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第十二話 白猿の群れ

 俺たちは三人で背中を合わせ、きたる戦闘に備えた。


 通路の闇に点々と瞬く赤い光は、徐々に大きくなっていて近づいてきていることが分かる。やがて、うっすらと光を放つものの正体があらわになってきた。


 それは、白い猿型の魔獣だった。前に大きな爬虫類型の魔獣にいたぶられていた奴だ。あの時は三対一でしかも片腕を失っていたのに仕留められなかった。なのに今回はそれが複数体。勝算は皆無に等しいだろう。どうにかまた逃げるしかない。


 そして、魔獣たちが通路から完全に姿を現した。一つの通路につき三対、合計十二体だ。じわじわと距離を詰めてきている。


「ちっ。どうする?」


 ラインが槍を構えて魔獣を睨みつけながら言った。


「どうするってそりゃ逃げるしかないだろ」


 答えながら俺は右手に剣を、左手に槍を装備し、さらに速度強化を使った。


「でも、今回は簡単に逃がしてはくれなそうね」


 クキュ――!! クック!!


 突然、俺の目の前にいた魔獣が甲高い雄たけびを発した。それと同時に、四方から一体ずつ少し小さな魔獣がこちらにとびかかってくる。おそらく何らかの合図だったのだろう。


「はあ!!」


 すごい形相と速度でこちらに向かってくる魔獣に、俺は反射的に左手の槍を投げつけた。強化されている腕から放たれた槍は、真っ直ぐ魔獣目掛けて飛んでいき、その肩口に突き刺さった。


 キキ!?


 槍が刺さった魔獣は、バランスを崩してその場で転がった。だが、まだこっちに向かってくる魔獣は三体いる。その内の一体が俺に向かって腕を振り降ろした。


「ふっ!!」

 

 俺は右手の剣を高速で振り上げることでそれをはじく。それと同時に左手を背中の鞘に突っ込み剣を生成。そのまま抜刀切りのようなかたちでカウンターをした。


 渾身のカウンターは速度強化をもってしてでも横腹に小さな傷をつけることしかできなかった。だが、これに驚いた魔獣は群れの方へ戻っていった。とりあえず第一波を退けれた。ちらりとラインとフレイの方を確認すると、そちらも無事一体ずつ退けれていた。


 魔獣は俺たちの反撃に驚いているのか、立ち止まって様子をうかがっている。包囲網は崩してくれそうにないが、攻めてこないのは嬉しい。今のうちに逃げる方法を考えなければ……


「ああもうこんなの繰り返してたらきりがねえぞ! なんか一発ドカンとけちらせねえのか!」


 一発ドカンと、ねえ……

 ……あ、そうだ。


 俺は鞘制作の実験の時につくった青い箱をとりだした。そして中に小さな魔石を生成し、魔力をひたすらこめていく。


「ライン、フレイ、俺が合図したら俺の後ろについて走ってくれ」


「お、なんか思いついたのか?」


「なにするのかしらねえ」


 しばらく膠着状態が続く中、俺はひたすらに魔力を魔石に込め続けた。箱の中は見えないけど、過剰に魔力を込められ臨界状態の魔石から、危なげな光が出ている頃だろう。

 

 クキュ――!!


 やがて、でかい魔獣の合図とともに、魔獣たちが動き始めた。こんどは全員で一斉に襲い掛かることにしたようだ。だが、今からすることを考えるとすごく都合がいい。全方向から迫る魔獣。なかには跳ねて上からくるものもいた。俺は青い箱に手を突っ込みながら、最も多く巻き込めるタイミングを待つ。


「……三、二、一、行くぞ!!」


 叫ぶと同時に最後に一気に魔力を魔石に込めながら、青い箱ごと魔石を上に投げ飛ばした。そして、すぐ後ろにいるラインとフレイの手を掴み速度強化を二人にも発動。姿勢を低くしながら一気に走った。


 その直後、空中で限界に達した魔石が魔力を放出しながら爆発を起こした。一瞬で青い箱が砕け散り、周囲に衝撃波を発生させる。魔力が乱されて威力はかなり減衰されていたが、それでも身軽な魔獣を吹き飛ばすくらいの威力は残せた。当然俺たちも吹っ飛ばされるわけだが、まあちょうどいい距離稼ぎ。俺は回復魔法をかけながら逃走を始めた。


「え? なに? 魔法?」


「そんなんできんなら最初からやれよ!」


「え、ごめん。それより魔獣は!」


 魔獣はダメージはないものの、衝撃波に困惑している様子。こんなところに住んでいるのだから、魔力に慣れていないのだろうか。だが、一部はすぐに正気を取り戻し、こちらを追いかけてきた。何度目かも分からない追いかけっこの始まりだ。とりあえず魔法が使える湧き部屋まで逃げないといけない。俺は脳内マップを頼りに近くの湧き部屋を目指して走った。


「えっと……ここから一番近い湧き部屋は……」


 大量の魔獣を引き連れながらダンジョン内をくねくねと引き返す。ちょくちょく追い付かれそうになりながらも、俺たちは必死に逃げ続けた。そして、あと少しで目的地にたどり着くとき……


「たしかここを曲がれば……え!?」


 俺の前に絶望的なものが現れた。そう、行き止まりだ。見覚えのない平らな壁が無慈悲にも立ち塞がっている。


「な、行き止まりじゃねえか! どうする!?」


「どういうことだ? 脳内マップ的にはこんなのなかったはずなんだけど……どっかで間違えたのか?」


「ちっ、これはもう戦うしかないのか?」


 チラリと後ろを振り返ると、魔獣たちがすぐそこまで来ている。引き返すことはできない。ラインの言う通り戦うことになるかもしれない。


「二人とも! よく見て! あれ壁じゃないかも!」


「「え?」」


 フレイに言われて、目の前の壁をよく見てみる。なんか壁の真ん中に真っ直ぐな縦の亀裂がはいっている気がする。いや待て、もしかしてあれは……


「扉?」


 ラインが答えを言った。でも、なんでこんなところに……いや、ダンジョンだしあってもおかしくないか。


「怪しさ満載だけど、入る?」


「後ろのやつらと戦うよりはマシじゃないかしら」


「出口かもしれないし、入ってみようぜ!」


「それもそうか」


 そして、俺たちは走る勢いのまま扉を押し開け、その奥へ入った。

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