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抱きたい!

 王妃様とリータとのお茶会も無事に過ごせた。リータは早口の上外見もつり目できりっとした方だから仲良くなれるか心配してしまったが、私に向けられた視線は柔らかく敬語も様付けもなしで話すようになった。王妃様のことも「お義母様」と呼んだほうが喜ぶとアドバイスをもらった。

 アレッシオ様に関してラブラブなことを聞いてみたら

「私、人の目があると素直になれないのだけど周りはそう言ってくれるの。嬉しいわ」

 頬を赤く染めながら素直にそう言われる。そして必死にお願いされた。

「できれば、会う時は二人きりじゃないようにしてもらえるかしら。疑うわけじゃないの。でもいやなの。ごめんなさい」

 特に問題はないため了承すれば感謝される。どこがツンデレなのかと思ったら、アレッシオ様と一緒にいる時がそうだった。


 手を繋いでいたのに私と目が合うとぱっと離し顔を逸らす。

「え~? リータちゃんひど~い」

「な、何がよ。私は別に手を繋ぎたかったわけじゃ……。ディアナも勘違いしないでね」

 何を?

 これがツンデレなのか。しかし勘違いとは何だ。

 不思議に思っているとアレッシオ様が笑う。

「ふふっ、可愛いなあ。勘違いも何もないのにね。早く二人きりになろっか」

「きゃあっ! ひ、人前で何をするの」

 アレッシオ様がリータの腰に手を回す。先ほどより密着している。リータは耳まで真っ赤にし俯いた。

「手を繋ぎたかったわけじゃないならこういうことでしょ? じゃあね、お義姉様」

 離れようとする素振りを見せるものの本気で嫌がっていないのは誰の目から見ても明らかだ。アレッシオ様は実にいい笑顔だった。なるほど、あれがラブラブか。


 ジャンは未だに毎日私を褒めてくれる。手袋をしているのだから、と手を繋ぐこともある。結婚したらこれ以上の接触をするのだ、今から慣れなければと奮起している。ジャンは無理をしなくていいと言いながらも私から手を繋いだり近くに寄ったりすると顔をほころばせて嬉しがってくれた。

 ハートマークも健在だ。結婚するとなくなってしまうのが惜しくなってきた。


 私達はラブラブに見えているだろうか。そうだといい。




 *   *   *




 今日はできあがったウェディングドレスの試着の日。

 ドレスはクオーレ国よりも私の国のドレスに近い、露出の少ないデザインとなった。ジャンがそうするように仕立て人やいろいろな人に告げてくれたのだ。

 ハイウエストのエンパイアラインにハイネック、肘から袖にかけて広がるパゴダスリーブで指先まで覆う。おまけに手が見えないようグローブをつける。トレーンとベールが長いのが特徴だ。顔を見せるのも花婿にだけ。

 さすがに王族となると国民に顔見せの機会があるため、結婚式で花婿にベールを上げてもらったらそのまま。銀のティアラはクオーレ国の王妃が代々つけるものらしい。

 私達の結婚と同時にジャンが王位につくことが決まったのでジャンもいろいろな装飾をつけるそうだ。

 髪型はまとめようと思っていたのだが、ジャンがもったいないと言って両想いになった日と同じ、サイドで三つ編みに決まった。

「綺麗だ」(綺麗だ! 美しい! 素敵だ!)

「ありがとうございます」

「国民もディアナの髪に見惚れるだろう。貴女はダンスパーティーにも出ていないから国民も貴女が見られる日を楽しみにしている」(皆が見惚れるに違いない)

「ぁ……はい」

 そこら辺は少し緊張するが、ジャンが美しいと言ってくれるから大丈夫。それに結婚式にはアリス達も来る。ジャンは魔具があるのだから気軽に遊びに行っていいと言ってくれるけれどいつまでも甘えるわけにはいかない、と私は一年間行かないでいた。

