんな期待を胸に今日一日過ごしていたわけだけど……残念なことに、女子から声を掛けられたのはたった一回だけだった。
それも「瀬崎くんのこと、先生が呼んでいたよ」という業務連絡だ。色気もへったくれもない。
友達には既に予定があり、彼女が出来る様子もない。残るは家族なんだけど……両親は「たまには夫婦でイチャイチャする」と言ってイブに外泊宣言しているし、一個下の義妹は彼氏と過ごすと前々から言っていた。
結果イブの神様に見捨てられた俺は、クリぼっちを決め込むしかなくなったのだ。
……プレゼント代わりに親から現金を貰ったのである程度懐も温かいし、帰りに新作ゲームでも買っていくとしようかな。
それから一夜が明け、特筆すべきことが何もなくやってきた12月24日。
俺は有言実行と言わんばかりに、新しく買ったゲームをプレイしていた。
アクションゲームは良いぞ。無心になれる。
そしてゲームの世界観に入り込めば、今日がクリスマスイブという現実から逃避することも出来るのだ。あぁ、なんと素晴らしいことか!
無我夢中でゲームを進めていると、いつの間にか夜になっていた。
お腹が空いたので、夕食の支度をする。
クリスマスらしくケーキとチキン……ではなく、家から出たくない時用に常備してあるカップ麺だ。
早い、美味い、そして簡単。この世界にカップ麺以上に優れた料理が、果たしてあるだろうか?
夜景の綺麗なレストランで高いフレンチを食べているカップル共の羨ましがる姿が、目に浮かぶ(完全に負け惜しみである)。
カップ麺を食べながら、同時並行でゲームをしていると、突然玄関の扉が開いた。
……おかしいぞ?
両親は言わずもがな朝帰りの予定だし、義妹も条例ギリギリの時間まで彼氏と一緒にいると言っていた。
だからこの時間に玄関ドアが開くなんて、あり得ない。
泥棒か?
俺は自衛用に布団叩きを持ち、恐る恐る玄関に向かう。
廊下の陰から玄関を見ると……そこには義妹の凛の姿があった。
「……なんだよ、お前かよ」
「あっ、義兄さん。ただいま」
やたら脱ぎにくそうなブーツを脱いだ凛は、それから着ていたコートを俺に押し付ける。……ハンガーにかけておけってことね。
「お腹減ったー。義兄さん、夜は何を食べたの? やっぱりローストチキン?」
「んなわけあるか。世界一の料理・カップ麺だ」
多分そろそろ麺が伸び始めているだろうけど。
「カップ麺って……。ていうか義兄さん、クリスマスイブに何やってんの?」
俺の自室を覗いた凛が、冷めた目をして尋ねる。
「何って、ゲームだよ。自分へのご褒美で買ってきた。……あっ、自分で自分にプレゼントとか、悲しい人間だと思うんじゃねーぞ?」
「そんなの思わないっての。……イブに一人でいる時点で、悲しい人間だから」
余計なお世話だった。
義妹に言われたい放題というのも癪だったので、俺は彼女に言い返す。
「そういうお前はどうなんだよ? 今夜は彼氏と過ごすんじゃなかったのか?」
「あー。彼となら、さっき別れた」
「別れた?」
「うん。だってあの野郎、浮気してたんだもん」
……。
どうやら凛にとって今年のクリスマスイブは、忘れられない思い出になりそうだ。悪い意味で。
「そうか……。それは悲しいな」
「悲しいっていうより、単にムカつくかな。だから一緒に食べようと思っていたケーキを、あいつの顔面にぶつけてきてやった」
公衆の面前でケーキまみれになる彼氏。その光景を想像した俺は、我が義妹ながら恐ろしいことをするものだと思った。
自業自得とはいえ、彼氏も不憫だな。
「それじゃあ今年のクリスマスは、お互い独り身で過ごすのか」
「そうだね。彼氏のいないクリスマスとか、凄く久しぶり」
それは自慢か? 自慢なのか?
