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49話 グレゴール・グラディウス侯爵

「いいですわ! こんな服を着てみたいと思っていましたの! どう? 似合います?」


 ロネは可愛らしいワンピースを体に当て、こちらの意見を聞いてくる。


「お似合いですよろ……ロネ」

「せ……オリーブ。呼び捨てにするのは不味いのでは?」

「ならなんと呼ぶんです?」

「……姫さ」

「それはダメでしょう?」


 ウテナと話していると、ロネが楽しそうに近づいて来た。


「ふふ、ロネと呼んでくださいな。ほら、ウテナも」

「しかし……」

「はーやーくー」

「ろ、ロネ……さん。これで許してください」


 ウテナはやはり呼び捨てにすることが出来ないのか、さんつけで呼んでいた。


「仕方ないですわね。それから次に行きましょう。次は屋台料理を食べてみたいですわ。あの油が滴る肉串がずっと気になっていましたの」

「何が入っているか分かりませんから……」

「いいから、行きますわよ」

「ロネさ……ん……」

「ウテナ、行こう。ロネにも楽しんで貰わないと。ずっと公務ばっかりだったんだから。警護はお……私に任せて、もっと話して」

「せ、オリーブ……」


 やばい。見た目だけが変わっているということを忘れてしまいそうになる。


「今日くらいは羽を伸ばさないと。ね?」

「分かった。出来る限りのことはしよう」


 ウテナも頷いてくれたようだ。良かった。


「オリーブは流石ですわね。ウテナの説得なんて中々出来ないんですよの?」

「そうなのか?」

「ええ、こう見えてもかなり頑固なんですよ」

「それはロネ……さんも一緒でしょう?」

「ふふ、そうですわね。では、もっと一杯遊びましょう? 頑固なので譲りませんわ」


 楽しそうに笑うロネを見て、俺とウテナはお互いに目を合わせて苦笑する。


 それからはロネ姫に振り回されるままに、俺とウテナは付き従った。襲われるような雰囲気は何も無かったけど、ある時から雰囲気ががらりと変わった。


 それはロネとウテナと一緒に、この街一番の高級店で食事をしていた時のことだった。



「ここはこの街一番のレストランなんですの」

「全部が個室、それに装飾品もセンスがいい」

「これほどの店、帝都でも十分に構えられるだろう」


 ウテナも俺の言葉に賛同してくれているようだ。


 俺達3人はゆったりとした大きなイスに座りながら適当に話す。


 コンコン


 話をしながら料理を待っていると、部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 俺は一応警戒しながら扉を開ける。そこにいたのは店員だった。


「料理をお持ちしました。配膳してもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

「畏まりました」


 店員は料理を机の上に並べていく。だが問題はそこで起こる。


 店員が料理を並べている時に、たまたま一人の男と、その従者であるメイド2人がそこを通ったのだ。その男は白髪を綺麗にまとめた男で、年齢は既に全盛期を過ぎているが鍛えられた肉体はかなりも物だった。