 そして、私はクオーレ国に来てから未だ国民の前に姿を出していない。貴族にも同様だ。

 普通顔見せの機会と言ったらパーティーであるが、私の国は異性との接触をしない関係上ダンスパーティー自体少ない。

 ダンスの練習はするけれどあれとてペアは配偶者、もしくは婚約者だ。婚約者でもない独身同士がパーティーで踊ることはあり得ない。

 ダンスの練習は同性同士。国では男性パート女性パート両方踊れる人が多い。

 なのでお誘いが来ても断っていた。国で私が踊る相手といえば義姉のアリスだった。


 その時、接触するかしないか曖昧な境でふわりと抱きしめられる。文字が見えない。

「えっ、えっ」

「悔しいが貴女の中でお義姉様は大きいな。接触もしていたというから羨ましい。正直、貴女が自国に遊びに行かないことを私は安心している」

 私がアリスのことを考えていたことがバレていたらしい。彼女は家族以外で私の赤毛を最初に美しいと言ってくれた人。彼女がいるから私はパーティーに出られてジャンに出会えた。そう思っている。説明するもジャンは少しだけ回した腕の範囲を狭めた。彼と近くなる。

「分かっている。分かっているが私が貴女の最初の特別になりたかった」

「じゅ、十分特別ですよ」

 私はジャンと会わなければ結婚していたかどうかも分からない。肌が触れていないとはいえここまで近付くことも避けたに違いない。

「ありがとう。ああ、早く結婚したい。貴女を抱きたい」

「っ~~!」

 更に身を寄せられ、接触する。それをいやだとは思わない。ストレートな言動にもただ照れくさいだけで嬉しく思う。私がもし彼と同じように心の内が文字に現れたなら、辺り一面ハートマークだらけであっただろう。

 震える手で彼の裾を掴む。背中まで回す勇気はなかったがジャンの笑う声が聞こえた。




 *   *   *




 庭園を散歩しつつ休憩する。

 ブーケは赤い薔薇にした。私は薔薇が好きだ。

 真っ赤な薔薇。私と同じ赤い色でも人気がある花。国旗にも使われ、自国の庭園にもよく咲いていた。アリスと初めて会ったのもそこだ。薔薇にはいい思い出が多い。

 ととと、またアリスのことを考えてしまう。

 手を繋いで隣を歩くジャンを見つめれば苦笑していた。話題を変えよう。

「えっと、ここの庭園にも咲いていますよね」

 王族居住地側の庭園に薔薇のみが咲いている温室がある。まだ作られたばかりだと思う。私のブーケの薔薇もそこから持って来てもらうことになった。

 女官もお義母様も私が薔薇がいいと伝えたら何故か意味ありげに含み笑いをしていた。

 そういえば、ジャンに聞くといいと言われていたような。

 ジャンは温室の方向を向いてふっと目を細める。

「ああ。あの温室を作るよう指示を出したのは私だ」(あの温室の薔薇はいい)

「え?」

「私も薔薇は好きだ。特に赤い薔薇が好きだ。だから特別な場所を作ってもらった」(赤い薔薇が大好きだ)

 ジャンが立ち止まったため私も止まる。ジャンがもう一方の手を伸ばし、帽子から出ている私のサイドの髪をさらりと撫でた。軽い触れ合いにどきっとする。

「貴女の髪の色も瞳の色も素敵だ。私は結婚するなら貴女のような赤い色のイメージがある方をとずっと想像していた。だから初めて会った時思ったのだ、この人が運命の人だ、と」(貴女が私の運命の人だ)

「ジャン……」

「本当は結婚式の時に言おうと思っていたんだが我慢できなかった。私との結婚式のブーケに赤い薔薇を選んでくれてありがとう」(貴女には赤い薔薇が似合う。大好きだ、ディアナ)

 運命、と。

 ジャンは文字について知らないのに、そう言ってもらえたことが嬉しい。

 赤い色についてここまで褒めてくれて幸せだ。

 私はこの人に出会えて本当に良かった。

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