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冠水都市  作者: げのむ
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冠水都市 第一話


 その年の夏は、とても暑い夏になった。

 六月中旬に、晴れた日は昼間の平均気温は28度を越えると、七月に入ってそれが30度に、さらには40度に達した。(あくまでも平均気温なのに注意してほしい)

 この国では、ここ近年は、毎年暑い夏が続いていた。とはいえ、その年の暑さは別格だった。夏の暑さは、この国に暑さ以外のものをもたらした。それは水害だった。

 六月の降雨量は、例年と変わらなかった。ところが七月に入ると、大雨や豪雨が各地で発生した。大雨や豪雨は、雨が原因で起きる、土砂崩れ、河川の氾濫、建物への浸水、農作物への被害、といった自然災害を各地で増やした。

 雨が原因で起きる水害は、九州や沖縄などの暖かい地方に多い。なぜかといえば、暑い地方のが大雨や台風が発生しやすいからだ。

 一般的に台風は、沖縄などの暖かい海上で発生する。発生すると、九州に上陸したり、場合によっては関東までやってくる。最初は勢力が強いが、関東にきた頃には弱まっている。

 だが今年の水害は、いつもとは違った。沖縄や九州でも起きたが、関東あたりでも同時期に発生したからだ。

 七月には、首都圏で豪雨による水害が起きるようになる。

 都内で豪雨による家屋の浸水が数百世帯という、大規模な水害が発生すると。これをマスメディアは大々的にとりあげて、政府はなにをしていた、怠慢だ、と非難轟々で批判した。

 さらにマスメディアのヒステリックな論調に、国民も乗ってしまう。対策を急げ、原因を解明しろ、と政府を糾弾するようになる。

 政府も、水害の被害の対応ならやっていた。だが国民から、さらに輪をかけて、この水害をどうにかしろ、と要求をされて、現在早急な対策を模索中です、とあせりだす。そして水害対策のために、国土交通省や、気象庁に指示をだす。

 さて。水害や土砂災害が起きた場合の対応だが、じつはこれは国土交通省の担当となる。

(たとえば、台風がやってくるので災害対策本部を設置して、市町村に防災のための指示をだすのは、国土交通省の仕事になる)

 今回は水害対策だけでなくて、なぜこんなことになったのか、原因の解明も、政府からの要求に含まれていた。

 気象庁は、国土交通省の外局となる省庁のひとつだ。気象庁の仕事は、気象情報の提供を始めとして、自然災害の危険があればそれを早急に各方面に伝えることである。

 今回の水害対策と、原因の調査は、気象庁が担当することになった。そこで(なんやかやあって)政府の命令をうけた気象庁の職員が、都内にある雑居ビルにいるはずの、水害の専門家のもとに、協力を求めて出むく。この話は、ここから始まる。

 7月12日。時刻は、午前11時。場所は、東京都××区。気温は31度。

 気象庁の職員である尾坂恵子は、ここまで運転してきた公用車である軽自動車を、目的の所在地に近いパーキングエリアに入れると、車から降りる。

 七月にしては強烈すぎる日差しのもと、恵子は通りのむかいにある、周囲の建物と同様に薄汚れたビルのひとつにむかう。

 暑い。とにかく暑い。軽自動車の車内は、空調装置が働いていたのでやりすごせた。でも外はそうはいかない。通りを少し歩いただけで、額に汗が噴きだしてくる。着用してブレザーの上着の下のワイシャツがじっとりと汗ばんでくる。

 上着は車に置いてくるべきだった、と恵子は後悔しながらも、ろくに空調装置が効いていない雑居ビルに入って、古ぼけたエレベータで六階にあがる。

 雑居ビルの各階には、スナックやバーなどの小さな店舗が入っている。恵子がさがしている人物は、報告書にあったように、ビルの六階にある安っぽいスナックのすみの席にいた。

 男が一人、テーブルの上においた焼酎かなにかの飲みかけのグラスを前に、椅子の背にもたれて、よだれをたらして寝入っている。

 シャツにズボンの軽装だが、どちらも汚れてシワだらけだ。頭髪は乱れていて、無精ヒゲだらけの面から察すると、今日はまだ洗面もしていない様子だ。

 男のだらしないありさまを見て、この暑いなかを、仕事だから、と上着を着用でここまでやってきた恵子は、眉根をひそめる。不快だ、という表情になる。

 その男はどこからどう見ても、朝っぱら飲んだくれて、居眠りをしている、酔っぱらいだった。

 どうして自分は、貴重な勤務時間をさいてまで、こんなどうしようない相手に会いにきたのだろう、と恵子は自問自答をする。

 そこで恵子は、上司から指示された命令と、自分がやらなくてはならないことを思い出して、さらにいっそうイヤそうな顔になる。

 恵子は、こみあげてくる嫌悪感をどうにか押しやると、居眠りをしている酔っ払いの男に近づいて、その肩を揺さぶり、呼びかける。

「起きてください。起きて! あなたに用事があります。あなたにしかできないことです。あなたの協力が必要なんです。ちょっと、きこえますか?」

 恵子にわかるはずもないが、そのとき男は夢をみていた。その夢は、轟音とともに押しよせる濁流の呑まれる、という悪夢だった。

 大量の水が、流れるのに適した地形に沿い、轟々と音をたてて、流れてくる。いったい、どこからやってきたのか。大量の水は、奔流の進路上にあるものをすべて呑み込んで、それらをもみくちゃにして押し流していく。

 大量の水が、水しぶきをあげて、こちらにむかってくる。みるみるとそばに、せまってくる。

 まきこまれたら、助からないだろう。奔流を前に、恐怖と不安にふるえあがる。いったいどうして、こんなことになったんだろう……。

 悪夢から脱せたのは、男が起きたからだ。肩を揺さぶられて、呼びかけられて、男はようやく目を覚ます。

 男は、自分を見下ろしているブレザー姿の女性職員の怒った顔を見上げて、眼をまるくする。

 そこでようやく、自分がここでなにをしていたのか、自分を目覚めさせたのがだれか、この女性がなんためにやってきたのか、男は察する。

 男は、恵子がなにか告げる前に、顔をそむけると、その要求を拒絶する。

「いやだ。まっぴらごめんだ。もうたくさんだ。ウンザリだ。拒絶させてもらう。おれはやらないからな。おい、わかったか?」

 男の抗議と拒絶のセリフをきいて、女性はとっさに怒りでキレそうなる。

 だが怒りをグッとこらえておさえこむと、怒るかわりに相手を心底からふるえあがらせるような、つめたい態度と低い声で、こう命じる。

「いいえ、だめです。それは許されません。ここからひきずりだしてでも、あなたにはやるべきことをやってもらいます。これは命令です。従ってもらいます。わかりましたね?」

