死ぬことはきっと心地いい。
「死にました!」
「え?」
「だから死にました!」
死の宣告をした女はにこやかだった。まるで商店街の一等にでも当たったようなテンションだ。
女……いや天使か?両側に白鳥のような白い翼が二枚ずつ生えており、頭の上に輪っかが浮いている。やはり天使なのだろうか。この暗闇の中で彼女だけが輝いていた。しかし、その様相は全く天使とかけはなれている……。
「えっと。ここは?俺はコスプレ女に誘拐でもされたのか?」
「だーれがコスプレ女じゃい!あーもうちゃんとキャラも作ってたのに!だーかーらー、死んだっつってんの!早く分かれ馬鹿!」
天使、もといコスプレ女はその場で地団駄を踏む。
しかしその姿形はどう考えてもコスプレ女としか言えなかった。肌は日焼けサロンに通っているのかと言うほど黒く、化粧は濃い。特につけまつ毛がビンビンに天に向けて向日葵のように伸びきっている。
非常に女性を表した女体を包むのも、天使っぽい白いベールとかでもなくキャミソールにホットパンツ。
そう、どことなくこのコスプレ女、ちょっと前のギャルっぽさがある。
「あーこの格好?あんたの世界のヤーシブっぽくしたんだよね。どう?イケてるでしょ?ナウいでしょ?パないでしょ!?」
「テンサゲだわ……」
「はぁ?mk5なんですけど!?」
耳にいくつか付いているピアスを揺らしながらむきーっと俺を威嚇するヤーシブ天使。
「まぁいいわ……。とりあえずあんた死んだから」
「いやいや……今もここにいる実感があるし死んでない……よな?死んだ記憶もないし……」
「そらそうよ。あんたの死因、寝相が悪くてベッドから落ちて打ちどころ悪くて死んだんだから」
「何そのダサい死因!カジキマグロに刺さって死ぬよりもダサいじゃんか!」
「ギャハハ!間違いなく今年一番笑った死因よ!毎年あたしが一人で開催してる誰の死因が一番面白かったか決めるS1(死因No.1)グランプリで間違いなく優勝だわ!」
「何その不謹慎な爆笑レッドカーペット!?」
常識のズレた女だ。ただ、嘘を言ってるようにもなんとなく見えないのも事実。
それにこの暗い空間は壁を感じない。何故だか果てしなく広がる大地のようにも思えた。
「あんたまだ疑ってるでしょ……。まぁいいわ。無理もないわよね。改めて鈴木レイ!」
「なんで俺の名前を!?」
「あんたも何となく察しなさいよ!……コホン!貴方は先程死にました!しかし現世に迷わぬ魂はマナへと還り流転をしなくては行けません。そこであなたの魂は次なる世界に旅立っていただきます。そう!言うなればこれはあなたの世界で言う異世界転生と言うやつです!」
「異世界……転生……だと!?」
異世界転生。そうか!異世界転生か!俺は死んで異世界に転生するのか!それならば今までの雑な流れも頷ける!こんな転生の場面に時間をかける訳にも行かないもんな!
俺の中の疑念が全て晴れていく気がした。
「そう!あの扉を見なさい!あの扉の向こうにはあなたの次なる世界に繋がっています!さぁ、あなたをこの天使リサが導きましょう!」
あの向こうに異世界が!あの!扉の向こうに!
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。未だに実感はわかないが、夢でも構わない。
違う世界に行けるのならば。
憧れていた異世界転生が目の前にやってきたのだ。これはのるしかない。
「じゃあまず下準備ね。今から異世界に持っていくための才能、武器について書いてある書類を渡すから選んでちょうだい。あ、早めにね。あたし今日ミカとクラブ行く約束してて時間ないから!しかもあのオーディン様が来るんだって!逆球のチャンス!フフフ……ネイルとかやる事あるからなるべく早くーーーー」
「異世界やっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!」
コスプレギャルイカレポンチが何かを喚いていたが、俺は何も聞かず扉を開き、門を跨いだ。