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下層(スラム)の女王はバーの経営者

登場人物一覧


・ササミヤアラタ(笹宮新)─人間

 元軍人、元探偵の青年。大戦終結に最も貢献したとして『英雄』と言われているが、彼にその所以となる最終戦の記憶はなく、最終戦で妹のササミヤヒナノ(笹宮緋奈乃)を亡くしている。幻想を事実として引き起こす能力『夢想展開ムソウテンカイ』と5秒後の未来を見通す『先見視眼センケンシガン』を持っている。


・ミソラ(美空)─人間

 突如アラタの目の前に現れたササミヤヒナノそっくりの少女。以前の記憶は無く、自分が誰かも思い出せなかった。医者の見解では彼女は『造られた』可能性が高いと言われている。


・ロウ─獣人

 狼の獣人。『ロウ商会』という元軍人を集めた組織のボスで下層スラムの実力者になる。彼は普段、銀色の体毛に覆われ狼本来に近い『獣人体』の格好で威圧しているが、仲間うちでは犬耳に尻尾だけで他は人間に近い『人間体』になっている。


・レオノーラ─機械人

 アラタのサポート役。機械人は感情は出ないものだが、彼女は普通の機械人よりも感情表現が豊富である。常にスーツを来て、彼女の主武器である魔導式スナイパーライフルが入ったジュラルミンケースを背負っている。

 

 下層スラム──そこは犯罪者の巣窟である。


 というのは少し認識違いである。確かに急成長したこの国の治安はお世辞にも言えなく、また上層ハイの連中もその受け皿として、下層の状態を放置している節がある。そういう権力が放置している状態の中、古今東西あらゆる場所でそこに存在しているものがいる。

 それは場所によっては『マフィア』、『任侠』なんて呼ばれる自警団だ。下層スラムでそういった組織が2つ存在している。


 1つは狼の獣人、ロウが率いる『ロウ商会』。彼らは商会など名乗っているが、構成員は大戦時の元軍人だ。この組織は大戦後、急激に減った軍人需要によりあぶれてしまった元軍人たちをロウが集めたことによって興された組織になる。ようするにこの武闘派が集まった組織が下層スラムの治安を維持する本格的な自警団の役目を担っているのだ。

 そして2つ目は、これまたアラタの友人が経営する『BAR Fortune』を筆頭にした組織。こちらはこの経営者の情報収拾能力と人脈が基礎となって出来た組織だ。大戦時から今まで、この経営者に世話になった上層ハイのお偉いさんや中層ミドルにある学院の先生はごまんといる。その人たちのネットワークによって、下層スラムの一店主が行政府に一枚噛めるほど実力を得たということだ。その人自身はそのようなつもりはなく、ただ面倒を見たりしてあげているだけらしいが。


 この二つの組織によって、下層スラムは成り立っていると言えるだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そのレンガ調のビルに看板のない店が『BAR Fortune』で、中はカウンター席のみで暗く落ち着いた空間にレコードのジャズが優雅になっている。


「ヒ、ヒヒヒ、ヒェェッェェェ⁉︎」


 そんな店内で女性の甲高い声が響き渡る。その声の持ち主はエメラルドグリーンの瞳にロングの茶髪の隙に見え隠れする特徴的なとんがった耳を持つ女性。スラリとした容姿に淡い青色のドレスが妖艶な雰囲気を醸し出している。

  この叫んでいるカウンターの中の女性こそが、この『BAR Fortune』の経営者にして、この国の影の実力者であるエルフの『レベッカ』だ。そして彼女が叫び声をあげた理由は言わずもがな、ミソラを見たから

 だ。今も指を指して、震えている。


「すまん、それ今日で何回も見たからお腹いっぱいなんだわ。それと彼女はヒナノじゃなくて、ミソラさんで全くの別人だ」

「あら、そう? 様式美だと思ったのだけど」


 アラタがもう見たくないと面倒くさ気にレベッカに言うと、ケロッと普段通りに戻った。彼女は信じられないほどの事情通であり、特に大戦時に同じ隊を組んでいたアラタやロウの情報はいち早く掴んでいる。ならば、このヒナノに似た少女『美空』の情報なんてものはとっくに知っていた。

 彼女はニコッと笑ってカウンター越しに席についているミソラに挨拶する。


「どうも、初めまして。私はレベッカで、アラタとは昔からの付き合いよ」

「はじめまして、ミソラさん」


 おずおずとミソラが挨拶すると、レベッカは桃色のドリンクを差し出す。ミソラは受け取ってコクっと飲むと冷たくて甘く、トロッとした液体が喉を通り抜けていく。その割には後味もすっきりしていて、驚いている。


「美味しい……‼︎」

「そうでしょ? それにそう固くならなくていいわよ。ここにはあなたが誰であろうと拒む人なんていないわ。そこの犬っころも含めてね」


 レベッカがジロっと睨む先には積み上げられた皿に取り囲まれて、なおも注文するロウ。普段の毛深い獣の体型から犬耳と尻尾が生えたガタイのいいオッサンのような人間体型になっている彼は、ムンズと料理を鷲掴みして酒をごくごく飲む。


「もっと礼儀良くしなさいな。この子が真似したらどうするの」

「その時はその時だ、なるようになる」

「……アンタだけ料金割り増し」


 ロウとレベッカの掛け合いを見ながら、アラタは料理を突く。以前の料理はまさしく料理店で出てきそうな味だったが、今回は家庭的でほっこりする味だった。どうやら、『また』人が変わったらしい。



