7話 こういう人
皇帝が退出し、俺達も退出することになり、セルダースさんの案内でかなり豪華な控室に移動することになった。
「しかし、アイシャよ。お主、とんでもない逸材を連れてきおったな……」
「セレットは元々これくらい出来る人でしたから。それを周りが手柄だけ持って行っていただけです」
「何じゃと? そうなのか?」
セルダースさんがそう聞いてくるけど、そういうことはあんまり考えたことはない。
皆が楽になれれば、そう思ってはいたけど……。
「手柄とかはあんまり気にしたことが無かったので……」
「そんな奴がおるのか……?」
コンコン
話始めてすぐに、扉がノックされる。
「開いておるぞ」
セルダースさんが首を傾げつつも許可を出す。
秘密の話し合いをしている訳でも無いので構わないのだろう。
「失礼する」
そうして中に入って来たのは、先ほど戦ったウテナさんだった。その顔はどことなく赤い。
「ウテナさん?」
「あ……。その……。セレット殿……」
「?」
ウテナさんは更に顔を赤くし、何か恥ずかしそうにもじもじしていてどこかに目線を向けている。
さっきまでの凛々しくかっこいい雰囲気の人とは別人に思えた。ただ、こういった感じも可愛らしい。
「さっきの試合何か体に不調でもありましたか? 俺は回復は使えないので、治すといった事は出来ないんですが……」
ここに来たと言うことは何が理由なのだろうか。さっきの復讐とかだと困る。
「いえ、そう言う訳ではなく」
「それでは何か?」
「その、この城に不慣れでしょうし、是非案内でもしようかと……」
「しかし、お仕事等はいいのですか?」
騎士の仕事等もあるだろう。4騎士ということは相当大変な仕事があるはずだ。
「それは大丈夫。部下に投げて……頼んできた」
「そ、そうですか」
「セルダースさん。ウテナさんもいていいでしょうか?」
「勿論じゃ。儂はそっち方面のことについてはあんまり分からんからの。そういう者がついてくれると助かる」
「セルダース様……ありがとうございます」
「良い良い。お前達は儂の孫のようなもの。困った時には頼るが良い」
セルダースさんはそう言って優しそうに笑いかけてくる。
こうやって見ていると本当にただの優しいおじいさんの様に感じた。
「それでは今から案内しようかのう」
こうしてセルダースさんとウテナさんに案内をしてもらうことになった。
それからは食堂や鍛錬場等を案内される。
一応部屋も用意してくれているようで、今までの倍以上に広く綺麗な部屋に住むことになった。むしろ広くなりすぎて困ってしまうほどだ。
「それではお主達が気になっているであろう龍脈に案内しようかの」
「やった。龍脈の特性とかで結構違いが出てくるから知っておきたいのよね」
「アイシャは本当に好きだな」
アイシャははしゃぐ子供の様に嬉しそうだった。
「そりゃそうよ。貴方の武器ももっと強化出来るかもしれないんだから。今はまだ貴方だけしか使えないけど、もっと色んな人も使えるようにしてみせるわ」
「そうなると楽でいいんだけどな」
俺達が話していると、ウテナさんが入ってくる。
「その武器はセレット殿しか使えないのですか?」
「ん? んーまぁ、そんな感じだな。使える人がいてもおかしくは無いんだけど、今のところは見ないっていう感じか」
「そうねー。私も最初に作ってちょっとやりすぎたって後悔しちゃったけど、セレットが使えるって分かって助かっちゃった」
「それはどうしてなのですか?」
「ああ、それは……」
「それはね! ひ。み。つ。どこかのタイミングで見せてね。その方がかっこいいし」
「そうか?」
「そうなの。いいでしょ?」
「む、その方がいいのならそれでいい」
「さ、お主達、比較的小さい龍脈に着いたぞ。軽く腕試しをしていくか?」
「お、そうですね。是非とも」
この一週間くらい一度も龍を狩っていなかったからな。小さい所くらいが丁度いい。
「そもそもな事を聞いてもいいでしょうか?」
ウテナさんが俺を見ていた。