「きこえなかったのかよ? だからおれはやらないって言っているだろ? ちゃんとおれの話をきけって……。おい、ちょっと、やめないか……」

 ここから動かない、と言い張る男に対して恵子は、すわっている男のベルトをつかんで、グイと椅子から立ちあがらせる。

 そしてベルトをつかんだ格好で、力づくで店の外に連れだそうとする。

 恵子の力は強くて、衰弱していた男では逆らいようもない。それでもなにか言い返そうとする男に、恵子はふりかえりもせずに、一足先に次のようにクギを刺す。

「緊急を要するんです。できるだけ早く対応しなければならないんです。いますぐにとりかからなくちゃならないんです。わかりましたか?」

 これ以上抵抗すれば、肩にかついで運ばれかねない、と男は観念したのだろう。恵子にひっぱられて店からでていく。


 おもてのパーキングエリアに駐車してある軽自動車のところまで、恵子はそのまま、男を連れて行く。

 車のそばを離れたのは、15分かそこらの、短い時間だった。ところがこの短時間で、軽自動車の車内は稼動中のオーブンのように熱せられている。

 かまわずに軽自動車の後部座席に連れてきた男を押し込むと、恵子はヤケドしそうに熱い運転席に乗り込んで、軽自動車を発進させる。

 どこに行けばいいのかはわかっていた。目安はついている。今回の災害対策の資料で、都内の水害に対して脆弱と思われる地域は判明している。そこに連れて行けばいいはずだ。

 後部座席では、連れだした男が、獣医のもとに連れて行かれる犬にように、悲痛な調子で騒いでいる。

 おれは二日酔いで苦しいんだ。こんなに暑苦しくてせまくて窮屈なところにいられるか。いますぐにクルマから降ろせ。涼しくて快適なところで休ませろ。おいきいているのか。

 恵子は相手にしなかった。それでも、子供のように騒いで、文句を言い続けていた同乗者が静かになったので、運転を続けながら、バックミラーで後部座席の様子をたしかめる。

 憔悴した顔つきの男が、後部座席でだらしない格好で横たわって寝ているのを見取る。浅い眠りらしく、コックリコックリとしてはハッと目覚めるのをくりかえしている。

 目的地に到着するまでに、同乗者に目を通させるつもりで持ってきた、資料一式をまとめて閉じたファイルを置いた助手席を、恵子はチラリと一瞥する。ため息をつくと、男のグチや泣きごとをきかないですむので、そのまま寝入らせておくことにした。

 男が次に目覚めたのは、目的地に到着して、クルマから降りるように、恵子から命じられたときだった。

 肩を揺さぶって起こすと、男は朦朧とした様子で立ちあがり、おぼつかない足どりで、あいていたドアから車外にでる。

 そのとたんに、夏の強烈な真昼の日差しが頭上からカッと照りつけて、男は強い衝撃でも受けたように足もとをよろめかせる。

 いきなり浴びた夏の直射日光のせいで、一時的に方向感覚を失い、男は両手の掌で面を覆うと、その場に立ちつくす。

 熱と光しか感じられない。でもやがてゆっくりと、ほかの感覚ももどってくる。

 最初に、音がきこえてくる。車のタイヤが舗装された路面をこするときにたてる独特な音が、数かぎりなく素早く移動する音と、それよりもゆっくりと移動する大勢の人々の足音と話し声だ。

 続いて、まぶしい光になれたのだろう。視覚も回復する。男は、自分が真昼のオフィス街の歩道に立っているのを知る。

 あたりを見回した男は、すぐとなりの車道に恵子が乗った軽自動車が停まっていて。恵子が軽自動車の運転席のひらいた窓から、まとめた資料だろう、ファイル一式を手に持ってこちらにつきだしているのに気付く。

 男は、いらないと手を振ってかえすと、通行人たちにまじって、真昼の街なかの歩道を歩きだす。

「いや、いい。なにをやるべきかはわかってる。必要になったら、あとで読むよ」

「だめよ。そういうわけにはいかない。すぐに読んでもらわないと。まずは私たち気象庁がおかれている状況を理解してもらい、あなたがなにをすべきかをきちんとですね。ちょっと、きいてるのっ!」

 恵子はクドクドと男に言いきかせるが、男はそれを無視してフラフラと歩いていく。

 恵子は、自分の指示に従わない男にカッとなったが、それでも怒りの表情でハンドルを握り、男の歩行速度にあわせて車道をノロノロと、軽自動車を進ませていく。

 照りつける夏の真昼の陽射しを浴びて、男は連れてこられたオフィス街を、あちらの通りからこちらの通りへと、雑踏のまぎれてあてもなくフラフラとさまよいだす。

 巡回中のパトカーがやってくると、迷惑な徐行運転を注意してやめさせようとする。が、恵子が提示した身分証から素性を知ると、ごくろうさまです、と一礼してあとは放置になる。

 意味不明な男の散策というか、放浪というか、街中の徘徊は、それから二時間も三時間も続いた。男がじつは意味ある行動をしているとわかっていなければ、とてもつきあいきれなかったろう。

 公用車である軽自動車で、真昼の街中をふらふらと歩く男のあとを付き添うようについてまわった恵子は、ついに力つきたらしい男が、遊歩道のガードレールに背中をあずけてもたれかかるとへたばって動けなくなるのを見て、ため息をつくと、クルマから降りてそばに近づく。

 男の様子は、最初に見たときよりもひどい。シャツもズボンも汗まみれになっていて、顔色は悪いし、肩であえいでいる。

 恵子は男を見下ろすと、できるだけ丁寧な口調で、次のように呼びかける。

「そんなところにすわりこんでいたら、通報されて逮捕されますよ? 場所を移動するべきじゃありませんか? それとも、それもできないとか? ねぇ、私が言っていることがきこえますか?」

「……」

 返事はない。答える元気もないらしい。察するに、どうやら限界らしい、と恵子は判断すると、了解してうなずく。

 無理をさせると、熱中症で意識を失い、場合によっては死亡することもある。こんなに衰弱している状態では、その危険もある。というか、いつそうなってもおかしくない。

 きっとこの男なりに、必要な調査はすませたのだろう。どこか涼しいところで、休憩をとらせるべきだ。

「しかたないわね。それじゃ、シャワーを浴びられて、着替えも用意してある。休憩がとれるとこに案内するわ。今回の調査でわかったことを、落ち着ける場所できちんと報告してもらいたいしね」

「え。それって」

 その提案をきいて、男はホッと安堵すると、ガードレールにもたれた格好で、弛緩したように身体の力を抜く。

 だが恵子の提案をそのまま信用したわけではないようだ。どこか怪しんだり、疑っている様子で、恵子のハラをさぐるような慎重な態度と口調で、彼女にこう呼びかける。

「でも恵子ちゃんが言うことだからなぁ。じつは、おれをおとしいれるために仕組んでいるんじゃないのか? なにかウラがあるんじゃないのか?」


 また軽自動車の後部座席に乗せられた男が連れて行かれた先には、たしかに恵子が説明したように、シャワールームも、着替えも、休憩場所もあった。

 ただしそれは、外回りにでた作業者たちがもどってきて利用できるように用意された設備であって、準備してある着替えも、ここで働く職員が着用する、あかるい青色の作業服だった。

 シャワーを使っている水音が、広いシャワールームに響き渡る。

 たっぷりとぬるい湯を頭から浴びて、ゆっくりと時間をかけて大量にかいた汗を洗い流す。ついでに髪や身体を洗い、ここ数日分あまりの垢や疲労や睡眠不足を、シャワーの湯といっしょに洗い流そうとする。(ついでに常備してあった髭剃りを使い、無精ヒゲをそってサッパリする)

