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9話 ウテナ

 「それで、本当にさっきは何をしたんですか? 強力な魔道具を使ったとか?」


 龍脈衆の隊長らしき人がそうやって下手に出て聞いてくる。


「いや? 普通にこう、近づいてずばっと」

「いやいやいやいやいやいやいやいや」

「ホントですって」

「にしても……こう……」


 龍脈衆の隊長はそう言ってインフェルノドラゴンに視線を向ける。


「ま、無事だったんならいいじゃないですか。セルダースさんこれでいいですか?」

「ふむ。少し待っていよ。フランツ、今の相手はどれ程の敵じゃ?」


 セルダースさんが俺と話していた人に聞く。


「インフェルノドラゴンは最低でもAランクは固いです。普通であれば専用の装備をつけたベテランの龍脈衆が20人は欲しい相手です」

「それほどとは、龍脈衆隊長としての言葉じゃな?」

「はい。普通に戦えば被害はかなりのものになるかと」

「なるほど。流石というほかないのう」

「私を倒しただけのことはある。その腕前、間違っていなかったようだな」

「?」


 ウテナさんは戦闘の空気を感じてか赤くなっている。


「あのウテナ殿を倒したのですか!?」

「模擬戦だけどな」

「それでも有り得ません。龍脈衆はどうしてもその武器の性質上対人戦は不利になりますから」

「そうなのか?」


 ウテナさんは龍脈についての知識はあまり無いらしい。


「そうですよ! 先ほどのインフェルノドラゴンを見たでしょう? あのサイズの龍を倒そうと思えばそれなりの大きさの武器が必要になります。見てください! これほど大きな大剣は人相手にはやりすぎでしょう?」


 彼はそう言って持っている剣を掲げている。


「いい武器じゃないか」

「あ、ありがとうございます。しかし、だからこそ、その普通の見た目の剣であの龍たちを倒したというのが信じられません……規格外もいい所です……」

「まぁ、無事だったんだからいいじゃないか」

「そうじゃのう。と、フランツよ。助かった。ここにいても問題ないかのう?」

「それは……少しおススメ致しません」

「どうしてじゃ?」


 隊長さんの顔色はすぐれない。


「ここ1週間ほど龍脈の活動がかなり活発です。なので、不意に龍が出現してこないとも限りません」

「何が原因じゃ?」

「分かりません。ですが、分析班はもしかしたら他国で過剰に龍力が使われているのがこちらにも来ているかもしれないと」

「何と……。それはどうしようもないの」

「はい」

「分かった。お主たち、一度控室に戻るぞ。というよりもいい時間じゃな。食事でも食べながら続きと行こうか」

「「はい」」

「かしこまりました」


 そうして俺達は出て行こうとした時、さっきの隊長に呼び止められた。


「あの!」

「ん? どうかしたのか?」


 隊長の後ろには多くの人が一列に並んでいる。


 な、なんだ? なんとなく落ち着かない。


「先ほどは助けて頂きありがとうございました! この感謝は忘れません! ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」


 隊長の一礼に合わせて他の隊員達も頭を下げる。そのタイミングは揃っていてかなり綺麗だった。


「ど、どういたしまして。ま、無茶せずに命を大事にな。それが一番だ」


 彼らは顔を上げて俺の顔を見ている。その視線には熱が籠っていて熱い気持ちにさせられた。


「何かあれば言ってください。出来る限り駆けつけますので」

「ああ、期待させてもらう。それじゃあな」

「はい」


 そうして、俺達は『灼熱の龍脈』出て、4人で食事に向かうことになった。



 入った部屋には4人掛けの机があって、その上にはこれでもかと言うよな料理の数々が並んでいる。


 そのどれもがワルマー王国では見たことも無いような料理ばかりで、匂いも素晴らしい。あれとか豚を丸まる焼いていないか?


