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漂流

作者: 上山悟


私はさまよう

暗黒の闇

無限の宇宙

無重力世界


地球を発したのはいつだったか

ひとつ言えることは任務は完了した

いまは、慣性に従い、漂流するだけ


思い返せば地球の重力を脱するのは大変だったよ

グラビティがきつかった


でも、グラビティって、大切だね

上と下を規定するんだから。

上と下が決まれば、右と左も限定されてくる


さて、今はどうだろう

どっちが上で下か?

漆黒の闇ではそんなものはどうでもいい。

もちろん、左右も。

私はただ流されるように進むだけ


恒星は遥か遠く

熱エネルギーが身体に届かない

寒さが突き刺さる

ただただ寒いだけ

私はただ流されるように進むだけ


青い惑星を過ぎる

その表面に三人の子供の顔が浮かぶ

男の子と女の子二人ーけんた、ひろこ、さよこ

六歳のころよく遊んだクラスメイト

放課後 夕陽の沈みかけた校庭 鉄棒

さよこは言った

わたし逆上がりできるようになったよ ほら

よーし、ぼくも

まだ、一歩のところでできない

ほかの三人が手伝ってくれる

ぼくはさよこが好きだった

けんたが挑戦する

できない

さよちゃん、手伝ってよ〜

けんたも、さよこが好きなのか

ぼくはけんたが逆上がりできることを知ってたから

日が沈み四人は三々五々家路についた


11歳の時さよこと再び同じクラスになった

教室ですれ違っても、目があうと二人ともうつむいてしまう

五年の月日は二人を少しだけ大人にした

そして晩秋、さよこは転校してしまった


わたしはそんな回想をしながら青い惑星を過ぎた


暗闇を幾ばく流れた時か

緑の水を湛えた星をよぎる

父の顔が浮かぶ

10歳の頃

父とぼくは砂浜の大海原で投げ釣りをしている

父が餌を付けてくれる

こう投げるだ

重りがついた釣り針は遙か遠くまで飛んでいった

凄い!

父の力に驚嘆した

ぼくも投げた

父の距離の三分の一にも及ばない


時が経ち、わたしは父の距離を抜き背丈を抜いた

何十年かの時は父を小さくした

そして父は去った

父さん、ありがとう


そうつぶやきながら、わたしは水の惑星を過ぎた


やがて桜色の惑星が見えてきた

かずえの顔が浮かぶ

7歳の時、ぼくとかずえは学校からの家路を同じくしていた

ある日、ふと沈黙があり、かずえは言った

わたし、あなたのことが好き

と言いながら、チョコレートを押し付けた

ぼくは、ありがとう、としか言えなかった

バレンタインデーだった

といって、その後も友達のままだった


お互いの家でゲームをよくした

一か月後、母から渡された白いハンカチをもってかずえの家にオセロをしにいった


途中、彼女は、綺麗なお母さんね、と

そう言えば、いつ行っても、かずえのお母さんは見当たらなかった

ぼくは聞いた

かずえちゃんのお母さんは?

いないの

罪悪感を感じると同時に、ぼくは思った

彼女のこころは誤解してる 好きなのは、ぼくじゃなくて、母の方だ

彼女の身の上を思うと切なくなった

数年後、風の便りに、族に入ったと


これから出会う人たち

よろしく

わたしを過ぎていったあまたの人たち

ありがとうとさようなら


そして、わたしの旅は続く

暗黒と極寒の旅


果たしてこの宇宙にはて、はあるのか

あれば、そこで旅は終わり

なければ、未来永劫、この旅は続く

ただ それだけのことさ












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