 ひどい二日酔いは、どうにかしてやわらいだ。それでも睡眠不足と疲労だけは、どうしても拭い去れない。 

 シャワールームには、外回りの仕事からもどってきた職員たちが次々に入ってくる。彼らは、先にシャワーを使っている男に、ごくろうさん、と声をかけてくる。

 男はとっさに、ご苦労様です、と応じるが、自分がいったいどういう経歴の、どんな立場なのかを思い出して、複雑な表情になる。

 とはいえ、ほかに選択肢はない。男は、用意してあるタオルで濡れた身体を拭いてから、ロッカールームに用意してあるノリのきいた新品の作業服を身につける。

 汗まみれの衣類は、汚れ物をしまうためのビニール袋につめる。男はシャワールームを出て、恵子が待っている、来客用の部屋へとむかう。

 恵子が男を連れて行った先は、東京都千代田区大手町にある、気象庁本庁の建物だった。位置としては、JR東京駅と、皇居の敷地との、あいだあたりにある。

 気象庁は、年間で約六百億円の予算で運営され、ここでは約5千2百人の職員が働いている。ちなみに定員うちで1千5百人あまりが、この気象庁本庁に勤務している。六百億円の年間予算も、その40パーセントがなんと機器の整備や維持に使われている。

 気象庁は、都内にある本庁を中心に、府県ごとの管区にわかれていて、それぞれの管区が管理している気象台がある。地方気象台にはそれぞれ30人からの職員が勤務しており、24時間体制で気象観測を始めとする交代勤務をしている

 都内にある本庁には、内部部局として、総務、予報、観測、地震火山、地震・海洋の5つの部がある。さらに予報課、地震津波監視課、環境気象管理官などの合計21の課と管理官がある。

 そして各部や各課では、地球温暖化対策調査官とか、地球環境観測ネットワーク企画調査官とか、観測的運用調査官とか、いろいろな肩書きの専門家たちが働いている。

 担当官の呼称や、各課の仕事の内容については、それぞれの紹介文を読むだけでもワクワクしてくるが、終わらなくなるので、ここでは省略する。

 特徴としては、発足した当時からここの職員たちは皆、技術屋であり技術職だ、ということだ。さまざまな自然現象を相手に、どうにかしてそれを正確に観測して、なんでこんなことが起きたのかを起きたのかを研究する、それを天職にする連中がここには集まっている。

(気象庁職員は、国家公務員の採用試験で合格して採用される一般職員のほかに、4年制の気象大学というのがあって、そこを卒業した専門家たちが採用される仕組みになっている。でも職員には肩書がある人が多いので、卒業した学士が評価される研究をやってそうなるんじゃないだろうか)

 気象庁はそのホームページで、気象庁の役目を、次のように紹介している。

 気象庁は、正しい気象情報を提供することで、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現するのを任務としています。(また世界でも先進的な気象機関として、気象業務に関する国際協力も行っています)

 気象庁は、新しい科学技術を取り入れて、気象技術の技術基盤を確立し、利用目的に応じた、わかりやすい気象情報の作成と提供を行っていきます。(また気象庁のサービスに対する利用者の皆様の声をもとに評価を行い、技術開発を進め、新しいサービスを計画、実現していきます)

 要するに、なにをやっているのか、その仕事を一言で説明するなら、気象情報の提供、つまりは天気予報になるわけだ。

(気象庁はこのために、日本の各地に気象観測用の施設をおいて、さまざまな気象情報をリアルタイムで得ている。そして得た気象情報をもとに天候の予測を行い、その天気予報を内閣府や各省庁に伝えたり、マスコミ関係に知らせるのを役目にしている。ほかにもいろいろなことをやっているが、最初に理解しておくべきは、これだろう)

(そして天気予報をやっているのは、本庁の予報現業部になる。ここには大勢の優秀な職員たちが集まっていて、全国から集められた気象情報を前に、その分析や研究を行っている)

 ただし気象庁が世間に発信するそれは、あたらなくてもよい、見当違いのウソの情報であってはならない。場合によっては国家機密としてあつかわれる情報でもある。ウソみたいだがこちらは本当だ。場合によるが、政府の許可がなければ、公開も公表もされない、といったレベルのものだったりするのだ。

 気象庁本庁に勤務している尾坂恵子の肩書きだが、次のようなものだった。内部部局、総務部、広報課、広報官、尾坂恵子、だ。

 広報が仕事、だからというわけではないが、皆が気象の専門家であるここで、恵子が基本的なことを知らないのはそういう事情だから、と思ってほしい。

 本庁の建物だが、お役所なんだし、なんとなく最新の設備がそろっている、真新しいピカピカのハイテクビルをイメージするんじゃないだろうか。語り手はそう思っていた。

 最新の設備がそろっているのは本当だが、じつはビルそのものは古い。築51年になる、8階建ての、薄暗くて天井が低い建物だったりする。

 気象庁はその役目をこなすために、ほかの省庁にはない、特別な施設や、専用の機器がある。代表的なものは、地球観測システム(アメダス)、気象レーダー観測、高層気象観測(ラジオゾンデ、ウインドプロファイラ)などだ。ほかにも気象観測レーダー、気象観測衛星まである。そしてそれらをささえるための専用の施設や技術者たちがそろっている。

 とはいえ、やはり本庁の建物のなかを歩くと、最初に目に付くのは、どの会社でも目にする、廊下にならんだドアと、エレベータホールだ。そこを忙しそうに行き来する、青色の制服やスーツ姿の職員たちだ。

 あいているドアから室内をのぞけば、吹き抜けのフロアには机と椅子が人数分用意されていて、ノートパソコンや液晶モニタやハードディスクドライブが所狭しとならべられたそこで、ラフな格好をした大勢の職員たちの机について担当した仕事を行っている。

 部外者にはめずらしい光景だし、のぞいてみたくなる場所でもある。だが男はしかめっ面のままで、よく知っている場所のように、廊下を先にすすむと、恵子が待っている来客用に用意された個室のドアをノックしてから、返事をきかずに中に入る。

 来客用の部屋は、六人がけの机と椅子があるだけの場所だった。恵子はそこにいて、自分の仕事場から持ってきたらしい資料をひろげて読んでいる。

 恵子は、もどってきた男が着がえて、折り目正しいパリッとした気象庁の作業着姿なのに満足をする。表情をやわらげて、いいじゃない、よくなったじゃない、とうなずいてかえす。

 好きなところにすわるように男に告げてから、恵子は資料のファイルを閉じて、男をここまで連れてきた理由について説明を始める。

「あなたもきっときいているでしょう。気象庁はいま、その存在意義に関わる重大な問題に直面しています。政府からの指示で、多発している水害の対策をしなければならないのです。それも有効な対策を、早急かつ緊急に、すみやかに立てろ、という命令です。

 そして私が、その仕事を引き受けました。担当しているほかの業務は中断していいから、早急にその有効な対策を考案して提出しろ、というものです。

 私たち気象庁の役目は、正確で的確な気象情報を、(政府から国民にまで)大勢の人たちに提供することです。それにより、国家はもとより、国民の生命と財産を守って、発生する自然災害の被害を軽減させることです。

