第六話 探検
「いやーひどい目にあったぜ」
俺の回復魔法により、魔獣の毒から完全に立ち直ったラインが口を押えながら言った。あの肉には見た目通りわりと強力な毒があったようで、起きた後もしばらく動けなかったが、儀式回復魔法の力でなんとかなった。
「あんな見るからに毒物を食べるからいけないんでしょ。しかも私まで巻き込んで」
「そうだよ。なんであんなまずいってわかったのに俺たちの口にぶち込んだんだよ」
あれでは最初にラインに食べさせた意味がないじゃないか。まあ説明せずに毒味させたのは悪かったけどさあ。
「だって俺だけまずい思いするとか不公平じゃんか」
「不公平って。もしもっとヤバイ毒だったらどうすんだよ。三人動けなくなって全滅確定だぞ」
「……なるほど。それは悪かったな」
「偉そうに言ってるけどロエルだって食べる気満々だったわよね」
「…………」
ふっ……。あの時の俺はどうかしてたぜ。冷静になって考えてみればあの気色悪い魔獣が美味しいわけないよな。空腹って恐ろしい。
「……まあ過去のことより、今の食料問題を何とかしないとな」
「だよな! あの肉のせいで無駄に体力使ったからさらに腹減ったし」
「あ、都合が悪くなったからって話をそらしたわ!」
あの魔獣が食べられない以上、この部屋に引きこもっていたら食料は得られない。つまり、ここを出てこのダンジョンを探索しないといけない。また魔法が制限されるのは不安だ。あまり気は進まないなあ……。まあ食料問題がなくてもいつかは出ないといけないんだけどね。
「はあ……。本当に食料どうする?」
「んなもんなんとか探して見つけるしかないだろ」
「こんなところで餓死なんて嫌だわ。まだ体力があるうちに早いとこ探しちゃいましょ」
「ん~~とりあえずここを拠点に近くを探ってみるか」
ということで、俺たちはさっき通ったばかりの穴に入り、魔獣の湧き部屋の外に出た。それぞれの背中に作ったばかりの得物を背負って。視界が目に悪そうな青い壁から、自然な岩の壁に変わる。試しに高水圧ビームを撃とうとしてみた。だが、やはり足元に水たまりができるだけ。
はあ……
やっぱりあの部屋の外では魔法が制限される。転移してからずっとそうだけど、魔法が自由に使えないのはすごく不安。早いとここんなとこ脱出したい。
そして、俺たちは探索を開始した。迷子にならないよう左側の壁に沿いながら、三人で固まって移動する。ずっと変わらない暗い岩の風景。すごく静かで、足音さえも闇に吸われている気がする。時折すぐ横をあの甲虫型の魔獣が通るばかりで、他の動くものは見当たらない。食べられそうなものは見つかるのだろうか。最初に見た蜘蛛っぽい奴といい、このダンジョン、虫しかいないのだろうか。
「いやーダンジョンだと思って改めて歩くと、ダンジョンって感じするよな」
静かに歩く中、突然ラインが声を発した。
「確かにそうね。うまい具合に道ができてるところとかまさにダンジョンって感じだわ」
「お前ら他のダンジョンに入ったことあるのか?」
「ええ。前に父様や従者たちと小さいやつに入ったことがあるわ」
「俺もそんな感じだ。まあ貴族の子の試練みたいな感じだな」
へ~~。今より前って相当小さい時だな。そんなときからダンジョンに入らされるとかやっぱこの世界の貴族って戦闘民族なのか?
ガリッ……
「「「!!」」」
突然の物音がして、俺たちは素早く近くの岩陰に隠れた。そっと首だけだして様子を伺うと、ゆっくりと動く影が見える。
「魔獣か?」
「そうみたいだな」
影の形からして、虫型ではないようだ。食べれそうなら狩りたいので、俺たちはゆっくりその影に近づいた。そして、だんだん魔獣の容姿が見えてきた。
猿のような全身を覆う白い体毛。胴と見間違えるような大きな尻尾。だらりと垂れ下がる長い耳からは、活力が感じられない。後ろ足の倍ほどの長さの左前足は、右の肩口を押さえ、右前足は無かった。
「手負いか……?」
「ならチャンスじゃない。虫よりは美味しそうだし、狩ってみる?」
「早速行ってくるぜ!」
「ちょ待っ」
ラインが背中の槍を握りしめ、魔獣に向かって跳びだした。そして、驚いている魔獣目掛けて両手で持った槍を突きつけた。
「はあ!!」
だが、槍が魔獣を貫く前に、前足の爪で受け止められてしまった。槍と爪がきりきりと音を立ててせめぎ合う。
「やあ!」
硬直するラインと魔獣のもとへフレイが駆け込み、魔獣を右から切りつけた。フレイの剣は魔獣の肩の肉をえぐり、魔獣は悲鳴を上げた。だが、切る直前にバックステップで距離をとられたために、致命傷にはならなかったようだ。
足を一本失った状態で不意打ちに対応する機動力。なかなか手ごわい魔獣のようだ。完全な状態だったら絶対勝てないだろう。だからこそ今がチャンスだ。食料確保のため絶対に狩りたい。
俺は、速度強化で一気に魔獣に近づき、背中から切りつけようとした。だが、殺気でも感じたのだろうか。前方に跳ねた魔獣に避けられ、俺の剣は虚しく宙を切った。
「…………」
まあでも、これで魔獣を俺たち三人で囲う形になった。格段に逃がしにくくはなっただろう。じりじりと魔獣との距離を縮める俺たちを、魔獣は真ん中から赤い瞳で睨みつけている。そこからは激しい怒りが感じられた。
「せーので跳びかかるぞ」
ラインが槍を構えながら言った。
「「了解」」
俺は剣を上段に構え、いつでも魔獣を切りつけられる準備をした。次は外したくない。
「せー……」
その時、突然危機感が電流のごとく走り抜けた。古代龍とは言わないまでも、巨大なものが高速で近づいてきている。はっとなって上を見ると、こちらに落ちる大きななにかと目が合った。
「みんな後ろに跳べ!!」
俺が叫ぶと同時に、俺たちの中心で地面が爆ぜた。
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