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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
1章 始まり
8/40

08戦目 姪原網目

「それじゃあ、えっと、網目先輩……でいいんですか?」

「う、うん……私は構わないよ」



 網目先輩の呼び方についても了承を取った。呼び方の件で話が脱線したものの、元の話へと戻す。



「で、三人だけってどういうことなんだ?」

「そ、それは……その」



 網目先輩は恐ろしく挙動不審になっていた。体がガタガタ震え出している。



「落ち着いてよ、お姉ちゃん」

「う、うん、ありがと、とあちゃん……」



 投網が立ち上がり、姉の背中をさすってあげていた。網目先輩は深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着こうとしている。



「えっと、その、あの……」

「お姉ちゃん、私から話そうか?」

「う、うん、お願い……」



 だが結局落ち着くことはできず、妹にバトンタッチしていた。



「じゃあ改めて。お姉ちゃんから聞いた話になるんだけど……」

「ふむふむ」

「『平和の園』は元々、お姉ちゃんの更に何代も前の先輩達が作ったギルドなの」

「結構歴史があるのか?」

「うん、昔はもっと人がたくさんいて、にぎやかだったらしいけどね」



 今の状況からはとてもそうは思えない。言っちゃ悪いが寂れて潰れる寸前だろう。



「二つ上の先輩達の代で一気に卒業しちゃって……人数もガクッと減ったの」

「それにしたって、網目先輩一人だけってのは……」



 それを聞いた投網はチラリと姉に視線を向ける。網目先輩はそれを受けてコクリと頷いた。



「問題はギルドランキングなんだ」

「ランキング?」

「うん、真偽君はランキングがどうやって決まるか知ってる?」

「どうやって、って……それは『デイドリ』のランキングなんだからやっぱり、戦って決めるんじゃ?」

「うん、その通りだよ。つまり……」



 なるほど、話が読めてきた。先輩達が抜けたことで対戦で勝てなくなってしまった。それでこのギルドは寂れてしまったのか。


 俺がなんとなく察したところで、黙って聞いていた網目先輩が口を開いた。



「そ、それ以来、一人、また一人って他のギルドに移籍しちゃって……」



 しょんぼりと落ち込んだ姿はとても弱々しく見えた。背が高いのに、今は小さく感じる。



「それで最後に残った網目先輩が、自動的にギルドマスターになったのか」

「うん……」

「お姉ちゃんが落ち込んでるのを見て、私決めたの! 私が強くてにぎやかなギルドにして見せるって!」



 立ち上がった投網がバンと机を叩く。その瞳はやる気に燃えていた。



「だから真偽君!」

「お、おう……」

「一緒に頑張ろうね!」

「いや、それはまだ決めてない」

「えっ!?」



 同意を求めて来られても困る。俺はまだ入部を正式に決めた訳じゃないし。



「そこは、わかった! って熱く盛り上がるところでしょ!?」



 そんな熱血な感性は俺にはない。



「そもそも、俺は団体行動が苦手で……」

「えっ、でもギルドに以前入ってたんでしょ?」

「確かにそうだが……あの頃は個人行動が多かったって言うか……好き勝手にやらせてもらってたって言うか……」

「わかった! なら好き勝手やってもらっていいからさ、お願い!」

「う~ん……」



 手を合わせたまま、頭を下げてみせる投網。そうされると俺としても考えざるを得ない。


 そのまま腕を組んで考える。どうしたものか……。元々入らない選択肢はない。元々回復系の能力を持つ俺は、あちこちからの勧誘を避ける為に投網の誘いに乗った訳だ。


 もし抜けてしまったらどうなるか。しつこく勧誘されるのは間違いないだろう。ならいっそ正式に入部してしまった方がいいかもしれない。



「……まだ考えさせてくれ」



 悩みに悩んだ末に、俺の出した結論は保留だった。ここが居心地のいい場所になるか、見極めてからだな。