 ですから、いわば私はいま、気象庁の看板を一身に背負い、その重大な役目をこなさなければならない、責任を負わされているのですよ。私の立場がわかってもらえましたか?」

 恵子のもったいぶった説明をつまらなそうな顔できいていた男は、すわっていた椅子をずらして、姿勢をうしろにそらせると、天井を見上げる。

 興味ない、という男の失礼な態度にかまわず、恵子はきびしい表情と、きつい口調で、男をここまで連れてきた本題にとりかかる。本題を語りだす。

「あなたなら、わかるはずです。私はいま本庁で、とても苦しい立場にあります。受けた命令に対して、私には拒否権もなければ、失敗することも許されません。だからこの難局を乗り越えるために、信頼できるあなたに、こうして協力をお願いしているんです。ですから、どうか、私に手を貸してもらえませんか?」

「つまり、だ。その水害対策をおれにやれって、あんたは言いたいのか? 都民を悩ませている、大雨がもたらす自然災害をふせぐ方法をみつけろと?」

「いえ、そこまでは期待をしていません。あなたには、私が必要としている水害対策のための有効な情報を提供してもらいたいのです。あなたの意見は、省庁外からの専門家による貴重なアドバイスとして、私たちの活動の参考にさせてもらいます。それが気象庁として、いえ私ができるせいいっぱいの譲歩です。ですから、どうか」

 恵子のせっぱつまった表情と、頭をさげて懇願しかねない態度をみれば、それがいまの彼女の本心なのだ、と連れてこられた男にもわかった。

 とはいえ、協力したところで、たいしてメリットはありそうにない申し出だ。男は天井を見上げたままで考えていたが、ややあって椅子にすわりなおすと、恵子にむかって笑いかけて、このようにかえす。

「おれの経歴を知っていたら。おれがどんな経験をしたのかを知っていたら。おれが絶対に気象庁なんかに協力しない、とわかるはずだぜ?」

「それは私も承知しています。よくわかっています。でもそこを、なんとか。どうか、お願いですから……」

「でもおれ、恵子ちゃんのことを気に入ってるからさ。恵子ちゃんに免じて、恵子ちゃんを助けるつもりで、気象庁に手を貸してやってもいいぜ?」

「……そうですか。それは、どうも。ご好意に感謝します。ええ」

 あっさりと協力の約束をとりつけたものの、男のなれなれしい態度と、押し付けがましいセリフに、笑顔でかえそうとした恵子は、けっきょくは嫌悪感を隠しきれない顔になる。

 一見すると、なごやかに展開しかけた二人のやりとりも、男の次のセリフでぶち壊しになる。

「だがまだ調査が必要だ。結論をだすには、もう少し調査をしなくちゃならない。確信を得たら、結果を報告する。報告に必要だから、恵子ちゃんのメールアドレスを教えてよ?」

「……」

 けっきょくは男にやる気がないことを知ると、恵子はまた怒りの表情にもどってしまい、態度も突然につめたくなる。

「メールは、私あてと件名に入れて、気象庁の代表のアドレスで送信してもらえば、私のもとに転送されますから、それでお願いします」

「ええ、そうなの? だったらウチまでクルマで送ってくれない? 借りている部屋まで、ここからけっこうあるしさ」

「歩いてすぐが東京駅ですから、帰路はJRを利用してください。いま警備員を呼びますので、警備員が駅までの道のりを教えてくれるはずです。

 ああそれから、このファイルを渡しておきます。あなた用に用意したものです。調査の参考にしてください。ただし、お貸しした資料を紛失したり、流出させた場合には、それ相応の罪に問われますので、それをよく覚えておいてください。ではごきげんよう」

 忠告とは裏腹に、お前のようなヤツはへまをして逮捕されてしまえ、といわんばかりのつめたい態度で、恵子はファイルを男に押し付けると、内線の電話で警備員を呼ぶ。

 この男を気象庁本庁の敷地の外まで案内するように、駅まで間違いなく連れて行くように、と恵子は警備員に命じる。

 もっと大きな成果を期待していたのに、なにもない徒労に終わったことに恵子は怒り、やっかい払いでもするように、警備員に男を引き渡して、部屋から追いだす。

 男が警備員に連れて行かれると、恵子は遅れてしまった午後の仕事をいまから消化するために、ため息をついて、それにとりかかる。


 男を帰宅させたあとも、恵子は気象庁本庁に残って、広報課で一人で仕事をしていた。

 広報課の同僚たちはとっくに帰宅していた。広々とした吹き抜けの部屋には、見回りにくる警備員以外は、彼女一人しかいない。

 だがこんなに遅い時間になっても、本庁にはまだ大勢の職員たちが勤務している。役所勤めの公務員なんて、残業なし、定時帰宅だ、と思い込んでいる人は、気象庁職員の昼夜関係ないシフト制の24時間勤務を知ったら驚くだろう。

 恵子はあせっていた。あの男をあてにできないとなれば、マニュアル通りの対策案でもいいから、早急に仕上げないとならない。それでうまくいくとは思えなかったが、ほかに有効な方法もない。

 今回の仕事は、ハッキリいってしまえば、もっと責任ある人たちがやるべき仕事だった。複数のチームをつくって、もっと大勢で取り組むべき仕事だ。それだけ難問なのだ。なんで自分のところにきたのか。なぜ一人でやっているのか。理解に苦しむ。

 ともかくだ。もし失敗すれば、自分の評価は地に落ちるだろう。失敗した後のことを考えるだけ、冷や汗がにじんでくる。

 あの男だが、名前は二方耕一にかたこういちという。二方耕一の履歴だが、一通りまとめた資料は、恵子の手もとにそろっている。

 自分が使っている仕事机の、カギをかけてある引き出しをあけると、恵子は持ち出し禁止のファイルのなかから、二方耕一のファイルを抜きだして、机の上でひろげる。

 今回の件で、二方の協力を得るべきかどうかを判断する材料として、課内の同僚に依頼してつくってもらったものだ。

 二ページ程度のうすっぺらい資料を、恵子は読み始める。

 二方耕一の過去になにがあったのか、当人と水害の関係、気象庁との関わりを、この資料をもとに簡潔にまとめると、次のようになる。

 二方耕一は、まだ幼い頃に両親を水害で亡くしている。これは長崎水害という、1982年に起きた、被害の規模が大きさでは国内でもトップレベル水害事故だ。

 長崎県の南部を中心に、同年の7月23日から24日の未明にかけて、集中豪雨が降った。この集中豪雨は、総雨量572ミリ、一時間に187ミリの降水量になってしまい、日本における時間雨量の最高記録になる。書いてるおれがよくわかってないよね。 

 この集中豪雨が原因で、長崎市内を流れる河川が氾濫すると、土砂崩れや崖崩れを引き起こした。これにより長崎県で、299名の死者と行方不明者がでる。このうちの220名が、土石流や山崩れなどの土砂災害の犠牲者だった。二方の両親は、このうちの2名となった。

 両親は土砂災害の犠牲者となったが、いっしょにまきこまれた当時10歳の耕一は救助されて一命をとりとめた。この後、彼は関東にいる親戚のもとに引き取られて、そこで育つ。