浮気された腹いせに、俺に当たらないで欲しい。
「残念だけど、その気持ちは共有出来ませんー。なんたって俺は、今年も彼女のいないクリスマスですからねー」
ゲームに戻りながら、俺が嫌味たっぷりに言うと、
「だったらさ、義兄さん。もし嫌じゃなければなんだけど……私たち、付き合ってみない?」
「……は?」
驚きのあまり、俺の手が止まる。
その瞬間攻撃をくらい、ゲームオーバーになってしまった。
「あっ、義兄さん死んだ」
「俺は死んでない。俺の操作しているキャラクターが死んだだけだ。……それより、お前今何て言った?」
聞き間違いじゃなければ、俺と凛が付き合う的なことを言った気がする。
……あれだよな? 付き合うって言っても色んな意味があるし、「買い物に付き合う?」みたいな軽いノリだよな?
「私と義兄さんで恋人同士になって、クリスマスをイチャイチャして過ごそうって言ったの」
聞き間違いでも勘違いでもなかった。
この女、義理とはいえ兄妹で付き合おうと言っている。
因みに俺を揶揄っているだけという選択肢は、速攻で除外した。
仮にも兄妹だ。彼女が本気で言っているのかどうかくらい、目を見れば判断がつく。
「お前……実は俺のこと好きだったのかよ?」
「何それ? 発想が陰キャのそれなんだけど?」
実際に陰キャなんだから、仕方ないだろう。
「義兄さんのことは、嫌いじゃないかな。だからって、恋愛感情を抱いているとか全然ないんだけど。ただまぁ……彼氏のいない期間があまり長引くと次の恋愛に影響が出るし、近くにいる手頃な童貞で取り敢えず我慢しておこうかなーって」
「手頃って言うな。童貞って決めつけんな」
悲しいことに、間違ってはいないんだけど。
凛はグイッと、顔を俺に近付ける。
贔屓目抜きにしても、凛は美少女だ。そんな彼女に急接近されては、思わずドキッとなってしまう。
「私と義兄さんは、血が繋がっていないわけじゃん? だから法的には結婚出来るってわけ。結婚出来るってことは、付き合っても問題ない」
「……いや、問題大ありだろ」
「具体的な問題点は? 80文字から100文字で答えなさい」
「まさかの文字数指定!? えーと……」
「はい、時間切れー」
制限時間短えよ! 考える時間はおろか、80文字声に出す時間すらないじゃねーか!
「義兄さんに彼女はいない。問題点を挙げることも出来ない。……断る理由なんて、どこにもないよね?」
こうなった凛は、最早止まらない。
彼女いない歴17年。初めての彼女は、義妹で手を打つとしよう。
◇
初めての彼女が出来た。それ自体は、なんら悪いことじゃない。
彼女いない歴=年齢という悲しい等式が成り立たなくなったのだ。寧ろ嬉しいことである。
ただそれが、本当に好きな相手との交際なのだとしたらの話だが。
ゲームをしながら、俺はチラッと横を見る。
俺の左隣では、凛があぐらをかいてモニターを見ていた。
日頃ゲームをしないのか、ちょっとした操作で「おぉ!」と感嘆の声を漏らす。……気が散って仕方ない。
そもそも凛が俺の部屋にいること自体、普通ではないのだ。
兄妹とはいえ、義理である。両親が再婚するまで、全くの他人だった。
その上二人とも年頃の高校生なのだから、互いの部屋に自由に出入り出来るわけもない。
俺が凛の部屋に入った回数なんて数える程度だし、逆もまた然りである。
だから付き合い始めて数日が経過したこの夜、凛が許可を得る前に俺の部屋に入ってきた時は、心底驚いた。
「……なぁ。いい加減自分の部屋に帰ったらどうなんだ?」
「何で? 彼氏の部屋にいて、何か悪いことがあるの?」
