39話 ハンマー
「セレット!」
「悪い。遅れた」
俺は竜の頭を剣で受け止めながらウテナに返す。
そして、水で濡れながら、奴の頭を蹴る。しかし、水で勢いが殺されてしまうためか効いているようには感じない。
「ちょっと、下がってろ!」
俺は奴の腹に潜り込み、蹴り上げる。奴の体が5m位浮き上がり、そのまま羽を羽ばたかせて後ろに下がっていった。
そして、顔の周りを覆っていた水の鎧を今度は全身に纏わせている。器用な事をする奴だ。
だが、その程度では俺の相棒は防げない。
「はあ!」
魔力を循環させ体を強化する。その一撃は奴の体の、まずは機動力である脚を切り裂く。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」
奴の左足は体から離れ、立っていること出来ない。そして、俺は追撃を仕掛けようとして止まる。
「なんだ?」
奴の体から青白く光る何かが湧きあがってきて、危険を感じたのだ。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「っぐ!」
俺は強烈な咆哮に思わず耳をふさぐ。感覚を強化しているためきついものがある。
その間に、奴の全身を水が覆っていた。その水の鎧は2mはある。俺の剣では防げるような気がしない。
「なんだと!?」
しかも脚はいつの間にか再生し、元に戻っている。どうなってんだ。
奴は水の鎧から鞭を伸ばしながら突進して来る。
「マジか!」
俺は軽々と避けるが、奴に対する攻撃方法が思い当たらない。
奴は全身を水の鎧で守っていて、俺の相棒では届かない。水に入ってもいいが、奴は水を操る。そんな中に飛び込んでいくのは危険すぎる。龍力で相棒を変形させたいが、外では頻繁に変形させることはできない。龍力をある程度持ってきてはいるが、2,3回といった所か。
「それでも!」
俺は避けた後に、奴の弱点を探して奴の体を見る。頭、羽、体、尻尾、脚。至る所に水の鎧を纏っていて攻撃することは至難の技だろう。少なくとも、剣で切り裂くのは厳しい。
「はぁあ!」
俺は奴のがら空きの背中に向かって魔力を纏わせた剣を振り下ろす。
「バオオオオオオ!!」
水の鎧で囲われているせいか、声は余り届かない。しかし、ダメージは入っているようだけど……。
鎧ごと切り裂くことはできたが、奴の鎧は水。斬られた部分から鎧が再生し、奴の体もそのまま再生する。
これじゃあキリがない。やはり剣では厳しい。
かと言って奴に届かせることのできる攻撃はあるのか?
「ドリルを使うか? しかし奴の水に後ろに回り込まれると厳しいかもしれない」
ドリルで一直線に行くか? それとも他に何か弱点の様な物がわかれば。
「セレット!」
どうしようか迷っていると、ウテナから声が聞こえてくる。
「奴はさっき打撃武器を回避していた! もしかしたらそれが弱点かもしれない!」
「分かった! 助かる!」
丁度迷っている所に彼女からの声。これは試してみる価値があるだろう。
「よっと」
何度もバカの一つ覚えに突進してくる竜を躱し、俺は龍力と、魔力を融合させ、己の武器、滅龍器、アスカロードに注ぎ込む。
アスカロードは刃渡り1ⅿほど、そして、柄は30㎝位。その間には青い宝石がはまっていて、それが光り出した。
そして刃の部分が輝きだし、その後に柄も輝きだす。一瞬にして広がり、落ちてきたそれを手でつかむ。
ズン!
腹の奥底にまで響く重さを握りしめるそれから感じる。
俺の手には、巨大なハンマーが握られていた。
ハンマーの柄は1m以上、長い為意外とリーチがある。先の部分は50cm四方の真っ黒な塊が2つついていて、それに叩き潰されれば無事ではすまされない。
俺は、通り過ぎて行った奴を追う。
「はあああああ!!!」
俺は奴に追いつき、気迫を込めて奴の背中に水の鎧の上から叩きつける。
どごおおおおおおおん!!!
