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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
1章 始まり
5/40

05戦目 姪原投網

 もう一度岩の向こう側を覗き込む。相変わらず三人の連続攻撃を受けて、姪原さんは防戦一方だった。もはやHPは風前の灯火だ。


 俺は目立たないように右腕を伸ばして、姪原さんへ向ける。スキルゲージは……よし、ここまで歩いてきた間に充分溜まってるな。


 右手を開いて手のひらを向ける。狙いをよく定めて、聞こえないように静かに呟いた。



「『万死一生デッド・アンド・アライブ』」



 右手を中心に黒い光の玉が発生する。一瞬で大きくなり、バスケットボールくらいの大きさまで広がる。そして間もなくまっすぐに発射された。


 黒い光はそのまま吸い込まれるように、姪原さんに直撃した。そして直撃した光は、そのまま液体のように全身に広がった。まるで姪原さんの全身が黒く光っているようだった。



「はっ?」

「な、なんだ!?」

「おい!?」



 三人組は戸惑っている。というか警戒しているのだろう。だが一番驚いているのは姪原さんだと思う。無理もない。自分の意図してないところで、いきなり全身が光りだしたら驚くだろう。


 三人組は思わず攻撃の手を止め、姪原さんも自分の体を見下ろしている。だが、黒い光はあっさりと消えてしまう。



「な、なにこれ……」



 次の瞬間、姪原さんのHPは残り一割にも満たない状態だったのが、パッと全快まで回復していた。



「おい、回復してるぞ!?」

「何しやがった?」

「回復系だったのか?」



 三人組も動揺しまくっている。互いに顔を見合わせてわーわー喚いていた。



「これなら……!」



 いち早く動揺から回復したらしい姪原さんは、三人を睨み付けていた。そして軽く膝を曲げると、勢いよく跳ねた。



「にゃあ!」



 そのまま鉤爪で一人を切りつける。不意を突かれたことで、連携が崩れていく。



「ちょ、やべえ!」

「立て直せ!」

「にゃあああ!」



 慌てて連携を立て直そうとするが、上手くいかなかった。姪原さんは体力が回復したことで、多少のダメージを無視して怒涛の攻撃を繰り出していく。力押しではあるものの、ダメージは圧倒的だった。みるみるうちに一人、また一人と倒れていく。



「く、くそおおおおおお!!」



 二人がやられ、残った一人が最後のあがきとばかりに槍で突撃する。俺にはその感じは、もうやけくそに見えた。


 単調な突撃など効くはずもなく、あっさり姪原さんは回避する。そしてくるりと一回転すると、そのまま距離を詰めて鉤爪の一撃を加える。そして最後の一人も光に包まれて消えていった。


 よし、なんとかサポートが効いたようだな。上手くいったことを見届けた俺は、見つかる前にこの辺でログアウトすることにした。くるりと背を向けて岩の裏側に戻る。



「メニュー……っと」



 メニュー画面を呼び出して、ログアウトを選択する。すると準備中とメッセージが表示された。このゲーム、ログアウトには十数秒かかるのが難点だよな。改善してくれればいいのに。……まぁ、ゲームの仕様かもしれないが。


 そのままぼんやりしながらじっと待つ。この時間がもどかしく感じるな。



「ん?」

「あっ」



 岩の横からひょこっと顔を出した姪原さんと目が合ってしまった。ほんの一秒ほどのこと。次の瞬間俺の体は光に包まれて、ログアウトした。







「……はっ!」



 俺は勢いよく目を開いた。目を何回かパチパチと開いたり閉じたりして、視界が戻ってくるのを待つ。やがてぼやけていた景色がはっきり見えるようになってきた。ログインした中庭の景色だ。



「しまったな……ばれたか?」



 あそこで見つかってしまったのは痛かったな。だが、あれが最善だったはず。俺のアバターは走るのも速くないし、障害物の少ないあの付近では、見つかるか追い付かれる可能性があった。それを考慮すると、最も早くあの場を離れる方法はログアウトすることだったはずだ。