「悪くはないけど……そうやって見ているだけで、楽しいか?」
協力プレイや対戦をするわけじゃない。凛はただ、俺がゲームをしているところを眺めているだけだ。楽しいわけがない。
「だったら、楽しいことする?」
そう言うと、凛は胸元を見せつけてくる。……楽しいことって、そういうことですか。
勿論そんな経験も度胸もない俺は、きっぱりお断りした。
「だよね。義兄さんなら、そう言うと思っていたよ」
「……要するに、揶揄ったってことだな」
「そういうこと。……本音を言うと、そこまでつまらなくないんだ。何かアクションアニメを見ているようで、結構面白いかも」
確かに最近のゲームは映像がめちゃくちゃ綺麗だからな。その上ストーリーも凝っているし、非オタから見たらほとんどアニメみたいなものなのか。
だけどゲームの醍醐味は、やはり自身でプレイすることにある。
俺は凛に、予備のコントローラーを差し出した。
「良かったら、やってみるか?」
「うん!」
対戦ゲームだとほとんどいじめになってしまうので、二人で協力してモンスターを倒す類いのゲームを選ぶ。
まずは雑魚モンスターを、凛一人で倒して貰うとしよう。ヤバくなった時は、救世主・俺の登場だ。
凛のゲームセンスは、良く言っても壊滅的だった。武器を自在に操るのなんて、夢のまた夢。歩行や視点の変更すらまともに出来ていない。
だからいつの間にか崖から落ちていたり、水の中で溺れていたり。モンスターに出会う前から、死んでしまっている。
モンスターにやられそうなところならともかく、自爆じゃ助けることも出来ない。
ゲームセンスに加えて忍耐力もない凛は、辛うじて剣が振るえるようになったところで早くも音を上げた。
「あー、もう! 全然思うように動いてくれないんだけど! バグってやつじゃないの!?」
「バグじゃない。お前がびっくりするくらい下手くそなだけだ」
下手くそと言われて、凛はリスのように頬を膨らませてむくれる。
その表情は、ちょっと可愛かった。
「そんなに下手下手言うならさ……操作の仕方、教えてよ」
言いながら、凛は密着してくる。
すると彼女の平均より豊かな二つの膨らみが、俺に押し付けられるわけで。
「……おい、当たってる」
「うん、知ってる。彼氏特権だよ」
義兄には許されないラッキースケベも、恋人なら許されるということか。凄えな、恋人。
しかし今までの彼氏にも同じことをしていたのかと思うと、なんだかモヤモヤした。
それから俺はお手本として、数体のモンスターを倒してみせた。
倒したのは、どれもこれも雑魚モンスターだ。だって雑念が多すぎて、強いモンスターは倒せそうになかったんだもの。
その間凛はずっと俺にくっついていて。俺はドキドキしっぱなしだった。
夜9時を回ったところで、突然凛は立ち上がる。
「そろそろお母さんたちが帰ってくるから、部屋に戻るね」
両親の前では、俺たちは一般的な義兄妹だ。恋人同士じゃない。
だから凛がこの部屋を出たら、俺たちはいつもみたいに丁度良い距離感の義兄妹に戻るわけであって。
「……義兄さん。手、離してくれない?」
「……え?」
気付くと俺は、無意識のうちに立ち去ろうとする凛の手を掴んでいた。
こんなの、まるで彼女とまだ一緒にいたいと言っているようなものじゃないか。俺は慌てて、凛の手を離す。
凛は俺に掴まれていた手をじっと見た後、こちらに顔を向けてニヤニヤし始めた。
「そんなに名残惜しそうな顔しなくても、ちゃんとまた彼女になってあげるって」
穴があったら、入りたい。
でもこの部屋には穴と呼べる場所がないので、その代わりに時間を1分ほど巻き戻して欲しかった。
◇