「何です?」
「龍脈とは何なのですか? というよりも龍脈衆とかそういったことに実は不勉強でして……」
「ウテナよ。騎士の勉強しかしないからじゃぞ?」
「面目ない……」
「まぁいいじゃないか。といっても俺たち答えられることもあんまり無いけどな。龍脈とは龍が生まれる場所。そして、その周辺は豊かになり、多くの食料が取れるようになる。と、中に入ってもいいですか?」
「構わんぞい。今はほとんど出んはずじゃからな」
4人で龍脈の中に入る。中は『病魔の龍脈』よりも少しだけ明るい場所だった。
「ここが龍脈……」
「アイシャ、後の説明を頼む」
こういったことは専門家に頼むのが一番だ。
だからアイシャに任せる。
「私? いいけど……ここは広間って言って、私たち魔道具師とかが龍脈の龍力を使って実験をしたり、セレットみたいな龍脈衆が龍と戦う場所なの」
「龍力を使う?」
「そう、龍力は私たち達が持っているような魔力とは違った力で、色んな研究をされているわ。魔道具を動かす動力になったり、魔力とは違った形で体を強化したり出来るの。セルダース様もその権威の一人よ」
「昔の話じゃわい」
「なるほど。では龍と戦うとは? なぜ来るのですか?」
そう言うとアイシャは乾いた笑いを浮かべる。
「あはは、それは分からないわ。ただ、龍に広間を占拠されて時間が経つと、その土地の豊かさが失われるわ。だから龍脈衆と呼ばれる龍専門の退治屋が存在しているのね」
「そんな大事な役目だったのか」
ウテナさんは驚いたように目を見開いている。しかし、龍脈衆の扱いは基本的にこっちでも一緒か。
「大事だけど龍退治はかなり危険だからね。基本的にこの広間で龍を待ち構えて戦うんだけど、出てくる龍の強さはまちまちだから。結構被害が多くて人気もないし、龍を倒したとしてもその死体は残らないから冒険者の様に誇ることもできない。対龍に特化してる分中々目立ちにくいしね。人前で活躍するような感じでもないし」
「基本的にとはここ以外で戦うこともあるのか?」
「ええ、龍脈で多くの龍力を使ってしまうと龍が出てくることがあるわ。ま、有り得ないくらい使わないと無いけどね。それと……」
アイシャはそう言って俺の方を見てくる。
「セレットみたいに小道に入っていくと龍が出てくるわよ」
「なんじゃと!?」
アイシャがそう言った途端にセルダースさんが詰め寄ってくる。
「お主! 小道に入ったのか! どうじゃ! どうじゃった!?」
「え? ええ? どうって言ってもここから見えるような細長いのが続いているだけですよ?」
「もっと! もっと教えろ! いや! 今から行くぞ!」
セルダースさんはそう言って広間の奥に存在する龍の小道に向かって進んでいこうとする。彼の目は血走っていて、かなりの狂気を感じさせた。
「ま、待ってください! セルダース様まで行くのは危険すぎます!」
「それでも儂は知りたいんじゃ!」
「今度連れていきますから。それで満足してください」
「なぜ今度なんじゃ! 今すぐ行くべきじゃろうが!」
「ちゃんと調べる道具も持って行った方がいいのでは?」
「……むぅ。確かにの」
良かった元に戻ってくれたようだ。
「あの、どうして龍の小道? には行かれないのですか?」
ウテナさんが控えめに聞いてくる。
それに答えを返すのはアイシャだ。
「それは当然どこから龍が現れるか分からないし、数を頼りに戦えないからね。龍退治は最低10人とか集まってやるものなの。セレットが一人で倒しているのはおかしいことなのよ?」
「なるほど、だからセレット殿はそれほどの力を持っているのだな。素晴らしい」
「うーん。普通に戦ってたらこうなっただけなんだけどな」
俺がそう言うと、アイシャはため息をつく。
「セレットってこういう人なのよ。だから手柄とか気にしていないの」
「ふむ、ならば、今からその実力を他の者に示してくるか?」
「「「え?」」」
軽い腕試しと聞いていたけどちょっと違うことになりそうだ。