「うん……わかった。正式に入部したくなったらいつでも言ってね?」



 俺の優柔不断とも言える決断を、投網は苦笑いしながらも受け入れてくれた。譲歩すべきところだと思ったんだろう。



「じゃー、それはそれとして! せっかくだからさ、対戦してみない?」



 気持ちを切り替えたらしい投網は、そんな提案をしてきた。



「といっても、俺は今レベル1だし。勝てる訳がないぞ?」

「とりあえずお互いのことを知る為だよ。チーム戦にも備えなきゃいけないしさ」

「ふむ……網目先輩はどう思います?」

「わ、私!? えっと、アバターの顔合わせくらいならいいかな、って……」



 二人が賛成なら俺としても文句はない。実際二人のアバターをきちんと確認するのも興味があるしな。



「よし、じゃあやろっか!」



 三人でそれぞれVRグラスを取り出し、装着する。



「「「リンクスタート!」」」







 リンクしたフィールドは山の中だった。教室や中庭からリンクした時も思ったが、リンクした場所によって微妙にどのフィールドに来るかは変わるらしい。部室からだとこうなるのだろう。



「お待たせー!」



 少し離れた地点に投網がいた。後ろに隠れるように立っているのは、網目先輩だろう。



「改めて紹介するね、これが私の【リンクス】だよ!」



 以前見た時も思ったことだが、水着のような格好といい、猫耳に鉤爪といい野生動物みたいだと感じていた。推測通り、『山猫(リンクス)』だったようだな。



「そしてこっちがお姉ちゃんの、【ティアー】だよ!」

「よ、よろしく……」



 リンクスは一歩横にずれて、紹介するように手のひらを向けた。


 そこに立っていたのは、青い水玉模様に白いワンピースを着た青い髪の少女だった。背中には長い棒のような物を斜め掛けに背負っている。



「なるほど……なんというか、やはり性格に合ってるな」

「でしょー!」

「あ、ありがと……」



 リンクスは得意げに、ティアーはおどおどと対照的な反応を見せた。本当に正反対の姉妹だな。



「じゃあ早速戦ってみよっか!」

「俺は見学しておきたいんだけど……ちなみにティアーのレベルはいくつなんですか?」

「えっ、58かな……」

「ほう……」



 妹には及ばないものの、かなりの高レベルだった。性格から決めつけてしまってたが、もしかして実力者なのかもしれない。



「じゃあお姉ちゃん、いつも通り勝負しよー」

「わ、わかった……」



 そこで三人でメニューを操作し、ステージへと移動する。フィールドでそのまま戦ってもよかったが、他のプレイヤーからの邪魔が入る可能性も想定して、個別のステージにした。


 扉が出現し、それを順番にくぐっていく。くぐる瞬間、一瞬光に包まれた。



「ここは……川原ステージか」



 くぐった先は、山の中の川原といった風景だった。大きな川がど真ん中に流れており、ひざくらいの深さはありそうだ。流れはそんなに速くないが、入れば動きが制限されるのは間違いない。川の中にはいくつか大きな岩が置かれてあり、足場として活用することもできるだろう。また、川の両側には石だらけの川原となっていた。



「川の中で戦うか、川を無視して川原で戦うか……どうするかが鍵になりそうだな」



 俺は観戦モードを選択していた。対戦時の設定で観戦許可を選択しておけばこうして上空に足場が出現し、そこから戦いを見下ろすことができる。



「よーし、行くよー!」

「うん……」



 そうこうしてるうちに戦闘が始まったようだった。リンクスとティアーは、川を挟んで両側に立っている。



「にゃっ!」



 先に動き出したのはリンクスだ。川に向かって飛び出すと、そのまま飛び上がり川の中の岩に着地した。更に岩を飛び移り、川の向こう側に向かっていく。



「え、えいっ」



 一方ティアーはどうするかと思ったが、向かっていくようだった。同じように岩を飛び移って距離を詰めていく。てっきり迎撃するつもりだと思ったから意外だった。性格的にも向かっていくタイプとは思わなかった。