凛との交際は、何の問題もなく続いていた。
一家団欒の場では仲の良い義兄妹を演じ、両親のいないところでは仲睦まじいカップルとしてイチャイチャする。
最初は意識していたその切り替えも、今では自然と出来るようになっていた。
最初は不安しかなかった、義妹との恋人関係。しかしいざ実践してみれば、これ以上のマッチングなんてないように思えてしまう。
互いに一切好意なんてなく、義兄妹という一番近い他人として生活を共にしてきたからこそ、相手の欠点なんかを熟知している。
例えば俺の人付き合いが苦手なところだったり、凛のわがままなところだったり。
ダメなところを熟知した上での交際なのだから、あとは良いところを知っていくだけ。そりゃあ、相手に対する好感度も上がるわけだ。
凛と交際を初めて2ヶ月になろうかとしているわけだけど、正直この日常が心地よく思えていた。
クリスマスとお正月が過ぎ去り、その次にやってくるイベントといえば、2月14日のバレンタインデーだ。
昨年までは「チョコを食べられない日(義理チョコすら貰えるわけもなく、コンビニで自分で買うのも惨めだったからだ)」という位置付けだったバレンタインも、今年は違う。なんたって今年は、彼女がいるのだから!
果たして凛はどんなチョコレートを用意してくれるのだろうか? 今から期待で胸が膨らんで仕方ない。
そしてやってきたバレンタイン当日。
日中は何事もなく過ぎ去り、放課後、下校しようとした俺が下駄箱を開けると……中には小包が一つ入っていた。
小包の正体は、言うまでもなくチョコレートだ。凛め、粋な計らいをしてくれるじゃないか。
小包には、手紙が添えられている。
手紙の内容を一読して、俺は驚いた。
なぜなら……その手紙とチョコレートは、凛ではなくクラスの女子から贈られたものだったのだ。
宛名には、きちんと俺の名前が書かれている。決して入れる下駄箱を間違えたわけじゃない。
そして手紙には「好きです」と愛の告白が綴られており、このチョコレートが義理チョコでないことを示していた。
人生初の本命チョコだ。そりゃあ嬉しいに決まっている。
だけど嬉しいから告白をOKするというのは、因果関係が成り立たない。なにせ今の俺には、凛という恋人がいるのだ。
そこまで考えたところで、俺はふと気が付く。
……あれ? そもそも俺は、どうして凛と付き合っているんだっけ?
きっかけはクリスマスイブだ。
彼氏と別れた凛が、謂わば「繋ぎの彼氏」として俺に交際を申し込んできた。
それからなし崩し的に付き合うことにした為、二人の間に恋愛感情などなく。
現在、俺の方は多少そういった感情を抱いているけど、凛がどう思っているのかまでは全くわからない。
もし凛に他に好きな人が出来たら、俺は捨てられるのだろうか? 捨てられるに違いない。初めから、そういう話だったのだから。
そうなった時、俺はまた一人になる。だったら……俺のことを好きだと言ってくれる女の子の気持ちに応えるのも、アリなんじゃないか?
どうやらすぐに答えを出すことは出来ないらしい。
俺はチョコレートと一緒に、クラスメイトの告白も一度持ち帰ることにした。
◇
「ただいま!」
「おかえりなさい、義兄さん」
帰宅すると、エプロン姿の凛が俺を出迎えてくれた。
「エプロンなんかつけて、どうしたんだ? 今日の夕飯は、俺が作る担当だっただろ?」
「作っていたのは、夕食じゃなくてデザートだよ。……ほら、今日ってバレンタインでしょ? 二人きりの間に、めいっぱいイチャイチャしておこうかと思って」
イチャイチャ、ねぇ。
その言葉は、果たして本心から出たものなのだろうか?
