第七話 狩り
俺が叫ぶと同時に、俺たちの中心で地面が爆ぜた。
「ごほっ……大丈夫か!?」
土煙が周囲を舞う。さっき見た大きいやつ、あれは魔獣だろう。あの感じだとかなり強力なやつだ。土煙で視界が悪い中襲われたらひとたまりもないので、とりあえず速度強化で距離をとった。
キエア! キーキー! キュウ! キー!!
土煙の中からは耳に障る奇怪な悲鳴が聞こえる。一体中で何が起きているのだろうか。ラインとフレイの無事を祈りたいが……まあ悲鳴をあげているのは恐らく魔獣なので、襲われているということはないだろう。
しばらくして、土煙がはれてきた。そこでは二匹の魔獣の取っ組み合い、いや、一方的な暴力が行われていた。いたぶられて悲鳴をあげているのは、もちろん俺たちが狩ろうとした手負いの魔獣。いたぶっているのは上から落ちてきた大きな魔獣だ。
長い爪の生えた短い前足で手負いの魔獣を地面に押さえつけ、伏せるように後ろ足を曲げて首元に嚙みついている。こちらに向けられた長い尻尾は、鞭のように左右にしなり、迂闊に近寄って打たれたら怪我では済まなそうだ。
キー―!! キー―!! キュ、キュウゥ……
手負いの魔獣は首を噛まれ胴を爪で貫かれてもなおしぶとく悲鳴をあげていたが、とどめとばかりに強く噛みつかれ、ついに力を失ってしまう。大きな魔獣は、動かなくなった白い毛玉を長い爪で乱雑に切り裂き始め、周囲を赤黒い血で染め上げた。
「!!」
突然肩に何かが触れ、俺は素早く振り向いた。すると、目の前にはラインとフレイがいた。
「なんだ、お前らか」
魔獣の行動に集中していて、二人の接近に全く気付かなかった。でも二人とも無事だったようで安心だ。
「大丈夫だったか?」
「ええ。そこまで強い衝撃ではなかったし、全然大丈夫」
「俺も特に問題はないぜ。ロエルは……まあ見たところ大丈夫そうだな」
「ああ。俺もけがとかは特にしてない。でだ。あいつどうする?」
俺は現在お食事中の魔獣を指さした。すっかり小さくなった無残な肉塊が、魔獣の爬虫類のような口に次々と吸い込まれていっている。
「そんなのもちろん狩る! ……と言いたいところだが、勝てるか?」
「さっきみたいに手負いならまだしも、あれはちょっときつそうね」
おっと? ラインとフレイが珍しくビビっている。まあ俺たちの五倍くらいの大きさだしな。普通に考えて絶対勝てないだろう。魔法が使えたら分からないが。
「だよな。あれは無理だ。じゃあここは一旦逃げるということでいいか?」
「悔しいがそれでいいぜ」
「そうね。他の魔獣を探しましょう」
意見が一致したので、俺たちは早く逃げようと魔獣に背を向け、来た道を引き返そうとした。が、その瞬間凄まじい威圧感を感じ、俺たちは一斉に振り返った。魔獣の赤い目と目が合ってしまい、視線を動かせなくなる。
「……なあ、もしかしてあいつ俺たちを見てる?」
「……俺の目がおかしくなければそうだろうな」
クアアアアアア!!!!
「「「うぐ!!」」」
いきなり魔獣が甲高い咆哮をあげた。脳に突き刺さる細かい振動に、俺たちは思わず耳を塞いで全身を硬直させてしまった。その隙をつくように魔獣が跳躍し、一気に距離を詰められてしまう。魔獣の鋭い爪が、俺たちの頭上に迫った。
ガキン!!
固いものがぶつかり合う音が響き渡る。最後列にいたラインが槍で爪を防いだようだ。俺がそれを認識したときには、フレイがラインの横を走り抜け、魔獣に切りかかっていた。
「はあ!!」
ガキン!!
再びさっきと似た音が響き渡る。フレイの一撃は、ラインが受けた腕とは逆の腕で受け止められてしまったようだ。だったら俺がきめる!!
俺はラインの横を通り、フレイとは逆側から魔獣に切りかかった。が、次の瞬間、衝撃的なことが起こる。
俺の剣は見事に魔獣の首にヒットした。腕に伝わる重い振動。魔獣の茶色い鱗にわずかに傷をつけた。だが、魔獣以上に剣がダメージを負っていた。魔獣に当てた部分からひびが広がり、追撃を加えようと剣をひいたとき……
剣は粉々に砕け極彩色の破片を散らして消えた。
「なっ……!?」
俺が呆気に取られていると、魔獣がこちらに視線を向けた。そして、ラインの槍とせめぎ合っていた腕をこちらに振るってきた。
「ぐっ……」
一撃目は速度強化して体を捻ることで何とか避けた。だが、そこで態勢を崩してしまった俺に、二撃目が迫ってきた。これは避けられない!!
「うおおおお」
ぎりぎりのところで、ラインが間に入って攻撃を受け止めてくれた。
「ナイスだ! ライン!」
「貸しだな。でも、俺の槍ももう折れそうだぞ」
確かに爪を受け止める槍には端から端までひびがはしっている。あと一撃でも受けたら砕け散って魔力に戻るだろう。まさか魔石の武器がこんなにもろいとは、かなりショックだ。いや、この魔獣が固いだけか? あとは魔石も魔力の塊だし、魔法阻害の影響を受けているのかもしれない。
いや、今はそんなことどうでもいい。この状況を何とかしなくては。武器が頼りにならないなら魔法しかない。速度強化なら逃げきれるだろうか。魔法が使えるあの部屋まで戻れればなんとかなるんだけどな。
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