第一話 ここは?
意識が朦朧とする。
俺は今どこにいるのだろう?
音はなく、上下の区別もつかない。それどころが、自分の体の位置すらわからない。
だが、一つだけ、両手の感覚だけはあった。
俺はすがるように両手を強く握った。
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唐突に視界が暗闇に切り替わった。さらに、体が重力に引っ張られるのを感じる。そのまま自由落下で地面に落ちるが、幸い地面はなにかが積もっていて柔らかく、俺は怪我をせずに済んだ。
……転移したか……ここは……?
いまにも途切れそうな意識の中で、周囲を見渡す。真っ暗闇の中、石の壁があるばかりで生命を感じない。洞窟にでも転移したのだろうか。
はっ! 他の人は!?
周囲に人影はない。もしや、一人で転移してしまったのだろうか。
ここで、両手で何かを握っていることに気付いた。見ると、ラインとフレイが眠っていた。とりあえず一人ぼっちでないことに安堵しつつ、外敵に襲われないよう土魔法で体を隠そうとした。だが、
……魔力を……動かせねえ……
なんとか土を体の上に出現させたところで俺は意識を手放した。
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「うっ……」
ゆっくり意識が覚醒していくのを感じる。結構時間が経った気がするが、どれほど寝ていただろうか。
俺は立ち上がり、周囲を見渡した。暗闇でよく見えないが、足元で、ラインとフレイが眠っているのは分かった。幸運にも、寝ている間に何かに襲われるようなことはなかったみたいだ。実はあまり時間が経ってないだけかもしれないが。
大分暗闇に目が慣れてきた。ぱっと見渡した感じ、俺たち以外の人は見当たらない。どうやらここに転移したのは俺たち三人だけらしい。
他の人達は大丈夫だろうか。セーラ、ダラス、リリ、それと、イア。家族に始まり、親交が深かった人々の顔が次々と浮かんでくる。
「あ、そうだ!」
ふと思いつき、俺は首飾りをとりだした。括り付けられているミサンガを見れば、イアの生死が分かるはずだ。
高鳴る心臓を押さえつけ、恐る恐るミサンガを見る。
ミサンガは切れていなかった。
「……よかった~~」
いくらか心が軽くなった。これでミサンガがしっかり機能していれば、イアが現在少なくとも生きていることが証明されたわけだ。さらには他の人も転移した可能性が高いことも。
「……ん」
俺が静かに安心していると、フレイが起きた。状況を確認しているのか、それともまだ寝ぼけているのか、周囲を見渡している。
「よっ、やっと起きたか」
「……? ロエル! あ、古代龍は!? 他のみんなは!?」
話しかけたら完全に意識が覚醒したようだ。大声をあげて状況を聞いてきた。
「う……」
フレイの声でラインも目覚めた。両手を上に上げて伸びをしている。それが終わったら、周囲をキョロキョロしだした。まだ寝ぼけているのだろう。
突然こちらに気付いたようで、きょとんとして尋ねてきた。
「ここ……どこ?」
「ちゃんと起きなさー-い!!」
「ごふ!!」
フレイの拳がラインの頬にめりこむ。ラインは受け身も取れずに倒れた。まさかまた気絶したりしてないよな。
俺がラインの顔を確認すると、突然ラインの目がカッと見開かれた。
「ロエル! 村のみんなはどうなった!? みんな無事なのか!?」
飛び起きて俺の肩を揺さぶってくる。
「お、お、落ち着け! 俺もよくわかってないから! まずはみんなで話し合おう!」
しばらくの説得の末、フレイの平手打ちによりラインは落ち着いた。今は三人で地面に座り、状況を話し合っている。
「まず、ここがどこなのか、というのはどこかの洞窟ってことくらいしかわからないよな。なんか心当たりあるか?」
「ないわね」
「あるわけねえだろ。洞窟なんてどこも同じにしか見えねえ。そんなことより他の人はどうなったんだよ」
ラインはどうしても他の村人の安否が気になる様子。
「他の人はここにいない以上分からないんだよな。でも、ミサンガが切れてなかったからイアは生きている可能性が高い。てことは、イアは他の場所に転移したってことだから……」
「他のみんなも他の場所に転移した可能性が高いってことね」
「そゆこと。転移魔法陣がどう機能したのかは分からないけど、世界中に散らばっちゃったかもしれない」
「じゃあ早く探さないと!!」
「いや、その前に俺たちの生活を考えよう。どうせこの洞窟を出ないことには探せないしな。まあこの洞窟内にいる可能性もあるが」
「くっ……」
ラインが拳を握りしめ、歯を食いしばっている。村人を心配して居ても立っても居られないようだ。次期領主の責任ってやつか。でも、今は他人より自分の状況を考えてほしい。
「ライン、お前の気持ちは分かる。俺だって家族やイアが心配だし、転移魔法陣制作者としての責任は果たしたいと思ってる。だが、まずは俺たちの安全を確保したい。みんなの捜索はその後に存分にやろう」
「……分かった」
「よし、じゃあ次は食料面を話し合おう。水は魔法で何とかなる」
俺は水魔法を使おうと前にだした手の平を上に向けた。手の平から水があふれる。……あれ? なんか違和感。気のせいか?
「でも、食料は魔法では作れない。なんか洞窟でとれる食料知らないか?」
「ここがどこの洞窟なのかも分からないのに知ってるわけないでしょ」
「魔獣でも狩って食おうぜ」
魔獣ねえ……そんなに強くなさそうだったら狩れるんだけど。あと美味しそうだったら。
キシキシ
「「「!!」」」
突然の物音に、俺たちは一斉に振り向く。暗闇の中で何かがうごめいているのが見える。やがて、何かは見える所まで近づいてきた。
噂をすればなんとやら。蜘蛛のような見た目の魔獣が、数十個の赤い目でこちらを見ていた。
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