「判断は悪くない……悪いのは運か」



 時刻は昼過ぎになりつつあった。これからどうしようか考える。



「落ち着け、決定的な瞬間を見られた訳じゃない」



 俺が回復させたのを見られたなら言い訳できないが、見られたのはログアウトするところまでだ。怪しくはあるものの、決定的ではない。


 ……よし、もしも姪原さんに絡まれたらとぼけるか。俺の静かな学園生活の為に。



「よし、帰るか」



 どこかで昼食を取って帰ろう、そう思いつつ立ち上がる。そのまま中庭の出口まで向かう。中庭と校舎をつなぐ扉を開こうとしたその時だった。俺がドアノブを掴む前に向こうから扉が開いたのだ。



「はぁ……はぁ……」

「マジか……」



 そこにいたのはやはりと言うべきか、姪原さんだった。息を切らせて膝を押さえている。おそらく走ってきたのだろう。


 俺はその横をさっさと通り過ぎようとした。しかし制服の背中が引っ張られる感覚がする。ゆっくりと後ろを振り向くと、息を整えてる最中の姪原さんがこちらを見上げていた。



「ちょ……待っ……話……あるから」

「ええ……」



 正直逃げたい気持ちではある。だが、ここで逃げると怪しすぎて、かえって認めてしまうようなものだ。ここはよくわからないといった、戸惑う態度を取るのが正解……だと思う。



「俺に何か用?」

「ふう……ふう……落ち着いた。あの、話したいことがあるから、どこか行かない?」

「あー……俺は昼飯を食べに行こうと思ってて……」

「わかった。どこ行こっか?」



 何の躊躇もなく、ついて来ようとしていた。この分だと断ってもついて来るな。


 仕方ないと諦めの気持ちを抱きつつ、二人で下校することにした。



「ムグムグ……」



 それから十五分後、俺達は学校の近くにある有名なチェーンのハンバーガーショップに来ていた。注文の品を受けとると、向かい合わせに座り、おもむろに二人でハンバーガーにかぶりついた。



「ゴクン! ……さて、そろそろ話していい?」

「ああ、どうぞ」



 互いに食べ終わった頃合いで、姪原さんが口を開いた。にこりと笑顔を向けている。間近で見るとわかるが、やはりかなりの美人だった。



「まず、最初にお礼言うね。さっきはありがとう」

「あ……何の話だ?」



 思わず頷きそうになったが、寸前で止める。ここで頷いてしまったら認めてしまったようなものだ。ギリギリとぼけることに成功した。



「さっき私のことを回復してくれたじゃん」

「いや、何言ってるかさっぱり……」



 言質を取られないように、あくまでとぼける。すると姪原さんはクスリと笑った。



「あのね、霜屋君」

「ああ……俺の名前覚えてたのか」

「そりゃ覚えてるよー。だってクラスで対戦して思いっきり目立ってたじゃん」

「まぁ、それもそうか」

「それはおいといて。私は、さっき回復してくれたのが霜屋君だって確信してるよ?」



 その言葉は勝ち誇るでも自信無さげでもなく、自然に言われた。なので俺も一瞬判断が遅れた。



「……俺は本当に知らない」

「もー、しょうがないなー」



 そう言うと姪原さんは自分の鞄を掴んで、中に手を突っ込む。そして中からVRグラスを取り出した。そして何やら操作をしている。



「ほら、これ見て」

「んん? ……こ、これは!?」



 そこに映っていたのは、衛星写真のように上から取られた映像だった。まず目につくのは大岩。そしてその周りにいるプレイヤー達。……間違いなく先ほどのフィールドでの出来事だった。姪原さんもあの三人組も、そして俺も映っている。