 救助された耕一を診察した医師の報告によれば、水害で両親を失った精神的な外傷は大きかったが、その後の治療が効果を発揮した、彼は立ち直った、と診断されている。

 耕一は学業の面では優秀で、高校卒業後は、千葉県柏市にある気象大学の試験に合格すると、同大学を卒業後は、国土交通省の職員として採用されている。

 勤務先は当人の希望から、親戚の地元である宮城気象台となった。勤務態度も良好だった。ところが彼は、2015年に発生した鬼怒川の堤防決壊による河川洪水で、二度目の水害事故を経験する。

 鬼怒川の河川洪水による死者と行方不明者はさいわいにも皆無だった。しかし被害は、床下浸水が約6600戸、床上浸水が約4400戸、浸水面積は約40平方キロメートルと、こちらもまた記録的な大規模水害になってしまう。

 このときに彼を育てた親戚の家が水害にあっている。住んでいた家屋の浸水だけでなく、近隣一帯が水害でダメージを受けたせいで、親戚夫婦は地元を離れて、他県にいる息子夫婦の下に引っ越している。耕一は退職後に、都内に引っ越してきて、安い賃貸の部屋を借りると、一人暮らしをしている。 

 恵子はため息をつくと、ファイルの資料の最後の一文にある、資料をまとめた報告者の感想を読み直す。

 二方耕一は、気象庁に勤務していた頃に、気象台の気象データを参考に、これから水害事故に見舞われそうな地域を予測する、あるいは水害事故の内容を予測する、ということをやっていたらしい。

 このあたりのことについては、当時の彼の上司がくちをにごすような証言しかしていない。それでも証言を得られたもと同僚たちの発言から察するに、二方耕一は個人的な理論に基づく、災害予測のような真似をしていたらしい。いや、していたのは間違いない。

 そのようなあいまいなものに頼るべきではない。今回の水害対策に、この人物の協力を求めるのは間違いだ。報告書は、そのようにまとめられている。

 恵子はもう一度ため息をつくと、資料のファイルを閉じて引き出しにもどして、またカギをかける。

 たしかに第三者の立場から、客観的にみれば、とても信じられないハナシだろう。

 あの予測というか予知は、そばで実際に目撃しなければわからない。それはこの自分がなによりもわかっている。

 そうだ。私は。尾坂恵子は、あの当時、気象庁の地方支局で二方耕一といっしょに働いていた。当時の上司が、同意できない、というシブイ顔でいる前で、耕一がかぎられた気象情報から、どんな自然災害の危険があるのか、なにが起きるのか、それを力説するのを、驚きながら拝聴していたのだ。

 だが耕一の意見は取り上げられなかった。あたり前だ。税金で購入した高価な気象観測機器があって、それで得た観測結果をもとに、長年勉強してきた専門家たちが立てた予測を、一人の一般職員が訴えるたわごとで、どうにかできるわけがない。予測が的中しても、そういうこともあるだろう、で無視されて終わりだ。

 私にだってそれくらいはわかる。くちににこそださなかったが、ほかの同僚たちも同じ意見だったろう。

 だから自分はそんな愚かな真似はしないようにした。自分の気持ちを押さえ込んで、わりあてられた仕事をこなして、自分の信頼と評価をあげるのにつとめた。

 おかげで、いちばん早く、気象庁本庁への移動が決まった。本庁に移動後は、とにかく本庁での仕事が忙しくて、支局に残った耕一がどうなったのか、今回の件があるまで知らないままでいた。というか、忘れていた。

 だけど今回の水害対策の命令を受けたとき、自分がどんな難問を抱えたのかを知ったとき、最初に思い浮かんだのが二方耕一のことだった。

 我ながら自分勝手な女だと思うが、それでも退職後の二方耕一の境遇を知ったとき、もしかするとこの難問を解決するのに彼を利用できるのではないか、と考えた。

 でもどうやら、期待は裏切られたようだ。今日のあのひどい様子をみるかぎり、なにか役に立つことができるとは思えない。こうなったら、なにかもっと別の方法で、この問題を解決しなくてはならない。

 恵子は自分一人しか残っていない仕事場で、疲れていて落ち込んだ気持ちを引きあげようと、自身にむかって次のように言いきかせる。

「よしっ、みてろよっ! 私がなんとかしてやるっ! この苦しい局面を乗り切らなきゃ、私の今後はないんだっ! こんなところで負けるもんかっ! 

 だれかを利用して、それであたしが生き残れるなら、積極的にやってやるっ! 手を汚さなきゃならないなら、とことん汚してやるっ! そして見事に解決して、私が失敗するのを期待している、あいつらのハナをあかしてやるっ!

 まあみてなさいってっ! 私はそんじょそこらの連中とは違うんだからねっ! はっはっはっはっは!」

 胸を張って、恵子は大声で自身にそう言いきかせる。だがカラ元気は続かない。程なくして、肩を落として、ため息をつく。

「……とはいえ、なんのために、私はこんな苦労をしているのかしらねぇ?」

 恵子は、ほかにだれも残っていない職場を見回すと、やりきれない、といった疲れた表情で、そう自身に問いかける。


 仕事場に泊まって徹夜で仕事に取り組んでいるうちに、いつのまにか寝入っていたらしい。恵子は、夢の中で雨音をきいていた。

 ああ、どこかで雨が降っている。そうだ。洗濯物を外にだしていなかったろうか? ちゃんと部屋の窓を閉めたろうか? ベランダに布団を出しっぱなしにしていなかったろうか?

 だれかに肩を揺さぶられて、恵子はみていた夢から覚める。

 恵子は自分が、賃貸しているマンションの部屋のベッドで寝ているのではなく、せまい部屋のなかで、上着を脱いで、毛布を頭からかぶって寝ていたのに気付く。

 最初は、なぜ自分がこんなところにいるのか、恵子はその理由がわからなかった。ややあって彼女は自分が、水害対策の計画書を作成するために本庁に泊まったこと、徹夜してそのまま出勤したが、睡眠不足に耐えられずに昼の休憩時間に休憩室で仮眠をとっていたこと、それを思い出す。

 恵子の肩を揺さぶって起こしたのは、予報現業室で仕事をしている、昼のシフトを担当している顔見知りの職員だった。

 そばに膝ついた格好で、困った表情でこちらを見ている職員を、恵子はうつろな表情で見返す。

 顔見知りの職員は、恵子を起こした理由を告げる。

「雨です。雨が降り始めました。それもかなりの大雨です」

 そんなの普通なら、起こす理由にはならないだろう。でもここは気象庁だ。恵子はすぐに相手の意図に気付いて、職員に問いかえす。

「え。なに。どういうこと? だって予報じゃ今日一日、ずっと晴れだったはずよ? 午後から雨になるなんて予報は出していなかったわよね? だいたい、ついさっきまであんなに晴れていたんだから、なにかの間違いじゃないの?」

