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42話 魔操石

 もう少し、もう少しでこちらを見て居た奴の所につく。


 遠くでこそこそ監視をしているなどどう考えても怪しい。強引に連れてくることが出来なくても、話くらいはするべきだろう。


「誰だ!」


 小高い丘を越えて、木の上に向かって問いかける。


 しかし、返事はない。


 返事の代わりとして、大きな土の塊と、一個の真っ黒い手のひら位の石が落ちてきた。


 俺はそれをキャッチする。


「なんだこれは?」


 禍々しい黒い石。正直長い間見つめていたい物ではない。それに、こうやって見つめていても何かが見つかる訳ではない。ただ何かの手がかりになればいいと考えて、一応持って帰ることに決めた。


 周辺もチラリと探してみたが、何か役に立ちそうな物もなかった。


「戻ろう」


 俺はロネカ姫一行の元に帰った。



「戻った」

「何処に行っていたのだ?」


 俺が戻ると、ウテナの腕の中でロネ姫がすやすやと眠っている。その寝顔は年相応といった感じで、守ってあげたい。そういう欲求が湧いてくるのを感じる。


「黒幕の様なやつがいたところに行っていた」

「黒幕?」

「どういうことですか?」


 ウテナとメイドの一人が聞いてくる。もう一人のメイドは馬車の中に戻っている様だ。


「かなり離れたところから俺達を見ていた奴がいたんだ。そいつがこれを落としていった」

「これは!」

「まさか……」

「知っているのか?」

「ああ、これは魔操石(まそうせき)。帝都の闘技場でも魔物同士が戦っているだろう? そいつらを戦わせるために使っている時の物だ」

「これが……ただの魔石じゃないのか?」


 アイシャは魔石としか言っていなかったけど。


「こちらでは一応分けていることがほとんどですね。魔石と魔操石」

「なるほど」

「この魔操石ですが、相当な大きさです。しかもかなりの質が良い物ですので、簡単には手に入るようなものでもありません。しかし、そういったものは普通は厳重に管理されているはずです」

「それがなぜここに?」

「分かりません。正直それを突き止めるには一度帝都に帰らなければ……」

「しかし、これは公務で来ている。そう簡単に帰る訳には行かん」

「これだけ被害が出ているのにか?」


 普通なら城に戻るのが当然というように思う。


「皇族の護衛は城からは最低限しか出してくれない。それは手駒は自分で集めろ。暗に言っているのだ。そして、国内での自分の身も守れ無い者に生きている価値はない。部下も集めつつ公務もこなす。それがこの国の皇族のルールだ」

「厳しいんだな……」


 そこまでだとは思っていなかった。


「皇族は人々の上に立つ。実力主義を掲げておいて、その程度も出来ぬのでは許されない」

「分かった」

「ただ襲撃をされたのだ。少しくらいの遅れは許される。だから、その間の護衛はセレット。頼んでもいいだろうか?」

「何を言ってるんだ。俺は最初から言っていただろう? ちゃんと護衛の仕事はすると。だから任せろ。ネズミ一匹入れない様にしてやるよ」

「頼んだ」

「この魔操石はこのまま持っていても問題ないのか?」

「ああ、ちゃんとした魔力を使って操るようにしないと出来ないはずだ」

「それも、こっちの方とか、割とざっくりとしたことしか指示できません。それだけ大きなものになるとかなりの魔力が必要になるかと」

「詳しいな」

「グリードベアを操ってたのは私ですから」


 そう言ってメイドはポケットから小さな魔操石を取り出す。


「お前……」

「あなた……」

「その非難は甘んじて受けます。ですから、姫様にだけは何もしないで頂けないでしょうか」


 メイドはそう言って頭を下げる。


「何を言う。その話は終わって……」

「終わっていません。実際に多くの人々が傷つき、倒れているのです。その責任は取らなければなりません」

「それは……」

「その必要はありませんよ」


 そう言って出てきたのはオリーブさんだった。


******


「どうしてでしょうか?」


 メイドは頭を下げたままそう問い返す。


「お話は聞いていました。我々が勝てるような相手を選んだと。しかし、これだけ被害が出たのはウォータードラゴンのせいであり、グリードベアのせいではない。そして、グリードベア程度にやられる我ら護衛団ではあってはいけないのです。だから、貴方がたのせいではない。弱かった我々のせいなのです」

「オリーブさん……」

「オリーブ……」

「だから貴方がたのせいでは断じてありません。護衛団と称して守り切れない。そんなことは仕事を果たしていないのと同義です。それが例え雇い主から仕向けられた以上は全うする。それが護衛というものです」

「しかし……」

「これ以上我々に言わせないでください。お願いします……」


 オリーブは辛いだろうに、そう言って頭を下げる。


「畏まりました」


 メイドもそう言って了承し顔をあげる。その顔は納得がいっていないようだった。


「良かった。それでは、私はもう少し休ませてただ来ますね」

「はい」


 オリーブさんはそう言って帰っていき、自分で地面に横たわった。


「強いな」


 俺の口からはそんな言葉が出ていた。


「ああ、強い。誰もが強くあろうとする。それがこの国のいい所なんだ。うかうかしていられない」

「そうか……。それでこれからどうする? 数日はここで休憩か?」

「ここで休憩と言うか、皆のものを治療しなくては。幸い死者がいなかったのが救いだ」

「あんな魔物相手にすごいよ」

「恐らく多くを倒すために威力を分散させていたのだろうが、そのお陰だな」

「このまま無事で帰れるといいんだが……」

「それは問題ない」

「?」


 俺は彼女の顔を見るが、そこには心配した様子は一切ない。


「当然だろう? 龍騎士様が守ってくれるんだからな」

「はは、そうだな。大舟に乗った気持ちでいてくれ」

「そうする」


 夜になった時、ある人物が俺の所に来る。


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