 その男は中にいるロネを見つけると、店員を押しのけて中に入ってこようとする。


「お客様! 困ります!」

「うるさい。店員ごときが儂に口出しをするな。そこにおられるのはロネスティリア様ではございませんかな?」

「勝手に入られては困ります! 一度外に出てください!」

「うるさいぞ! グラディウス侯爵家党首である儂に逆らうのか! どうなっても知らんぞ!」

「そ、それは……」


 店員は侯爵の名前を出されたのが堪えたのか、さっきまでの抵抗する気力が無くなっていくのが分かった。


「グラディウス様がわたくしに何の用でしょうか?」


 店員の様子を見たロネが店員を助けるように聞く。


「いえ、ただちょっとお姿を拝見したのでご挨拶をと。ここに来る前に大変な目に遭われたとも聞きましたから、大丈夫かと思いまして」


 そう話す侯爵の顔は完全にロネをバカにしているようにしか見えず、とても皇族を尊敬しているようには見えない。


「ええ、わたくしの忠実な部下達が倒してくれましたので、問題はありませんわ」

「ほう、それは素晴らしい。是非儂の部下にお貸し頂けませんかな?」

「それは出来かねますわ。わたくしの可愛い部下達ですので」

「それにしても……素晴らしく鍛えられておりますな」


 グラディウス侯爵はそういいながらウテナと俺の正確にはオリーブの体を舐め回す様に見てくる。


 俺は背筋が寒くなり、さりげなく腕で体を隠す。


 ウテナは見られて困るものなど何もないとばかりに堂々と振舞っている。


「グラディウス様。わたくしの部下をそんな目で見ないで頂けますか?」

「おっと、これは失礼しました。ですが是非とも味わってみたいものですなぁ」

「侯爵様」


 ロネがいらだった声をあげるのが分かる。


「失礼失礼。護衛なのに気が付いた時にはボロボロになっているなら、もっといい仕事につかせた方がいいのかと思いましてな」

「貴様……!」

「ウテナ! おやめなさい」


 ウテナが立ち上がりかけた所で、ロネがそれを止める。


「姫様……」

「侯爵様。貴方が元王族とはいえ、わたくしの部下にその様な言い方許されると思いますか?」

「ええ、当然だとも。皇族とはいえ、末席程度の小娘程度ではな? お前達もそこの小娘に嫌気がさしたり、行く当てが無くなったのなら儂の領地に来るがいい。歓迎してやろう」

「断る」

「お断りします」

「ふん。最初はそう言うが直ぐに来たくなるだろう。儂の所の待遇は素晴らしいぞ? なぁ?」

「あぁ!」


 奴はそう言ってメイドの一人の胸を捻り上げるように持ち上げ、俺達に見せつけてくる。


「こいつはこうやって傷めつけられるのが好きなのだ。お前達女等皆このような者達ばかり、大人しく儂の言うことを聞いておけ」

「ゲスが」

「それ以上来るならお相手をしましょうか?」


 俺は立ち上がり、侯爵を正面から見据えた。


 メイドは侯爵には逆らえないのか苦痛に顔を歪めながら耐えている。こんな事をする奴を許せるはずがない。


「ほう。護衛の分際で言うじゃないか。そういう奴には儂が直々に教え込んでやりたい所だが……。生憎この後予定があるのでな。次に会った時には楽しみにしておくことだ。どうせ直ぐに会えるからな。行くぞ」


 侯爵はそう言ってメイドの胸を離し、部屋を出て行った。


「……」

「……」

「なんなんだアイツは」


 俺は思わず声が漏れ出ていた。


「大変失礼致しました。料理はもう一度作り直して運ばせて頂きます。暫しお待ちいただけないでしょうか」

「ええ、直ぐにやって頂戴」

「畏まりました」


 店員が料理を集めて部屋から出て行った。


「アイツは何者なんだ?」


 答えてくれるのはロネだ。


「あの方はグレゴール・グラディウス。20年程前に帝国に併合された国の元王族」

「元王族なのか。道理で横柄な訳だ」

「しかし……あそこまで言ってくる男でしたか?」

「最近は隠そうともしなくなったわね。言質が取られるパーティとかでは流石に言わないけど、そうじゃない時は酷いもんよ」

「だから処罰も出来ない訳か」

「ええ、アイツの領地は帝都から遠いし、領地運営は問題がないから。処罰しようにも態度が悪いからってだけで処罰は出来ない」

「さっきのメイド達についてもか?」

「自分の所の使用人をどう扱おうが領主の自由。無駄に虐殺しているのでなければ不問にされるの」

「そうか……」


 あんな事をする奴がいるのは正直嬉しくない。アイシャやウテナ、ロネ達にもちょっかいを出して欲しくはない。


「そんな心配しなくても大丈夫よ」

「何がだ?」

「アイシャとかパルマとかに手を出されないか不安なんでしょ?」


 バレバレだったらしい。


「アイシャはセルダース様のお墨付き、パルマは皇帝陛下のお墨付き。そこに手を出したらこの国に喧嘩を売ることになるわ。そんなことは流石にしないでしょう」

「そうか……」

「ええ、だから喧嘩を売るなんてことはやめておきなさい。今の貴方はオリーブの姿を借りているんだから。オリーブが大変なことになるわよ?」

「……すまん。完全に忘れていた」

「やっぱり……」


 そう言ってロネが苦笑する。


 コンコン。


「どうぞ」

「失礼します」


 中に入って来たのは、先ほどの店員だった。


 それから、俺達は料理を楽しんだ。

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