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2話 追放

 俺は酷い臭いのする牢獄に入れられた。広さは5歩も歩けば一周出来るくらい。更に枷をつけたままなので、自由に移動することもできない。


 明かりもほとんどなく、薄っすら見える部屋の中はカビが生えた壁と床、寝床なんて上等なものはない場所だった。


 俺はただひたすらに時間が過ぎるのを待つ。


 明日には追放と言われていた。だからそれを待つ。


 龍脈で使った魔力はそれなりに回復はしているので、後は近衛達に蹴られた傷が癒えるのを待つだけだ。


「にしてもやることがないな……」


 呟いても誰かが答えを返してくれる訳じゃない。と思っていると、誰かが歩いてくる。


「いい様だなセレットよ」

「トリアス……」


 そこにいたのは俺を落とし入れようとした宮廷魔法師団長トリアスだった。


 彼は豊かなひげを撫でながらニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「お前がいなくなってしまうのは寂しいよ。感謝はしているんだぞ? 龍脈からいなくなってくれて。これで好きに実験が出来るからな」

「やめておけ! 病魔の龍脈はお前が考えている以上に危険なんだ! もし龍が外に出たらどうするつもりだ!」

「はっ! そう言って今まで多くの龍脈衆を入れなかったらしいな? まぁ、既に龍が湧かないことを、確認させないための理由としては正しいかもしれんがな?」

「そんな事をして何になる!?」

「そんなのはお前の懐が知っていることだろう? たかが龍脈衆の隊長が得るにしては十分以上の財産を持っていたみたいだしな?」

「あれはほとんど使っていなかっただけだ!」

「そんな事を言って信じるとでも? それほど我々を子供だと思ったのか? なめられたものだな」

「そんなつもりはない!」


 俺が正しいことを言っても奴は聞く耳を持っていないらしい。


「まぁいい。これで病魔の龍脈は我々宮廷魔法師団の管轄に移る。好きに実験をさせてもらうよ。これで陛下もお喜びになるだろう」

「あんな無駄な実験に使うつもりか! っぐ!」


 さっきまで笑っていたトリアスが、柵の間から杖を差し込み、俺の足を押さえつける。


「口には気を付けろ。このままここで処理してしまっても構わんのだぞ?」

「そのカスール陛下が追放すると言っただろう……」

「何。ここで殺して、その死体を追放すればよかろう?」

「……」


 彼の目は本気だった。


 ここで何か言ってもダメだと思い、目線を彼からそらす。


「そうだ、それでいい。最初から黙って従っていれば、多少は放っておいてやったものを」

「……」

「ふん。反応せんのはそれはそれで詰まらんな。まぁいい。明日には馬車で追放の旅だ。近衛騎士団がしっかりと護衛するから達者でな。二度と会うことはないだろうが、せいぜい悔いのないようにするといい」


 そう言ってトリアスは去っていく。


 俺は、去っていくその背に何もすることは出来なかった。


******


 次の日の朝。俺は強引に叩き起こされた。


 バシャ!


「つ! 冷た!」

「何をぐずぐずしている! さっさと起きろ! このカスが!」

「何だ! ぐっ」

「口答えをするとはいい度胸だな。さぞかし殴られるのが好きらしい」


 入ってきた兵士の格好は近衛騎士。昨日の奴らの仲間だろう。


 そいつらは俺の枷がついている鎖を持つと、強引に引っ張る。


 そして、以前と同じように引きずられて護送車に乗せられた。


「さっさと入れ!」

「うっ!」


 俺は蹴りを入れられ、牢屋の中に蹴り入れられる。


 護送車の中は真っ暗で、何も見ることはできない。


 布がかけられている為、音は聞こえるが外の状況はほとんど分からない。


 追放されるといってもどこへなのか知ることが出来ない。


 最初は王都を通っているからか人の気配がしても、数時間も立てば音はほとんどしなくなる。


 俺は何とか譲歩を引き出せないかと、声を出す。


「なぁ! 少しいいか!」

「……」

「腹が減ったんだ! 何か食わせてくれ!」

「……」

「頼むよ!」

「うるさい! 黙っていろ!」


 返ってくる返事はそれくらいで、もしもこれ以上話せば鞭が飛んでくる。そう思わされたのでやめる。


 ここで無駄に体力を使う訳にはいかないからだ。追放された後で何とか1人で生きて行かなければならない。


******


 それからの数日は地獄のようだった。


 牢獄の様な酷い臭いこそしなかったが、護送車の床は鉄で出来ていて、衝撃がもろに体にくる。


 そのせいで体を休めることもできなかった。


 辛いことはそれだけではない。1日の食事は小さなカビたパンが一つに、汚いコップに入った水が一杯だけ。


 それを尻目に、周囲では毎晩酒盛りをしている音を聞かされていた。


「……」


 俺はそんな中で、精神力がかなり削られながら何とか耐え続けた。いずれ解放されると信じて。


 変化が突然に起きる。


 それは、深夜の出来事だった。

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