 事情を知らされた恵子は、それでも寝起きのニブイ思考力では理解が追いつかず、そう問いかけたあとで、とりあえずはまず、どうなっているのかをたしかめようとする。

 恵子は立ちあがると、休憩室の窓のカーテンをあけて、ロックを解除して窓をあける。

 ざぁっ、と大量の水が地面にぶつかる音が、二人がいる部屋の中に伝わる。

 恵子は外を見て、その言葉通りに大雨になっているのを知って、絶句する。同時に、なんであんな夢をみたのかを、わけを理解する。

 いつもなら、視界をふさいでいる立ち並ぶ高層ビル群が、いまはボンヤリとかすんでいる。

 降り注ぐ雨つぶが、カーテンのように視界をふさいでいるからだ。しかも路面にたたきつけられる雨つぶの飛沫が、霧のようにまきあがっている。そのせいで、さらに前がよく見えなくなっている。

 ものすごいドシャぶりだった。大型タンクの下についた蛇口をひねって、全開にする。そのせいで、物理的なダメージが生じる、何トンもある大量の水が空から落下してきた。そんな具合の豪雨だった。

 さっきまでは、よく晴れた夏の青空だった。その青空をみて、今日も一日中ずっと暑いのだろう、と寝不足の状態でウンザリしていたのに。

 驚いた顔でかたまってしまった恵子にむかって、職員は彼女が自分にきくであろう質問の答えを、手短に要点をまとめて彼女に伝える。

「降り始めは、いまから10分ほど前です。降り始めから激しい雨でしたが、すぐに時間降水量が80ミリを超える、猛烈な雨、に変化しました。降雨量の値はさらに伸びそうです。

 気象レーダーで確認したところでは、これは千代田区上空に発生した積乱雲による、十数キロの範囲内での局地的な大雨だ、ということです。

 この大雨のせいで、各種の交通機関に影響があらわれています。このままでは、鉄道とバスに、混乱と遅延が生じるでしょうね」

「でも、そんなの、おかしいじゃない! 気象庁のレーダーは正常に動いていたんでしょ? どうして雨雲の発生や接近を発見できなかったの? どうしてよっ?」

 恵子は納得がいかず、同じ質問をくりかえす。

 職員はその問いかけに、くびを横にふると、次のように答える。

「それが、わからないんです。レーダーには、大雨を降らせる雨雲の接近はありませんでした。本当に発見できなかったんです。昨日から今日までの時点で。いえ、ついさっきまで、とてもこんな大雨を降らせる雨雲は都心の空になかったんですよ。

 レーダーから送られてくる観測記録をみていたのは、自分です。突然に大量の雲ができあがると、突然に雨が降りだした。そうとしかいいようがない現象だったんです」

 わけがわからない、という顔でいる職員の説明を、恵子は黙ってきくよりない。

 レーダーというと、防衛省が持っている、航空機の領空侵犯や、弾道ミサイルの飛翔を探知する、軍事的に利用されている、ああいうものをまず想像する、と思う。

 じつは気象庁もレーダーを持っている。1950年代に気象庁は、気象観測レーダーを導入すると、これを全国展開させて、国内のどこに雨が降っているのかを常時監視できるようにした。

 ほかにも気象庁には、天候の観測のために、1974年から運用を開始した、アメダスと呼ばれる無人気象観測システムがある。アメダスについてはあとで説明するとして、アメダスと前述の気象レーダーを統合することで、気象庁は全国で雨の現在位置を把握できるだけでなく、それがどこに移動するか、どう変化するか、数時間後の予想を予報できるようにしたのだ。(だから今回のこれは、気象庁が予測できなかった大雨になる)

 恵子は最初のショックから回復すると、そこでようやく気象庁がいまやるべき役目を思い出して、ハッとした表情になる。恵子は、そばにいる職員に訴える。

「いけないっ! すぐに大雨警報を発令しないとっ!」

 すっかりあわてている恵子に、職員は言いきかせる。

「警報は、すでにだしています。大雨を予想できずに、大雨になってからなので、完全に後手になってしまいましたが。

 あなたを呼びにきたのは、別の理由です。じつは広報課の課長が、あなたの上司が、あなたに告げることがあると」

 職員の言い出しにくそうな態度での説明をきいて、恵子はその表情をこわばらせる。課長が自分になにを伝えようとしているのか、それを察したからだ。


 7月××日、午後0時45分より、都心を中心に降りだした局地的な大雨、あるいは豪雨は、30分あまり降り続いた。

 この大雨は、短時間ではあったが、それでも雨量が100ミリを越える、記録的な豪雨になった。これにより豪雨が降った範囲内にある道路や、電車バスなどの、都内の交通網に大きな混乱が生じた。

 道路でも、視界不良により移動中の自動車が路肩に停止したことで、大渋滞が生じた。渋滞が解消されたのは、それから3時間後となった。

 交通網への最大の影響は、山手線を始め、京浜東北線など、JR東日本の各線が40分間にわたり、運転を見合わせて、動かなくなったことだ。

 これはあとでわかったことだが、JR東日本のダイヤの乱れをうけて、さらに全国の関係する各線に計75本の列車の遅れが生じた。これにより、およそ4万1千人の乗客が足どめされたことになる。(75本だと、人数が少なくないか?)

 たかが40分たらず動かなくなっただけだ、と思うかもしれない。だが平日の昼間に、首都の交通網のかなめである、JRや、地下鉄や、私鉄が、なんの前ぶれもなく、不意に半時間も使えなくなったのである。

(さらにJRや私鉄の各線で、乗車中に突然に電車がとまって、乗客は車内にすし詰め状態にされて放置された。これがマズかった)

 この事態があらかじめ予測されていれば、問題も起きなかったろう。混乱も回避されたに違いない。つまりは最初から、今日の昼頃に大雨が降る、だから電車が遅れる、ヘタすると停まるかもしれない、とわかっていれば、利用者側もそれに対応できた。

 ところが、大雨の予報はなかった。予報がなかったから、駅まで行ったのに電車が使えなかった。あるいは、動かなくなる電車に閉じ込められる事態となった。

 これから仕事先にむかう、学校に授業を受けに行く、大切な相手に会いにいく、その途中でそんな目にあった利用者は、ひどい経験をした、被害をこうむった、これはだれの責任だ、と怒りを事態の責任者にむけた。

 そしてその怒りは、電車を運営している鉄道会社や、行政を担当している政府や、今日一日は晴天で雨の心配はない、そう予報した気象庁にむけられることになった。

 その日の突然の大雨がもたらした、都心の交通網の混乱と、鉄道の遅延は、さっそくテレビ局や新聞社が大ニュースとして、夕方の番組や、夕刊の記事でとりあげた。特にテレビの各放送局は、現場に中継車を派遣して、夕方の番組でレポーターにその混乱の様子を中継させた。

 突然のゲリラ豪雨がもたらした、首都の交通マヒ! 停止した各線! 4万1千人が足どめ! 経済的な損失は50億円にも! この怒りをどこにむけるべきか? そうやって、あおりにあおったわけだ。

 マスメディアが強調した、鉄道の各線の遅延により生じた損失額だが、じつはこれは正確な数字ではなかった。

 電車がなにかの理由で突然に動かなくなると、そのせいでどれくらいの金額が失われるのか?