 部屋の隅々にいる執事やメイドも動きが洗練されていて超一流と言われればこれがそうなのか。と思い浮かべる。


「凄い……」


 アイシャがぽつりと呟くが、完全に同意だ。


「何、お主たちの待遇としては少し物足りなかったかもしれん。必要であればもっと多くの料理や使用人を呼ぶぞ?」

「「いえ、お構いなく」」


 俺とアイシャの発言が被るがこれは仕方のないことだろう。


 ワルマー帝国ではこんな生活は王でも出来ていたか怪しい。それに、庶民的な生活が合っていると自分では思っているので、こういうのはあんまり目立たない感じでお願いしたい。


「そうか? では早速食べるとしよう」


 俺達4人は席について……と思ったが、ウテナさんは使用人達と同じところにたった。


「ウテナさん? どうしたんだ?」

「いえ、今回の事はお2方を歓迎する為のもの。私はここで」

「そんなこと言わずに食べないか? こんなに沢山の料理は食えない。皆で食った方が美味いしな」

「そうよ。セレットの言う通り? 一緒に食べましょう?」

「しかし……」


 ウテナさんは助けを求めるようにセルダースさんを見る。


「ほっほっほ。いいではないか。今回くらいは共に食事をしよう」

「……。分かりました。それでは失礼して」


 ウテナさんは恐る恐る席に着く。


「良かった。こんなに豪華な食事はしたことがないからな。何なら周りの人も一緒になって食べたいくらいだ」


 俺はこういったことになれていない為、セルダースさんの方を見てそう言う。


「彼らは仕事。ここに混ざっても迷惑なだけじゃ。許してやってくれ」

「そう言うなら」

「うむ。では頂くとしようかの」

「「「はい」」」


 食べた料理は今までに味わったことがないくらい美味しかった。


「これは……すごいですね」

「それだけお主らに期待しているということじゃよ。それに、もっと成果を上げばもっと良い待遇を受けられるからの」

「そうなんですか?」

「ああ、女好きの奴はこのメイドが欲しいと言えば通るし、この部屋を自室にしたいと言えば通る。宝物も欲しいと言えばものによっては通るからの。励むことじゃ」

「何でも手に入るんですね」

「ま、そんな簡単に認められる手柄が入る訳ではない。機会を気長に待つと良いよ」

「分かりました」



 そうして楽しい食事が終わり、自室へと戻ることになる。その別れ際にウテナさんに誘われて話すことになった。


「セレット殿、その、少し良いだろうか」

「ん? 何だ?」


 俺は彼女の方に行く。アイシャはセルダースさんの研究を少し見学していくそうで、先に帰っていて欲しいとのことだった。


「その昼間はすごかった。今まで私に勝てる相手はいない。いても4騎士以外にいないだろうと思っていた」

「4騎士同士では戦わないのか?」

「4騎士の称号は重い。帝国最強の称号だから。気軽に4騎士同士で戦ってはいけないんだ」

「なるほど。なかなか大変なんだな」

「そう……かな。そうかもしれない。でも、今日は負けて良かったような気がする。セレット殿に負けて、まだまだ強くなれるということが分かったのだから」

「それは良かった。だけど、無理はしないようにな。何かあったら言うといい。守れるだけ守ってみせるよ」

「……」


 そう言うと彼女の顔は髪と同じように真っ赤になる。


「その、時に個人的な事を聞いても良いだろうか?」

「勿論。大したことは無いけど」

「そんなことはない。ただ、個人的にお付き合いをしている人はいるのか? 先ほどのアイシャ殿とはかなり仲がよかったようだが……」

「アイシャ? まぁ、昔からの幼馴染だからな。同じ孤児院で育ったから一緒に育ったんだよ。それで一番付き合いの長い相手だから仲がいいのかも。でも、付き合ったりはしていないな」

「そう……か。分かった。いいことを聞いた。それではいい夜を」

「ああ、ウテナさんもお休み」


 そう言って俺は去ろうとするが、ウテナさんの足は動かない。


「どうかしたのか?」

「いや、その……。もう一つだけいいだろうか?」

「ん? ああ、勿論だ」

「その、私のことは……ウテナと呼び捨てにしてくれて構わない」

「いいのか?」

「ああ」

「わかった。これからよろしくな、ウテナ」

「ああ、セレット」


 俺達は今度こそ本当に別れた。

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