6話 トリアス(追放サイド)
少し時間は遡ってワルマー王国の王都。
トリアスは部下を連れて『病魔の龍脈』で実験の準備に取り掛かっていた。
「サッサとしろ! この実験には陛下が期待を寄せているのだぞ!」
「しかしトリアス様。本当にこれほどの量の龍力を使っていいのですか? この国の1年分等、龍がどれほど出てくるか……」
「貴様、話を聞いておらんかったのか? この龍脈では龍は既に出ない。そう言っているだろうが」
「しかし……」
「くどいぞ。そこまでして邪魔をするとは貴様、セレットの回し者か?」
「いえ! そんなことはありません!」
トリアスの部下は顔を真っ青にしながら答える。自分も追放されては堪らない。
「そうか、ではサッサと始めろ」
「畏まりました……」
「トリアス様! 準備完了しました!」
部下の一人がそう言うと、トリアスはニヤリと笑う。
「よし! 世紀の実験だ! この実験でわしは 歴史に名を残すだろう! さあ、始めろ!」
「はっ!」
部下はボタンを押し、実験装置が動き出す。最初は小さな音だったが、次第に大きくなっていく。
「調子はどうだ」
「はい。順調です」
「既に1か月分の龍力が使われています……」
「その調子だ……」
トリアスはそう言って実験の結果を見守った。
彼らに近づく何かがいた。
「ぐわああああああああああああああああ!!!」
「なんだ!?」
「何事だ!?」
その悲鳴に誰もがそちらを向く。
そこには、全身を緑と紫色の液体でどろどろにしている龍がいた。龍は4足歩行で歩きながら何かを飲み込む。
その最後の瞬間にはトリアスの部下の足のようなものが見えた。
その場にいた全員の時が止まる。そして、真っ先に我に返ったのはトリアスだった。
「っ!」
トリアスは一目散に扉を目指し走る。
少し遅れて、彼の部下も走って来た。
トリアスは扉を出ると扉を締めて魔法で鍵をかける。
「永久に閉じよ。ロック」
「トリアス様ああああああ!!!」
「ここを出してください!」
「龍が、龍があああああ!!」
「そこで時間を稼げ。それがお前達への最期の命令だ」
トリアスはそう言ってとある場所へ向かう。彼が到着した場所は龍脈衆が待機する場所だった。
「これはこれはトリアス様、一体どうされました?」
トリアスに近づいてくるのはセレットに変わって『病魔の龍脈』の龍脈衆隊長になったもの。
彼は強くもないし、金で買収したわけでもない。しかし、トリアスに取り入る才能は持っていたようで、こうして子飼いになっていた。
「『病魔の龍脈』へ行ってこい」
「はい? あそこはもう龍が出てこないのでは?」
「いいから数を集めていけ、専用の装備も忘れるな」
「はぁ」
不満げな声を上げる彼を余所に、トリアスは城の中をうろつく。これは彼の癖で、人知れず歩くと彼にとってはいい案が生まれてきていた。
それから数時間。彼はこれからどうするか、装置は無事か。色々考えていると、前の方から複数で走ってくる集団を見つけた。
「ん? この城を走るとは愚かな。何と品のない奴らだ。しかし……。丁度いい。今夜の陛下との食事会に使ってやるとするか」
彼は今夜の食事会で見世物にする為の獲物を選定しようとする。何の罪もなく獲物にすることは出来ないが、何か失敗があるなら問題ない。そう考えていたのだ。
そして、彼は走ってくる連中を呼び止める。
「お前達! 何をやっている! どうなるのか分かっておるのだろうな!」
今まで彼が止めて文句を言い返した者はいない。今回もそうなると信じていた。
「どいてええええええええええ!!!」
「邪魔だああああああああああ!!!」
「死にたいのかあああああああ!!!」
「ぐっ!」
走ってくる連中に突き飛ばされてトリアスは尻もちをつく。
彼の側を走り抜けていく彼らはトリアスを突き飛ばしたこと等気にしていない。その姿は何かから逃げているようだった。
彼は不思議に思い、彼らが逃げてきた方を見る。そこにはゆっくりと近づいてくる何かがいた。
「あれは……?」
遠目にしか見えなかったが、近づいてくるそれは人の様に歩いてくる。しかし、体中から緑色と紫色の液体を出していて、人間ではない様に感じた。
「は……?」
「あ……あ、トリ……アス……さ……ま。たす……けて……く……ださ……い」
その歩いてきた者は、先ほどトリアスが龍脈を見てくるように言った男だった。
その男の姿は至る所から液体が吹き出ていて、よく見ると足や腕もおかしな方向に曲がっている。まぶたも無くなっていて、大きくぎょろぎょろした目はトリアスを見つめていた。
「来るなあああああああああああああああ!!!!!!」
トリアスはこれまでに無いほどの速度で立ち上がり、逃げる。その股は濡れていて、湯気が上っていた。
トリアスはそれに気付くことが出来ないくらい混乱していた。
(あれはなんだあれはなんだあれはなんだ)
頭のどこかでは分かっていたが、感情がそれを理解することを嫌がっていた。
彼は急いで城を出るために出口へと向かう。
入り口ではメイドや兵士がごった返していて、出るに出られない様な状態だった。
「どけええええええ!!! ファイアストーム!」
「ぐわああああああ!!!」
「熱いいいいいいい!!!」
トリアスは何の迷いもなく広範囲を焼き尽くす魔法を放った。城から逃げるために集まっていた人々はなすすべなく焼かれて死んでいく。
そして、一段落した所で彼は燃え尽きた死体を踏みしめて先を急ぐ。何とか城の外に出るとそこは頑丈な鉄格子がきつく閉められていた。
「どうなっておる! わしを出さんか!」
「これはトリアス様! ここは既に閉鎖されております! 急いで他の場所からお逃げください!」
鉄格子の向こう側の兵士がそう言ってくる。
「わしを出さんとどうなるか分かっておるのか!」
「なりません! ここは命令で封鎖されているのです!」
「なぜそんなことになっている!」
「『病魔の龍脈』から龍が溢れ出てきたのです! その数はハッキリとは分かりませんが10体以上は出てきているんです! もしここを開ければ出てくるかもしれません!」
「ではわしはどうなってもいいのか!」
「そんなことは言ってません! 他の場所から出てきてください!」
「ぐるわああああああああああ!!!」
トリアスの背後から恐ろしい鳴き声が聞える。思わず振り返ると、そこにはガリガリと壁を削りながら向かってくる紫色の龍がいた。
「逃げる場所など無くなったわ! 早く出せ!」
「なりません! 魔法師団長なのでしょう!? 倒してください!」
「ふざけたことを! もういい、永久など存在せぬ。ブレイク!」
「トリアス様!?」
トリアスは目の前の大きな錠を魔法で壊し外に出る。
「後は貴様で処理しろ!」
「何ということを! 皆のもの! 集まれ! 錠が壊れたぞ!」
「なんだって!」
トリアスはすぐさまどこかへ走り去っていく。
それから『病魔の龍脈』から出てきた龍の影響を排除しきるのに、1週間はかかった。
そして、その影響で5000を超える人が死ぬか、治らない後遺症を与えられた。
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