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面白い!(アレッシオ視点)

 とある国のパーティーに招かれた先で兄が突然プロポーズしたと聞いた時、私はブハッと吹き出した。

 私がこんなんだから真面目で評判のいい兄の突拍子もない行動、笑わないほうがおかしい。最近開発したカメラと名付けた魔具を使ってその画像を保存しておきたかった。いや、動画のほうがいいか。ああもったいない。

 帰ってきた兄は瞳を爛々と輝かせながら彼女がいかに美しいかを語っていた。会ってから一日も経っていない、私はまた笑った。

 兄は毎日のように手紙を送り耐えられないとばかりに足繁く彼女のもとへ通って行った。移動用に発明した魔具が大活躍だ。これは隣国のカーディナル国の国王、つまり彼女の兄が許可してくれたから叶ったことでもある。

 そんなだから南のとある小国との争いに向かった時溜め息ばかりついていたのは笑えた。

「はあ……ディアナ……ディアナ、会いたい……好きだ……」

 あんな物憂げな兄は私も初めて見た。悪いものでも食べたのかと噂になっていたほどだ。真相を伝えれば皆争いが終わり次第会いに行けと囃し立てていた。恋人になれた兄はしばらくハイテンションだった。面白い。


 そして母から聞いたのは兄が一目惚れした彼女は兄の運命の人で、兄の心の内が頭の上に文字として現れる、ということ。歴代の王太子に見えるという不思議現象にしばらく笑いは止まらなかった。見てみたいけれど私は見られないらしい、残念だ。

 それにしても、猪突猛進で素直を絵に描いたような兄にその魔法はどう役に立つのか。最初にかかった王太子に少しでも兄の素直さがあったら苦労せずに済んだだろうに、可哀想に。

 魔術師団団長としては詳しく知りたかったがあれ以来兄からあまり近付くなと言われてしまった。

 真面目な顔で嫉妬する兄にお腹が痛い。

 理由は分からないが兄には文字のことを告げないと決めたらしい。あの兄ならあまり関係ないと思うのに。むしろ告げないほうが苦労しそうだ。まあ、私には見えないのだから余計な助言になってしまうか。体験したことのある母がやめたほうがいいと言うのだ、それに従ったほうが賢明であろう。


 けれど魔法については知りたい。

 私が子どもの頃、魔術師団はうさんくさい集団に見えた。秘密主義で部屋は地下室。真っ黒のマントを被り顔を分からなくして話す時はぶつぶつ小声。魔力がない者を見下す排他主義。何ともまあつまらない集団だった。

 王族は魔力が高い。だから次男である私は当時の魔術師団団長に誘われた。私は迷うことなく入り、そしてその男を押しのけて団長にのし上がった。

 おっと、汚い手は使っていない。正々堂々、実力だ。

 ずるいとするなら私の魔力が当時の魔術師全員を含めても及ばないほど高かったことくらいか。

 まず服装を変えた。黒より白。清潔感は大事である。そして警備の人員を減らし全て魔法でバリアをかけた。警備の人達はここより国のためにするべきいろいろな仕事がある。それに情報漏洩はいやだからね。

 極めつけに魔力のない者でもつける職業にした。反発はねじ伏せた。

 そもそも騎士団は国のために幅広く募集しているのに魔術師団だけ幅が狭いことが秘密主義に繋がっている。

 私達が開発しているのは魔具だ。最終的な魔法の入力は私一人でも事足りる。魔力主義など古い。アイディアを出す人間はたくさんいたほうがいい。秘密主義で少人数でどれだけいいアイディアが浮かぶのか。そうして魔具を平民まで普及させれば国の発展に繋がるし貿易で優位に立てる。

 簡単な道のりではない。今でも反対の声は大きい。しかし魔力がなくても立派な魔具を作れることが証明される度私は間違っていなかったと思える。


 王族だけに現れる魔法など私の好奇心を大層そそる。

 母はともかくお義姉様は聞けば教えてくれそうだが兄に言わないというなら彼女と二人きりにならなければいけなくなる。それは今後無理そうだ。兄に迷惑をかけるのは本意ではない。それともう一人。


「――アレス」

「あれ? 愛しのリータちゃん。どうしたの?」

 魔術師団団長の部屋にいつの間にか幼馴染で婚約者のリータがいた。物理的な鍵ではなく魔法で管理している扉は私が集中すると寝食を忘れて没頭するためリータには自由に開閉できる許可を出している。幼馴染とはいえ彼女の言葉にだけはどんなに集中しても反応する辺り私の運命の人は彼女なのだと分かる。

 二人きりであるが団長室にてあだ名で呼んでくるのは珍しい。

 少々拗ねた様子でこちらに歩いてくる。イスから立ち上がり出迎えれば私の傍に来て体重をかけてきた。

「この前のお茶会、ジャンルカ殿下の婚約者さんと一緒だったの?」

「お母様とも一緒だったよ。場所もお母様の部屋」

「ふーん……」

 更に体重をかけられた。重くはない。ただ可愛いだけだ。

 彼女はやきもち焼きなところがある。そして寄りかかってくるのに私が抱きしめようとすると誰かに見られる恐れがあると離れてしまうのだ。他ならともかくここなら魔法で自由に鍵をかけられるけれど彼女曰くダメらしい。私の私室以外では徹底している。

 ふふ。自分から来るのはいいが私からはダメ、だなんて。我侭なところもツンとしているところも愛しい。

 母曰く文字について伝えることができるのは王族だけ。試しに言おうとしたが無理だった。まさかの筆記も不可。彼女に言えないことがあるのはつらい。

 あ、子どもには言えるのかな?

 お義姉様に会えなくても調べられることはいろいろあるはず。それを次世代に託せばいい。

「楽しそうね」

「まあね。やることはいくらでもあるからね。楽しいよ」

「……そう」

 言い方はそっけないが私がしたいようにすることを良しとしてくれている。

 自分で言うのも何だけどラブラブだ。

 あ、兄は私達のラブラブをいつも見せられて自分もしたい、って鬱憤が溜まっていたのかな? 羨ましい、と言われたこともある。

 時々兄達を見かけるが文字が見えていなくても今お義姉様にハートマークを送っているであろうことは容易に想像できる。誰が見ていようと平気で「好きだ」と言っている。お義姉様も赤面しても嬉しそうだ。

 将来の国王夫妻が仲が良いのはいいことだから周りの目も温かい。

 20歳になるまで恋愛事に無関心だった兄のこういう姿を目にする日が来るとは、本当に面白い。

 考えているとちょいちょい、と服の裾を引っ張られる。リータが頬を膨らませていた。彼女が目の前にいるのに他のことを考えてしまったからだ。可愛いなあ。ごめんね、と頭を撫でると嫌がる素振りをするものの手をはたくことも文句を言うこともない。

 人目がないところで二人きりになったリータがとても可愛いことは、私だけが知っていればいいことである。


 さて。次世代はどうなるかな。私が生きているうちにあの魔法の詳細を知りたいものだ。

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