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幸せだ!

 結婚式、着飾ってマントを翻すジャンの姿はかっこよかった。指に、腕に、首にとつけられた装飾は代々王位を継ぐ時つけなければならないものらしい。

 結構重いんだ、と私にだけ聞こえる声で不満を呟かれてくすりと笑ってしまった。

 教会で誓いの文言の後キスをする。結婚式がファーストキス。それも皆の前でするとは恥ずかしい。そして結婚証明書に名前を書いた。承認サインは国王、つまりジャンの父親がする決まりだ。

 後ろの席には兄とアリスが座っている。他にも国の重要ポストに就く者や他国の方々がいらっしゃっていた。緊張するもののジャンが隣にいるのだから大丈夫。彼をちらりと見つめれば私の視線に気付いて微笑んでくれた。

 ハートマークは健在だ。今日のはとびっきり大きくて多かった。照れている場合ではない。彼が国王になるということは私は女王になるのだから。


 次いで王位継承式。

 お義父様が被っていた王冠がジャンに受け継がれる。周りが歓声に包まれ、同時に拍手が聞こえた。

 後は国民の前に出てお祝いされる。バルコニーから王冠を被ったジャンが現れた途端下の広場に集まっていた人達の大歓声が聞こえた。ジャンが私を紹介するように手を取る。私もゆっくりと国民の前に出た。大きな喝采を受ける。

 私の赤い髪に不快な反応する人は一人もいなかった。

 二人一緒に手を振る。彼が私の肩を抱き寄せた。目を合わせると笑みをこぼす。

(幸せだ)

 はい、私も幸せです。




 *   *   *




 窓から漏れる日差しに目を覚ませば目の前にいたのは私の夫となった人だった。

 同時に昨夜のことを思い出して顔が真っ赤になる。

 文字は気持ちが溢れ出すと頭の上に収まらない。

 だから彼の気持ちが部屋中にある状態で彼に抱かれるという、奇妙な体験をした。お義母様に聞いて覚悟していたが壮絶な初夜だった。羞恥で目を瞑りたいのにジャンが目を開けてと言うのだ。知らないとはいえひどい。

 お義母様の場合結婚するまでに何回かあったというのだからすごい。ジャンが初夜まで我慢すると言ってくれて本当に良かった。

 結婚後になくなるのではないのか。幸せではあったがいくら覚悟しても耐えられないものはある。

「ん……? ディアナ……?」

 両頬を手で包んで狼狽えているとジャンの声が聞こえる。彼が薄っすらと目を開け、私と瞳を合わせると柔らかく微笑んだ。

「おはよう」

「お、おはようございます」

「ん……よく眠れたか?」

「ぁ……は、はい」

 起きたばかりのかすれ声が色気を含んでいるように思うのは私の気のせいだ。ジャンは布団の中で手を伸ばし私を抱き寄せた。

「ふふっ……貴女の温もりはやはり心地良い。愛している、ディアナ」

 額にキスをされる。きゃあああああ。しょ、初夜を終えたとはいえそんな緊張することを。


 ……って、あれ? そういえば文字が見えない。顔を上げてジャンの頭の上を見つめるがハートマークはどこにも見えなかった。

 ああ、なくなってしまったのか。いつまでだったのだろう。分からない。

「ディアナ……? 何かあるのか?」

 少しだけ頭を上げて私が見ていた方向を見る。

 ……お義母様は、文字が消えたら言ってもいいかもしれないと言っていた。ジャンがどんな反応をするか分からないが、私もそうしよう。

「あの、ジャン。実は……」




 *   *   *




「……と、いうわけなんです」

 全てを話し終えた。質問は後でしてほしい、とにかく聞いてほしいと彼の胸に顔を埋めながら話した。一度深呼吸して、そっと顔を窺ってみる。

「………………」

 ジャンは顔を真っ赤にして固まっていた。

「ジャン?」

 私が名を呼べば意識が戻ったようにびくりと震え、がばりと上半身を起こす。

「わ、わわわわ私なななな何か変なことを言ってはいいいいいなかったか……?」

 すごい動揺だ。必死に頭を動かして頭の上を見ようとしている。私も体を起こした。

「大丈夫、です」

 そもそもほとんど表に出していた。私が話すと今度は私を目を見開いて凝視する。

「そ、そうか……そうか……。い、今は見えていないんだな!?」

「え、ええ」

「よ、良かった……」

 胸に手を当てかたかたと震えている。

「おいや、でしたか?」

「……っ……あまり気持ちの良いものではないな……。私はその状態で毎日のように貴女に会いに行っていたのか……。知っていたらもう少し言動に気を付けていたのに」

 問題はないと言ったのだがそれでもこれほど動揺するものなのか。お義母様の言う通りにしてよかった。


 と、ぴたりとジャンが硬直する。そして次の瞬間ぶわっと冷や汗を流していた。私の目を見ないように質問してくる。

「…………ディアナ。もしかして、昨夜、も……?」

「ぁ……は、はい」

「~~~~~っ!!! だ、誰だそんな魔法を考えた奴は!!!!!」

 顔どころか全身を真っ赤にし叫んだ。はあはあ、と息を荒くしながら私の顔色を窺ってくる。

「す、すまない。い、いやじゃなかったか?」

「あ、あの……わ、私としては、素敵、でした」

 顔を隠すように頬を両手で包む。ジャンは嫌がっているが私は結構嬉しかった。彼の私への愛情を感じた。

 私の返事が意外だったのかジャンの勢いが弱まる。

「……ディアナは、文字が見えていやじゃなかったのか。では、その……反対に文字がない私はいやか?」

「そんなことありません。ジャンはジャンです。あの……大好き、です」

 そう告げると今度は嬉しそうにふわりと笑った。そして私に対して腕を伸ばす。私からその中に入ると背中に手が回され力強く抱きしめられる。

「ありがとう。私も愛している、ディアナ。これからも貴女に嘘をつかない。永遠に幸せにすると誓おう」

「ありがとうございます。私は一緒に幸せになりたいです」

 それから抱きしめ合ったまま二人で笑い合った。


 そのまま布団の中に戻り、ジャンに聞かれたため今まで見えた彼の胸の内を詳細に話す。聞いているジャンの顔は赤くなったり青くなったり目まぐるしく変化していた。

「……そう、か。確かに、よくよく思い返してみれば私は結構なことを口にしていたな」

 ……そう、ですね。いやではないが私も照れることが多かった。それを呟くと

「……公の場所ではあまりいちゃいちゃしないようにする」

 と決心したような顔で言われた。

「アレッシオもそうらしい。元々王となるには私は素直すぎるのだ。二人きりの時存分にいちゃつこう」

 それでいい、の、かな。アレッシオ様とリータがあれでもラブラブしないようにしているということに驚いたけれど口にするのはやめた。

 とりあえず頷くと何故かジャンが覆い被さってくる。


 え?

「と、いうことで今は二人きりだ。そして私達は新婚だ。いちゃつく絶好の機会だと思わないか」

 …………え?

「文字が見えない場合も体験してみよう。どちらがいいか選んでくれ」

 ……………………え?

「幸せだ」

 と吐息混じりに囁くジャンはかっこよかったが、文字が見えなくても壮絶な経験をすることになると私は身をもって知った。


 私達の息子はどうなるのだろう。とりあえず、お義母様と同じように本人には言わないようにしようと心に誓った。

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