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妬ける!

 両想いになった私達の婚約はとんとん拍子に進んだ。

 結婚の準備として一年前にはクオーレ国へ行くことになった。王妃になるための勉強という目的もある。

 アリスが涙で濡らした瞳をハンカチで拭いながらも一生懸命手を振ってくれた。

「必ず手紙を書くからね。何かあったら遠慮なく帰ってきてね」

 言葉一つ一つに頷く。私も泣いてしまいそうだ。

「ううっ……もう滅多に貴女に会えなくなるのね。幸せになってね」

「うん」

「私がいる」

「あなたはディアナと違う人間でしょう。あなたは夫、ディアナは親友!」

 肩を抱く兄をきっと睨みつける。兄は慰めのつもりだったと思うが、逆効果だ。

「お義姉様、ご安心ください。必ず私がディアナを幸せにします」(夫婦仲がいいのだな。羨ましい)

 ジャンは兄と同じく肩を抱こうと手を伸ばしたが途中でぴたりと止まった。私としては緊張するので助かる。小さな声で感謝すれば気まずそうだった顔が華やいだ。ハートマークが相変わらず飛び交っている。


 移動方法は魔具。クオーレ国は魔具が発展している。

 今私の目の前にあるのは壁に埋め込まれるように設置された扉。ジャンが持っているドアノブを指定の場所に差し込むとクオーレ国の王城にある扉に繋がる。

 どうやら兄が許可し、それを使って私に会いに来てくれていたらしい。大きい荷物は小さくする魔具があるからそれを使ってもう運び終えている。

 兄とアリスにお別れの挨拶をして、ジャンとクオーレ国への扉を開けた。




 *   *   *




 クオーレ国は私の国の東に位置する大国。首都リコルドは私の国に近い南西にあり、気候は穏やか。

 王城は首都の中央に建っていて十字に近い形をしている。北が王族居住地で、私に割り当てられた部屋はジャンの隣。歴代の王太子妃の部屋だ。

 寝室にある扉はジャンの寝室と繋がっている。ジャンはその部屋の鍵を私に渡してくれた。私の国の文化を尊重し「初夜まで我慢する」と言われた。

 クオーレ国は結婚前にそういうことをしてもいいそうで、私からすると恐ろしい。鍵を握りしめながら震える声で感謝した。


 そうして始まったクオーレ国での生活。

 やはり驚いたのは女性のドレス。

 文化が違うと分かっているとはいえ首から下が露出されている女性を見かけるとびっくりしてしまう。肩、背中まで出している人がいた。平民に至っては足まで出しているとか。何回か卒倒しそうになった。

 ジャンはそんな私のことを考えて世話をする女官を露出が少ない服装に変えてくれた。王城は気温を調節しているため文句も出ずそれどころか皆私を気遣ってくれてありがたい。


「ぶはっ! ひ、一目惚れして、そ、即座にプロポーズって……! ぶくくくくっ、さすがお兄様!」

 ……笑い上戸な方なのかな。

 パーティーに来ていなかったジャンの弟、アレッシオ様。お若いながら魔術師団の団長を務めていらっしゃるそうだ。年齢は私の一つ上。王妃様と相談し、彼にも文字について教えることとなった。

 現在いる場所は王妃様の私室。三人以外使用人もいない。

 王妃様が知らせたところ出来事を詳しく知りたいと懇願されて話した。会った時から笑顔だったが今はお腹を抱えて笑っている。

「ハートマーク……! アハハハハッ、お兄様っぽい! は、裸、見せて、とか……! ひーっ! お兄様すごすぎ!」

 ばんばんと自身の太腿を叩いている。

「アレッシオ、いくら何でも笑いすぎよ」

「す、すみませんお母様。で、ですが想像できすぎて……。研究のために不参加なんてするもんじゃありませんでしたね。くふふふふ。あ。お母様、お父様は一体どうだったので……」