 そして両者は、川の真ん中付近でかち合う。リンクスは腕を大きく振って鉤爪で引っ掻こうとする。



「ひぃっ!」



 対するティアーは背負った棒を抜きとって受け止めた。いやあれは棒じゃない。



「先端に刃がついてる……薙刀だったか」



 薙刀を構えたティアーは自身を中心に独楽のように回転し、勢いのままリンクスを狙う。



「なんのっ!」



 対するリンクスは素早くしゃがみこんで回避する。リンクスの頭上を薙刀が通り抜けた。



「にゃっ! にゃっ!」



 リンクスは反撃に出る。両手の爪で連続攻撃を繰り出していく。



「わっ、わっ!」



 一方ティアーも負けてはいなかった。刃だけでなく柄の部分も使って防御に徹している。そのおかげで攻め込まれているものの、ダメージは負っていなかった。



「そろそろか?」



 ここまで攻防が繰り広げられているものの、互いに大きなダメージは全くない。レベル差があるというのに互角だった。


 だが均衡はもうすぐ崩れるはず。試合が始まってからしばらく経っている。おそらくスキルゲージがそろそろ溜まる頃合いだ。



「『猫招き(キャットパンチ)』!」



 先に動いたのはまたしてもリンクスの方だった。スキルを発動させると、猫の手のような手袋が光りだす。そのまま光は爪を形作り、爪は二倍ほどの長さに伸びていた。


 そして腕を思いっきり振って、ティアーの頭を狙っていく。防御しようにも薙刀を振り下ろしたばかりで、間に合わない。

岩の上なので逃げ場もない。



「わわっ!」



 対するティアーの行動は意外だった。ティアーは防御が間に合わないとわかると、ためらいなく川に飛び込んだ。リンクスの爪は空振りに終わる。


 だが、川に飛び込んだことで水に足を取られて動きは鈍くなる。ティアーはどうするつもりなのか。


 リンクスは岩の上を渡って、素早く距離を詰めようとする。



「もらったよ!」



 再びリンクスの爪が迫る。だが、ティアーは逃げるだけじゃなかった。



「ば、『涙雨(バレットスプラッシュ)』!」



 ティアーはスキルを発動させていた。薙刀を大きく振ると、そこから無数の青いボールのような物が飛び出した。広範囲にばらまかれたそれらは、当然リンクスの体にも飛来する。



「ぶはっ!?」



 とっさに腕をクロスさせて顔を守ったリンクスだったが、胴体に数発直撃を喰らった。ボールは弾けて水飛沫へと変化する。頭上のHPゲージが大きく減ったのがわかった。


 そして勢いに押されたリンクスは足を滑らせて、岩から川の中に落ちてしまう。



「しまっ……!」

「えい!」



 こうなってしまっては、圧倒的にリンクスが不利だった。リンクスは、スピードを活かして動き回りながら戦うタイプ。だが川の中で水の流れに足を取られては速く動くことなど不可能だった。


 薙刀の一撃がリンクスの頭上から迫る。リンクスは手を伸ばして掴みとろうとするが、わずかに軌道がずれる。結果、リンクスの頭に刃が直撃した。



「か、はっ!」



 リンクスのダメージは大きく、一瞬ひざをつく。おそらく視界が揺れたのだろう。ふらふらしてるようにも見える。



「え、えーい!」



 その隙を黙って見ているティアーではなかった。薙刀を振り回し、追撃を繰り出す。そしてそのままリンクスはダメージを受けて倒れた。







「にゃ~、負けた……」

「えっ、あっ……」



 現実世界に戻ってきた俺達は、先ほどと同じように席についていた。投網はテーブルの上にだらんと体を投げ出し、落ち込んでる風だった。一方、網目先輩はそんな妹の姿におろおろしまくっている。



「しかし、網目先輩なかなかやりますね……」



 実際、レベル差のある投網相手に、あそこまでいけるとは思わなかった。そこで不思議に思う。これだけの実力があれば、充分勝ち残っていけるはずだが……? その事を聞いてみた。



「えっと、とあちゃんはよく知ってるから……」

「あー……お姉ちゃんは人見知りだから、知らない人が相手だと萎縮しちゃって……」

「…………」



 本来の力を出しきれないということか。妹限定で強いとは。

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