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第二十四話 異変

「おや?」


 長くなりそうだと思ったら、突然火球がピタリと来なくなった。

 さすがに諦めてくれたのだろうか。


 これは好機と、俺は儀式魔法を乱射した。

 帝国軍が必死に防御しながら撤退していくのが見える。

 目的達成である。


 儀式魔法が届かなくなったので、帝国軍への追撃を止め、俺は後ろで屍兵と戦っているダラスたちに加勢することにした。


「あれ? ロエル、魔法は大丈夫なのか?」


「はい、父さん。帝国軍は撤退していきました」


「お~~!! よくやったロエル。さすが俺の息子だ!!」


「喜ぶのはここらの屍兵を殲滅した後にしましょう」


 燃やせる人が増えたのと、帝国兵の加勢がなくなったので、周辺にいた屍兵の殲滅はすぐに完了した。


「ふ~~。なかなか疲れたわね」


「いい訓練だったぜ!」


 ラインとフレイが地面にどさりと座りこんで言った。

 師匠との訓練で魔獣とは何度か戦ったことはあったが、人とこんなに長時間戦ったのは初めてだ。

 緊張が解けて一気に疲れが襲ってきたのだろう。

 俺も長時間集中し続けたのでかなり精神的に疲れた。


「よし、少し休んだら拠点に戻るぞ。早くエルに報告しなくちゃいけない」


 ダラスがみんなに号令をかけた。

 俺も早く拠点に戻って落ち着きたい。


「これで父様の負担が軽くなるといいな」


 ラインがぼそっとつぶやいた。

 確かに領主様すごく疲れてたからな。

 だが、


「そう思うならお前もっと大人しくしとけよ」


「それはまた別の話だ」


 ははは……

 こんな感じで軽口を叩いているとひとまず戦いが終わったことを実感できる。

 でも、なんだろう。

 帝国軍が撤退してからなんだか胸騒ぎがする。

 まるでなにかが迫ってきているような。

 すぐにとにかく遠くへ行きたくなる衝動に駆られる。


「ロエル、大丈夫?」


「え?」


 当然イアに問われてはっとなった。


「なんか不安そうな顔してたから……」


「いや、なんでもないよ。さすがに俺も疲れたのかな」


「そう、ならいいけど……」


「あ、そうd…おっふ!」


 突然背中に衝撃を感じた。

 振り向くとフレイが立っている。

 どうやら背中を叩かれたようだ。


「せっかく功績をあげたんだからもっとシャキッとしなさいよ。そんな神妙な顔されたらこっちも素直に喜べないわ!」


「え? それはなんかごめn…せりゃ!」


 横からラインが勢いよく迫ってくる気配がしたので思わず背負い投げした。


「あだ! 何すんだよ!」


「なんかつい反射的に……」


 ラインは立ち上がって砂埃を落とし、俺と肩を組んできた。


「ロエルが何を心配してんのか知らないけどとりあえず今は喜んどこうぜ。こういうメリハリも士気を保つには大事だって父様も言ってたし」


 ……それもそうだな。

 胸騒ぎの原因も分からないからもしかしたら杞憂に終わるかもしれないし、今は喜んどこう。


「よし、帝国軍撃退成功だー-!」


「「「いえー-い!」」」


 俺は不安を吹き飛ばすように叫び、笑った。

 その様子をダラスが温かい目で見ていることに気付いた。


「ロエル、友達は大事にするんだぞ」


「はい!」


 ________


 しばらくして、みんな十分に回復したので拠点への帰還を開始した。

 まだ残っている屍兵と何度も遭遇したが、行きと同じく問題なく対処した。


 時には味方の遺体を発見してしまうこともあった。俺と深い関わりのある人ではなかったので、帝国兵の死体を何度も見たこともあり、そこまで精神にはこなかったが、ダラスやラインはかなりつらそうな顔をしていた。

 とりあえずそういった遺体は魔法でその場で燃やし、身に着けていた鎧などの遺品は持っていった。遺体は放っておくと後で天然の屍兵になってしまうのですぐに燃やしてしまうのが大事なんだそうだ。


「……これで三人目か」


 ラインが遺体を燃やす炎を見つめながらつぶやいた。

 領主の息子として、領民の死には責任を感じているらしい。


「く、こいつはもうすぐ子供ができる予定だったのに……奥さん一人に子育てを押し付けて逝くなよ……」


 ダラスが顔をゆがめながら言った。

 ……めちゃくちゃ不謹慎だけど、死亡フラグって本当にあるんだな……


 ザザ……


「「!!」」


 突然近くの茂みから音がしたので、全員で振り向き戦闘姿勢に入る。

 これは、また屍兵か?


 と思ったら、茂みから出てきたのはコクロウだった。

 黒いオオカミのような魔獣である。

 この森では割とよく見かける奴で、ダラスの狩りについて行ったときや、訓練で何度も倒したことがあった。

 

 だが、ちょっと様子がおかしい。

 数が多いのだ。コクロウは普段五、六体の群れで行動しているが、ここまでの数の群れは見たことがない。いつもの十倍くらいいるんじゃないだろうか。


 これはちょっと時間がかかりそうだ。

 俺は攻撃範囲を広げても周囲への影響が少ない風魔法の構築を始めた。

 だが……


「待て」


 俺が魔法を撃とうとしたところでダラスに止められた。


「狩り人の勘なんだが、敵意を感じない。というか俺たちを認識していないようだ。ここは刺激しないでおこう」


 勘ねえ……

 まあ防御だけはいつでもできるようにしておくか。

 俺は氷魔法を構築した。


 ダラスの言う通り、コクロウは俺たちを無視して、次々と目の前を走り去っていった。

 よく見たらコクロウだけでなく、ファビットや鳥型の魔獣チピヨンなど、いろんな小さな魔獣もいるようだ。

 

 こいつらは一体どうしたのだろうか。

 まるで何かから逃げているみたいではないか。


 俺の中でせっかく忘れていた不安がよみがえってきた。

 これは早く拠点に戻った方がいいかもしれない。


 




 

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