 問題なのは、この映像には俺が腕を伸ばしてスキルを発動させたところもバッチリ映ってしまっていることだった。



「い、いつの間にこんな映像……」

「霜屋君、知らなかった? うちの学校のサーバーでは生徒の管理の為に、リンクしたプレイヤーを自動的に録画してるんだよ」

「嘘だろ……」



 全く知らなかった。ステージならまだしも、普段リンクしている他のサーバーではそんな機能聞いたことなかったし。



「後は先生にメールでお願いして、さっきの映像をコピーさせてもらったってわけ」

「くっ……」



 これで言い逃れすることはできなくなってしまった。非常にまずいな。



「それにしても、びっくりしちゃった。まさか霜屋君が回復系だったなんて」



 姪原さんが感心したように、俺に言う。


 こんな風に言われるのには理由がある。それは『デイドリ』においては、回復能力者が極端に少ないのだ。基本が格闘ゲームである以上、プレイヤーのほとんどは攻撃系のスキルを持っている。たまに補助系や妨害系のスキルを持ってる者もいるが、回復系はそれよりさらに少ない貴重なプレイヤーだ。「回復系を見つけたら、必ずチームに入れろ」と言われるほどである。



「……こうなるから隠したかったんだ」



 俺は頬杖をつきつつ、憮然とした表情を浮かべていた。次に言われるだろう言葉もわかっている。



「霜屋君、お願いがあるんだけど……」

「断る」

「……って、まだ何も言ってないよ!?」

「わかるさ。どうせどこかのギルドに入ってくれ、って言うんだろ?」



 嫌というほどわかっている。そういう風に勧誘される人を何人も見てきた。



「俺は昔知り合いのギルドに入ってたから、誘われることはなかったけど、そうなるのはよーく知ってるさ」

「うん……確かにそうだけど……でもいきなり断らなくても」



 一理あるが、断るのにも理由はある。



「俺は今のところ、どこのギルドにも入るつもりはないんだ」

「そうなの? じゃあソロでやっていくつもりなの?」

「ああ」



 そう言うと、残念そうな顔をしながら何かを考え込んでしまった。そして少しして再び口を開いた。



「霜屋君、どうして私があの人達と戦ってたかわかる?」

「わからないけど……それがどうかしたのか?」

「あの人達、私のことを勧誘しようとしてたの。先輩達だったみたい」

「ふうん……それで?」



 そこで姪原さんはニヤリと笑った。



「よく考えてみてよ。あの人達の記録映像にも、霜屋君が回復させたところが映ってるんじゃない?」

「……!?」



 言われて気づいた。確かにその通りだ。俺と彼らの間に多少距離はあったとはいえ、映ってる可能性は低くないだろう。もし彼らがそれに気づいたら? 俺を特定するのに時間はかからないはず。そこから情報が広まったら? みるみるうちに勧誘が押し寄せるかもしれない。



「どう? 霜屋君にとっては困るんじゃない?」

「ぐっ……確かにそうだな」

「そこで提案なんだけど、うちのギルドに入らない?」



 にっこり笑いながら俺の方に手を差し出す。握手のつもりか?



「……そもそもの話、姪原さんはギルドに所属してるのか?」

「してるよ。実は私、お姉ちゃんがいるの」

「お姉ちゃん?」

「そう。二年生でね、同じギルドに早速入れてもらったの」

「なるほど……」



 それで勧誘する側として、俺を誘ってきた訳か。



「勧誘の嵐に遭うよりはさ、さっさとギルドを決めた方が良くない?」

「まぁ……そうかもしれないが……」



 だが俺としてはどうしても抵抗を覚える。それを察したのか、姪原さんはさらに提案を続けてきた。



「じゃあさ、仮入部ってことでどうかな?」

「仮入部?」

「そう、表向きは入部したことにしてさ、実際は仮ってことで」

「……」



 いくらかましな提案に思えた。すでにソロを貫くのは難しい状況になりつつある。俺が回復系だと広まるかもしれないし、広まらないかもしれない。だが最悪の事態に備えて、先手は打っておくべきだろう。


 まぁ、もし姪原さんのギルドがろくでもないところなら、脱退すればいいだけの話だ。



「……わかった。その提案に乗ろうじゃないか」

「本当!? ありがとう!」



 俺は手を出して、姪原さんの手を握り返した。承諾の返事を聞いた彼女は、両手で俺の手を包み何度も何度もお礼を繰り返していた。



「じゃあ明日からよろしくね、霜屋君!」

「ああ、よろしく」

「それじゃ、明日部室に案内するから。そこで顔合わせしよっか」



 俺には頷く以外の選択肢はなかった。

できましたら、評価の方を頂ければ幸いです。

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