 たとえば山手線で遅延や輸送障害が発生した場合には、30分の遅延によって二億円の損害額が発生する。さがせばきっと、そう解説しているホームページの記事が見付かると思う。

 でもこの場合の二億円という損害額の算出は、停止した列車のふりかえ輸送費や人件費、ほかに飛び込み自殺による列車の修理費用などをふくめて、鉄道会社側が試算した額になる。(つまりは飛び込み自殺をすると、遺族や親族に鉄道会社から二億円の請求が行くわけだ)

 となると、列車の乗客たちが、遅延や車内に拘束されたせいで生じる経済的な損失は、つまりは本当だったら会社で仕事していた、それができなかったために生じた損失額は計算ができないことになる。あたり前だが、そんなのいくらになるかわかるわけがないのである。(いやこれも語り手の思い込みで、算出方法はあるのかもしれない。そんな気がする)

 だからマスメディア側がだした五十億円という損失額の数字は、(記事によればとまった列車の本数に二億円をかけて、そこに経済学者がだした数字を足した)マスメディア側の勝手な推測だったわけだ。

 とはいえ、テレビの視聴者や、新聞の読者は、そんな事情を知るわけがなかった。ニュースを見ていた恵子も知らなかった。だから発表された数字を、うのみにしてしまった。

 尾坂恵子は、放送中のニュース番組でレポータが語る、五十億円の損失! という文句をきいて、必死に平静を装っていたが、それでも表情がひきつって、血の気がひいて青ざめるのをどうにもできなかった。

 さらに列車の遅延で車両に拘束された乗客が、番組のインタビューに答えて、大事な契約に遅れた、とれなかった仕事の損をどうしてくれるんだ、と怒るのをきいて、画面を見ていられずにうつむいてしまう。

 テレビのスイッチを切ってしまいたかったが、それはできなかった。番組を見ていたのは、恵子だけではなかったからだ。課内の同僚である気象庁の職員たちや、恵子に水害対策の立案を命じた課長も、いっしょに番組を観ていた。

 課長はふりかえると、青ざめた顔でうつむいてしまった恵子に、苦々しい表情ときびしいくちぶりで、次のように言いきかせて、問いかける。

「きいてのとおりだ。マスコミが言うところの、国民の怒りとやらは、ここにいる我々に、つまりは大雨の予報をだせなかった気象庁にむけられた。

 このニュースは各放送局で、だいたい同じ内容と論調で放送されている。反応だが、政府側に非難と批判のメールが相次いでいるそうだ。いまもその数は増え続けている。メールの内容だが、正しい予報もだせないどこかの省庁には予算をだすな、我々の税金をもっと有効なことに使え、というものらしい。実際はもっと罵詈雑言の連続らしいがね。

 この件を電話で伝えてきた、広報戦略室の室長、言うまでもないが内閣側の担当者は、あとでひとまとめにして送るから、すべて目を通せ、と言っている。

 私も室長からクギを刺されたよ。我々政府側としても、大雨によって生じる首都圏でのゴタゴタは、今回かぎりにしたい。今回かぎりで終わらせるためにも、有効な水害対策の計画を早くだしてもらいたい。そうせっつかれた。さてそれで、君に指示した水害対策の立案だが、できているのかね?」

 恵子は課長と目をあわせずに、うつむいたままで、「草案は午前中に提出させてもらいました。ですがあれでは無理だ、と」と棒読みというか、感情をおさえた低い声で返答する。

 課長はうなずいて、こう続ける。

「うん。その話はきいてる。私は最初に言ったはずだ。政府側が求めているのは、有効な対策だ。マニュアル通りの従来の対策では効果がないから、ちゃんと効果がある、新しい対策を必要としているんだ。それを理解できているかね?」

「……はい。すみませんでした。自分が至らなかったです」

 恵子は課長の指摘に、さらに深く頭をさげると、自分の判断ミスをわびる。

 課長は頭をさげたままでいる恵子に、べつにせめているわけじゃない、と断ってから、こう続ける。

「前にも君に話したが、今回の水害対策は、気象庁の存在意義に関わる問題でもある。だから私は君を信頼して、君だからこそ信用して、この仕事をまかせたんだ。

 もちろん、私たちも協力を惜しまない。助力が必要なら、なんでも言ってほしい。だがもしも荷が重いというなら、別の者にまかせるが。どうするね?」

 課長の問いかけに対して、恵子はうつむいたままで、返答に窮する。どう答えたものか、気持ちを迷わせる。

 恵子は考える。べつに課長は、言葉通りに自分を全面的に信頼して、この仕事をまかせたわけではない。それはわかる。

 もしかすると、自分以外にも、もっと有能な人材が水害対策に取り組んでいて、自分はその人物の当て馬にされるのかもしれない。(そうでなければ、失敗した場合にそなえて、責任をとる役目に自分が選ばれた可能性もある)

 だけど、たとえそうだとしても、省庁では上からの指示は絶対だ。拒絶すれば当人に能力がないものと判断されてしまう。

 恵子は決心すると、視線をあげて課長を見やり、「続けさせてください。どうか、お願いします」とそう言葉にだして要求する。必死の態度で訴える。

 課長はうなずいてかえすと、だが恵子に、事前にクギを刺しておく。

「今回は半時間の交通網の麻痺で、多額の損失が生じた。次回に、これが一時間になれば。あるいは半日続いたら。もしも一週間続けば。そのときは損失額のケタは一気にはねあがる。

 マスコミは責任者を追及する。国民は責任者に断罪を求める。だれかが責任をとらねばならなくなる。そのときは、君にも覚悟してもらうことになる。それでいいかね?」

 課長の容赦ない宣告に、恵子は力を込めて、声を大きくして、了解する。

「もちろんです。私にまかせてくださいっ!」


 仕事場で、勤務時間中に、一人きりになれる場所はかぎられている。

 尾坂恵子は、本庁の駐車場に停めてある公用車の運転席にすわると、(扉はしっかりと閉めてから)ハンドルにうっぷした格好で、なんであんなことを言ってしまったのか、と自身を責め続けていた。

「なぜ。どうして。どういうわけで。私はあんな安請けあいをしてしまったんだ。どう考えてもうまくいかない。これは失敗して支局にもどるコースだ。なのに、なんで……。

 そうだ。いまからでも、やっぱり私には無理です、辞退させてください、と課長に伝えにいこう。それが賢明だ。ダメージが少なくてすむ、いちばん、いい選択だ。

 だいたい、私には荷が重すぎる。リスクが大きすぎる。うまくいかないに決まっている。絶対に失敗するに決まっている。だから早く断りに行くんだ。頭をさげに行くんだ。さあ早く……」

 恵子はそうやってブツブツと自分を責め続けていたが、しばらくそうしていると、取り乱していた気持ちも落ち着いた。

 ため息をつくと、恵子は自身に言いきかせる。いや、駄目だ。断ることはできない。やらなければならない。引き受けて解決しなくちゃならない。どうにかして、この難局を乗り越えなくちゃならない。そうしなければ、自分に未来はない。気象庁での自分の将来もない。

 自分には、専門的な知識も技術もない。人に誇れる肩書きもない。それを獲得する能力もない。専門家だらけのこの場所では、自分のような無能者は、どのみち埋没して終わるだけだろう。それは避けるには、なんとかして仕事で認められるよりない。出世するしかない。