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」
奴の体が地面に叩きつけられ、水の鎧も衝撃でかなり吹き飛んでいった。奴も堪らずに悲鳴をあげている。
「まだまだああああああ!!! っぐ!」
俺は振りかぶり、振り下ろそうとした所で、奴の水の鞭で弾き飛ばされる。
咄嗟にハンマーを盾にしたおかげでダメージは受けなかったが、折角のチャンスが。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「だが、効いているのは分かった。このまま行かせてもらうぞ!」
奴はさっきまでバカの一つ覚えに突進して来ていたのをやめて俺の方を片目で凝視している。
俺は奴の向かって正面から向かっていく。
「はあ!」
奴は警戒して鞭で迎撃をして来るが、その程度の攻撃等楽に回避できる。
何十と迫ってくる鞭を回避し、奴の頭にハンマーを叩き込む。
ずどおおおおおおん!!!
水の鎧は飛び散り、奴の頭は地面にめり込む。
俺は確実に殺すため、もう一度ハンマーを振りかぶろうとして、足が違和感を感じて止まった。
「ん?」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「くっ!」
足が何かに動きを止められている時に、奴のブレスを正面から食らって押し戻される。
ハンマーを盾にして問題はないが、水以外の何かが奴を味方しているのか?
周囲の気配を調べようにも目の前にいる竜をそのままには出来ない。
俺は再度突撃する。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「っち!」
奴はまたしてもブレスを吐いてくる。周囲一帯が水になり、足場がドンドン悪くなる。これは時間をかけないほうがいい。
俺は一息で跳び、近くの木に着地する。そして、そこで力を溜めて、竜目掛けて一直線に向かう。
地面に足がついていなければさっきの何かは起きないかもしれない。そして、正面には竜がいるが、近づいて分かったがさっきの衝撃のお陰か奴の目はぼんやりしていた。
飛んでくる鞭を最小限の動きで回避、多少の薄皮が持って行かれる程度なら無視。一直線で奴の頭を目指す!
「はああああああああああ!!!」
ずどおおおおおおおおおおん!!!!!!!
もう一度奴の頭にハンマーを叩きつける。
「まだまだあああああああ!!!」
空中で体をひねり、ハンマーを再び持ち上げて何度も何度も奴の頭に叩きつける。
5,6回程叩いた時、周囲に浮かんでいた水が全て力を失ったかのように地面に落ちた。
俺は手を止め、奴の目を見る。
「やっと死んだか……」
奴の目は、力を失い、だらりと半眼になっていた。
後ろから足音が近づいてくる。この感じはウテナだろうか。
「死んだのか?」
「ああ、大丈夫だと思う」
「助かった……と言いたいが、まだ頼んでもいいか」
「なんだ?」
「奴に弾き飛ばされて多くの者達が森の中に落ちているのだ。助けに行ってくれないか」
「任せろ」
俺が振り返るとそこには、右腕は変な方向に曲がり、鎧も所々壊れてボロボロになったウテナがいた。
「大丈夫か!」
俺は慌てて駆け寄ろうとするが、ウテナに手で制された。
「大丈夫だ、だから、早く他の皆を……」
「すぐに行ってくる!」
俺はハンマーを元の剣に戻し、鞘にしまう。これ以上龍力を使うことは無いと思いたい。
それから感覚を研ぎ澄まし、周囲に聞こえる微かな呼吸音を頼りに森にいた人達を回収していく。
「これで全部か……?」
地面には多くの人が横たわり、使用人や、そこまで怪我を負っていない人が手当をしている。俺は担いで来たオリーブを地面に横たえた。
「かたじけない……」
「大丈夫だ。今はゆっくりと休め」
「あり……がとう……」
彼女はそう言って瞳を閉じた。
「感謝いたします」
後ろから、綺麗な声が聞こえた。
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