義妹の考えていることなら、ある程度わかる。だけど彼女としての凛の思考は、わからないことだらけだった。
不安や不満、そして嫉妬。恋愛ならではの負の感情が、俺から正常な判断力を奪っていく。
「……チョコレート、楽しみにしてるよ」
こちらの考えを悟られないように、俺は平静を装う。
そして「溶けてはいけない」という至極当然な思いから、鞄の中のチョコレートを冷蔵庫に入れた。
「……ねぇ。それ、何?」
冷蔵庫を閉めるやいなや、凛が尋ねてくる。
「どう見ても、チョコだよね? 誰から貰ったの? もしかして……本命チョコ?」
「クラスの女子からの……本命チョコです」
思わず丁寧な口調で答えた後、俺は「しまった」と後悔した。明らかに、凛が不機嫌になっているのだ。
「本命チョコを貰って、良かったね。男冥利に尽きるんじゃない? でも……義兄さんは私と付き合っているんだし、まさかと思うけどOKしたりしないよね?」
……やっぱり、そういう話になったか。
良い機会だし、ここはお互いの考えについてじっくり話し合うこととしよう。
「正直言うと……迷ってる」
俺は包み隠さず、自分の胸の内を明かすことにした。
「俺たちは今、妥協して付き合っているわけだろ? 付き合うことが目的になっているとでも言うのかな。そんな歪な交際を、一体いつまで続けるんだって話なんだよ」
ただでさえ、恋人同士でありながら義兄妹というイレギュラーな関係性だ。
何の前触れもなく別れるなんてことも、大いにあり得る。
「恋っていうのは、好きな相手にするものだろ? だったら恋人は、好きな相手であるべきだ。それを前提とすると……俺はお前の恋人になれないんじゃないか?」
だから、今のうちに別れよう。仲の良い、ただの義兄妹に戻ろう。
俺がこれ以上、凛を一人の女の子として見てしまう前に。
俺の提案に対する、凛の返事はというと――
「やだ。別れない」
即座にきっぱりと拒否をした。
「別れないって……どうしてなんだよ? 繋ぎの彼氏なら、別に俺じゃなくても良いだろ?」
「繋ぎの彼氏なら、ね。でも繋ぎじゃないなら、好きな人が良い。本当の彼氏は、義兄さんが良い!」
凛は俺の為に作ってくれた、チョコレートケーキを差し出す。
ケーキにはホワイトのチョコペンで、『I LOVE YOU』と書かれていた。
「確かに最初は、次の彼氏が出来るまでの繋ぎのつもりだった。でもいざ本当に好きな人を探そうとするとさ、義兄さん以上に良い人なんて見つからなかったんだよ。それだけ義兄さんとの日々は楽しくて。だから私もいつの間にか、本気になっていて」
不意に、凛は俺に口付けをする。
手を握ったことはあった。抱きつかれたり、胸を押し付けられたこともあった。でも……キスをされたのは、これが初めてだ。
「私はこれまで何人も彼氏がいたし、付き合っていたからキスだってしたことがある。でも、本当に好きじゃなかったら、キスなんてしない。繋ぎの彼氏相手に、大事な唇は奪わせないよ」
恋人にしろ義兄妹にしろ、自分の気持ちの全てが相手に伝わるわけなんてない。だから今回みたいな誤解も生じるわけで。
凛はキスという行為を用いて、気持ちを伝えてくれた。今度は、俺の番だ。
「凛、大好きだよ。義妹としてじゃなく」
「だったら、それを証明して」
「勿論」
人生で二度目のキスは、俺の方からする。
先程のファーストキスは特別だったけど、2回目も負けず劣らずの多幸感が得られた。
俺みたいな男が、一生の内告白される機会なんてたかがしれている。1日の間に2回告白されるなんて、まさに夢のような話だ。
そして好きな相手に告白される機会なんて――金輪際あるとは思えない。
だったらこのチャンスを、逃す手はないな。
彼女いない歴17年。初めての本当の彼女として、俺は義妹を選ぶ。
そしてその選択は、きっと間違っていないのだろう。