「教えないわ」

 王妃様がふいっと顔を逸らす。何が面白いのかアレッシオ様はまた吹き出した。

「ふはっ、お父様もそれなりだったんですね。それにしても珍しい魔法ですね。聞いたことがないです。いいなー、開発してみたいなー」

 にやにや笑いながら顎に手を当てぶつぶつ考えている。王妃様はそんな彼を見てほう、と息を吐いた。

「まったく、魔法のことになるとこれなんだから。ごめんなさいね、悪い子じゃないのよ」

「あ、いえ」

 首と手を横に振る。

 王妃様はパーティーではきりっとしていたが王城の中ではほのぼのとした方だ。陛下も温厚な方。

「この子はこんなんだけど、貴女ならリータと仲良くなれると思うわ」

 リータ? 首を傾げるとアレッシオ様の婚約者だと告げられた。アレッシオ様が顔を上げる。

「そ。幼馴染。同い年でラブラブだよー。お兄様の前に結婚しちゃうと外野がうるさいから私達の結婚はお兄様とお義姉様の一年後の予定」

「そ、そうなのですか……」

「気にしないでね。王族とはそういうものだってお義姉様も分かるでしょ?」

 へらへらしていたが外野、ということはいろいろあるのだろう。そこはどこの国でも同じらしい。私が赤毛で生まれたメリットは後継者争いに巻き込まれなかったことくらいだ。


 それにしても、ラブラブとは。どういう方なのか会ってみたい。

 王妃様にも聞いてみたところ早速お茶会を開いてみると提案された。

「息子二人だったから娘ができて嬉しいわ。二人の娘とのお茶会。素敵ね」

 嬉しそうにるんるんと手紙を書こうとなさる。アレッシオ様が不満そうに口を尖らせた。

「お母様、せめて息子のいないところで言ってくださいよ~。いいなあ~、リータちゃんとお茶会」

「貴方はいつも一緒にいるでしょ。たまには私に譲りなさい」

「ちぇー。はーい」

 不本意そうだが首肯する。そして私に視線を向けるとにかっと明るく笑った。

「私に対してはツンデレちゃんだけど、優しい子だから。仲良くしてあげてね」

「は、はい」

 ツンデレ、というのはよく分からないが仲良くしてほしいのは私のほうである。こくりと頷いた。


「あ、それでさ、お兄様の頭の上にある文字についてもっと詳しく……」

 その時、ノックの音が聞こえた。王妃様が「どうぞ」と返事をすればジャンが現れる。

「そろそろよろしいですかお母様。アレッシオ、ディアナとあまり一緒にいないでくれ! 私がディアナと二人きりになりたい! 妬ける!」(私がディアナと二人きりになりたい! 妬ける!)

「まあ、貴方も独り占めしたがるのね」

 王妃様が頬に手を当てながら嘆息する。アレッシオ様はげらげら笑っていた。

「くっくっく、ごめんごめん。本当はもうちょっと話していたかったけど、男の嫉妬は厄介だからね~。ま、末永くよろしくね、お義姉様」

 私にウインクすると立ち上がりそれぞれに礼をしてアレッシオ様が去って行った。

「ひーっ、お腹痛い!」

 という笑い声が廊下から響く。


 ジャンがぱっぱっと私の周りの空気を払うように手を振っていた。アレッシオ様のウインクが気に入らなかったのかな。

 私と視線を合わせるように屈んで顔を覗き込んでくる。

「お母様やアレッシオとどんな話をしていたんだ?」(ディアナのことなら何でも知りたい。聞きたい)

「ぁ……えーと……」

「普通のお茶会よ。独占欲はともかく、そうやって根掘り葉掘り聞くのは信頼していないみたいであまりいい気分はしないわ。ディアナ、いくら夫になるからといって話したくないことは話さなくていいのよ」

 王妃様の視線は話さないほうがいい、と語っていた。文字について、私には話してアレッシオ様には話さなかったことがある。きっとそれのせいだ。私も視線で返事をした。

 ジャンは不満そうだったがこればかりは仕方がない。

 王妃様と次のお茶会の約束をし、二人一緒に部屋から出る。

「あの……お仕事はいいんですか?」

「ああ、休憩時間だ。だから貴女に会いたかった」(会いたかった。大好きだ)

「短い時間でしょうに、ありがとうございます」

「いや。少しでも貴女と一緒にいたかっただけだ。私こそお茶会の邪魔をして申し訳ない」(一緒にいたかった。申し訳ない)

 大丈夫です、と告げれば表情が緩みハートマークが飛び交った。

 王妃様曰く王太子の気持ちによって文字の色も赤や青などに変わるらしい。ジャンの文字はほぼ明るい時の赤色だ。

「貴女にもこの後国の勉強の時間があるのは分かっている。それまで散歩に付き合ってくれるか」(また離れてしまうのは寂しいができる限り一緒にいたい)

 はい、と肯定すれば彼の表情が華やぐ。

「大好きだ、ディアナ」(愛してる)

 あれからも毎日好きだと言われている。照れるものの彼が私と一緒にいて幸せだと感じてくれているなら嬉しい。


 ジャンと歩きながらアレッシオ様が来る前に王妃様に言われた文字のことを心の中で反芻する。

 ジャンは素直なほうであるけれど、これは、結婚までに相当な覚悟が必要だ。

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