 とはいえ、二方耕一を使い、水害対策をつくる方法は、失敗に終わった。別の手段を講じなければならない。ほかになにか、いい方法はないだろうか。

 まだ最初に提出した草案は、消去せずにノートパソコンに残してある。最初の草案を下敷きにして、修正していくべきだろうか。それともまったく新しい対策案をつくりだすべきか。

 恵子は、ハンドルにうつ伏せて、ぐったりと脱力した格好のままで、悩み続ける。考え込んでいた恵子は、上着のポケットにしまってあるスマホが着信音をたてるのをきく。とりだして画面をながめた恵子は、メールが届いているのを知る。

 そのメールは、気象庁のホームページのアドレスあてに届いたが、あて名が恵子あてになっていたので、恵子のスマホに転送されてきたものだった。

 メールは、二方耕一が自分あてに送信してきたものだった。ハンドルにもたれた格好で、スマホを操作して、恵子は届いたメールを読む。

 件名は「恵子ちゃんへ。水害対策の件で」になっている。本文は次のような内容だった。

「依頼されていた水害対策に役立てる情報だが、あれからいろいろと調べてみてわかったことがある。それを伝えたいので、下記の住所にまで出向いてくれ。時間は、昼の午後の1時頃を目安にしてもらいたい。明日以降でいいが、なるべく急いで」

 恵子は、ハンドルにもたれた格好のままで、読んだメールの内容と、記された住所について考える。

 この言葉通りに、あの男を信じて、指示された場所に行くべきだろうか? それだけの価値があるだろうか?

 恵子の決断は早かった。

「……ないな。うん。そのうちに時間に余裕ができたら、行ってみることにしましょう」

 恵子は車から降りると、求められている対策案を練り直すために、本庁の建物へともどる。

 けっきょく恵子が耕一に指示された場所にむかったのは、計画書の立案がうまくいかずに煮つまってしまい、協力者の意見をきくという名目の息抜きで外出した、それから二日後になった。恵子はそこで、とんでもない目にあうことになる。

 

 ここで必要なので、降雨量について、話をする。

 気象庁が行う発表で、降雨量は××ミリです、あるいは降水量は××ミリです、というのをきいたことがあるはずだ。

 意味はわからなくても、発表される数字が大きければ、降った雨の量が多い。それは理解できると思う。

 降雨量とは、降ってくるもののなかで、雨だけの量をはかった高さをいう。

 降水量とは、降ってくるもので、雨や氷など、水になるものの量をはかった高さをいう。

 降水量とはつまり、雨だけでなくて、雪、あられ、ひょう、霜など、降ってくるもので水になるものをさす。そしてそれが水になった量をいうわけだ。

 降雪量もこれらと同じで、降ってくるもので雪をさすが、積もった雪の高さではなく、これもまた雪が水になったものをはかった高さをいう。

 ではそれぞれの水の高さをどうやってはかるのかだが、これは雨量計を使い計測する。

 たとえば気象庁が発表する時間降雨量だが、これは100センチかける100センチの面積に、1時間でどれだけの水になるものが降ってきて、それが流れずにとどまった場合に何ミリの高さになるか、それを基本にしている。

 時間降雨量とはつまり、上記の方法で、雨量計で1時間の雨の量をはかったものになるわけだ。このほかにも、10分間降水量や、30分間降雨量や、0時から24時までの日降水量があって、それぞれが必要に応じて発表される。また24時間雨量(ある時刻から24時間で降った雨量)や、日雨量(ある日の9時から翌日の9時までの雨量)などいろいろとあって混乱してくる。

 またこのほかにも、気象観測レーダーを使い観測した、レーダー雨量もある。ただしレーダー雨量は瞬間的な計測値になるので、雨量計のが結果的に実測値に近くなるらしい。(このあたりは後述する)

 たとえば、時間降雨量が100ミリ、と発表された場合は、前述したように100センチかける100センチ、つまり一平方メートルの容器を置いて、そこに1時間で水深10センチの雨がたまった、となる。この場合は、水の量は100リットル、重さにして約100キロになる。

 でもわかりにくいので、次のように考えるといいかもしれない。時間降水量が100ミリ、と気象庁が発表したら、それはつまり、屋根や道路など、あらゆるところに1時間に10センチの水がたまるくらいに雨が降っている、ということなのだ。でも実際にそうなっていないのは、それだけ降ってきても排水路に流れてしまうので、わからないだけなのだ。いや、かえってイメージしにくいか。

 気象庁では、時間降雨量を、つまりは雨の強さを、それぞれ次のような言葉で表現している。

 時間降水量が10ミリから20ミリ未満を、やや強い雨。時間降水量が20ミリから30ミリ未満を、強い雨。時間降水量が30ミリから50ミリ未満を、激しい雨。時間降水量が50ミリから80ミリ未満を、非常に激しい雨。時間降水量が80ミリ以上を、猛烈な雨。

 降雨量の違いを、そのように言葉を変えて表現している。つまりは時間降水量が100ミリだった場合には、天気予報では、猛烈な雨、と言うように決まっているわけだ。

 簡単に時間降水量が100ミリと言ってしまったが、これは前述のように、猛烈な雨、に分類されるもので、雨量の多さから土砂災害や河川が氾濫を発生させる、危険な雨になる。

 とはいえ、場合によっては時間降水量が50ミリから80ミリ未満でも、長時間降り続ければ充分に危険なので、同様に注意が必要になる。

 あわせて、気象警報、大雨警報について説明をする。

 気象警報は、重大な災害が起きるおそれがある気象状態のときに、気象台が発表する警報だ。大雨が降れば、大雨注意報や、大雨警報が発表されるようになっている。

 気象警報には、大雨警報のほかにも、洪水警報、大雪警報、暴風警報、暴風雪警報、波浪警報、高潮警報などの、あわせて7種類がある。場合によっては、それぞれの警報を組みあわせて使用をする。

 これら7種類の気象警報がさらに、どれくらい危険なのかにあわせて、注意報、警報、特別警報の3段階にわけて発表される。

 たとえば、大雨注意報、大雨警報、大雨特別警報は、大雨で浸水や、土砂による災害が発生するおそれがある、と予想された場合に発表される。雨がやんでも、災害発生のおそれが残る場合は、注意報、警報、特別警報はそれぞれ維持される。

 注意報、警報、特別警報の違いは、次のようになる。

 注意報のときは、浸水や土砂による(普通の)災害の発生のおそれ、であったのが、警報になると、重大な災害の発生のおそれ、になる。特別警報では、数十年に一度の降雨量となる大雨による、重大な災害の発生のおそれ、になる。危険度がだんだんとランクアップ、レベルアップするわけだ。

 この注意報、警報、特別警報の発表だが、じつは全国で発表される基準が、一律に共通化されていない。北海道は雪が多い、沖縄は台風が多い、と地域ごとに気候が違うので、過去の気象データをもとに、地域ごとに、季節ごとに、警報が発表される基準がそれぞれ異なっているのだ。

 目安として、最大風速20メートル、時間雨量50ミリ、降雪量50センチからが、警報をだす基準になっている。

 調べると発令の判断基準がけっこう複雑でむずかしいが、それでもたとえば大雨注意報が大雨警報に変わったら、そのときはもっと注意しなくちゃならない、と危険度を言葉で体感できるようにはなっている。

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