 彼女が情報通かつ影の実力者になったのは付随的なものでしかない。本来は行き場を失ってしまった『戦災孤児』達に手に職をつけさせて、自らの手でココよりもう一段上の場所に居場所を作らせる目的で作ったものだった。これの結果、恩返しという形で彼女に力を貸すという構図が出来たということだ。そして今回も、一人巣立っていったことで、新たな雛を育てているといったところだろう。

 


 そんなことをアラタが考えていると、隣に座っているミソラが脇腹を突いてくる。


「アラタさん、ちょっと聞いていいですか」

「おう、なんだ?」

「アラタさんやロウさん、レベッカさん達ってどんな関係だったんですか?」

「そうだな。ヒナノについても話すか」


 そういってアラタは箸を置き腕を組んで、どこから話せばいいかと思案し始める。そこにロウの相手をしていたレベッカが口を出してくる。


「ミソラさんって記憶ないんでしょ? それじゃこの世界の根本から話さなきゃいけないんじゃないの?」

「あ、そうか。てか、なんでそこまで知ってんだよ」

「そりゃ、ね。『BAR Fortune』の情報網舐めるんじゃないわよ」


 そう言ってレベッカは親指と小指だけ立てて、耳に当てる仕草をとる。これは電話であり、医者のレイアからミソラについての連絡を受けたのだ。それなら彼女のあっさりとした受け入れように納得がいくとアラタは考えた。

 といってもレベッカは詳細だけをレイアから受け取り、ミソラが現れたこと自体は情報網もから知っていたのだが。



「さて、それじゃこの世界について話すとしますか」



 そうしてアラタは水を含んでから、語り始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


  2008年12月31日、この時はまだ世界には人間と科学がこの世界を支配していた。しかしその翌2009年1月1日に世界全体の空間が揺れ、その土地が削り取られるという大災害が各地で同時多発した。その中でもエルフが現れたロシアのウラジオストク、獣人が現れたエジプトのカイロ、小人族が現れたオーストラリアのキャンベラ、そして機械人が現れたブラジルのリオデジャネイロは都市丸ごと削り取るような大被害を被った。

 今日の学会では『世界が衝突した』ため、このようなことが起こったと言われている。


 兎にも角にも、国連は安保理決議により非常事態宣言の発令及び国連軍の派遣を開始。この時点で常任理事国の大国たちは異種族との戦闘を控え、交渉に徹することを第一としていた。

 しかし異種族にとって突然転移されたわけで、人間などに心を許せるはずもない。されには言葉も通じず、言葉が通じるはずもなかった。

 こうして交渉は難航し、やがて異種族人と人間の間で殺し合いが発生。暴動を鎮圧するため双方が矛を収めることが出来ないまま、紛争、そして戦争に突入した。



 これがのちに言われる『五種族戦争』の始まりだった。



 この戦争は大きく分けて3つの変遷がある。

 前半は連合と言われる旧体制の支配者と異種族たちの戦争だった。最初期はこの世界に基盤を置いていて、なおかつ先の大戦の勝者が率いるというだけあって人間側の勝利数が圧倒的に多く、戦局も有利にあった。しかし彼らの基盤が出来てきてからは反撃も激しさを増したことで、その有利も無くなり勢いを失って拮抗状態になった。そして戦況が期待通りにうまくいかない大国は核の使用を決定。


 しかし異種族の力を完全に見誤ったことで、この戦いの趨勢を喫した。


 異種族同士で結託していた彼らは、核が発射され次第機械人の科学技術により威力、着弾箇所、時刻などを瞬時に解析。それによってエルフは防御魔法を最適な状態で発動、続いて反射を行い、場所をそれぞれの大国の首都に向けた。これにより首都は壊滅し、人間側の力は大きく落とすことになった。これが前半戦の顛末である。


 そして中盤になると、人間側でも変革が起こる。科学だけではなく魔術や呪術といったオカルトの分野を取り入れていく集団が現れたのだ。異種族と同等のレベルまで育った組織といえば、元日本の【大和】、元イギリスを中心とした組織【時計塔】などが挙げられる。こうした集団は各地の戦場でも、徐々に成果を出していた。

 またここで異種族の彼らにも変化が起きる。彼らは人間という共通の敵がいたからこそ一致団結していたが、敵はもう敵と呼べるほど力を持っていない。故に彼らの戦争目的は『生き抜くため』から『この世界の覇者になるため』にシフトしていくことになる。


 そして後半戦。互いに力は拮抗し、戦況を停滞していた。さらに人間側の新興勢力が異種族の戦士たちとも互角に戦いあえるようになり、さらに混迷を極めていた。こうなった以上戦争は長引くのは火を見るより明らかだった。

 そこで自分たちの国を抜け出して、技術や資金を持ち寄り『戦争を終結させるため』に作られた組織が台頭してきた。それが【イネイブ】になる。この組織によって世界の均衡は崩れ始め、終戦に至るまでとなったのだ。


 五種族戦争が終わるまで、実に十五年。この大戦の犠牲者は人間だけでも2008年の4分の1と言われている。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「っていうのが、今ある歴史の教科書とかで書かれている流れだな」

「そうだったんですか……。レベッカさんやロウさんは最初、この世界をどう見ていたんですか?」


 一通り喋り終えたアラタは喋り疲れたのか、ぐでーっと頭をカウンターにつけた。たいしてミソラは興味津々に話を聞いていて、まだまだ聞き足りない様子だ。そんなミソラの様子を見たレベッカは面白そうに笑って言う。


「そうねぇ…。私も飛ばされてきた身だし、エルフの国にいた頃はあまりいい記憶はないけれど、一言で言えば『綺麗』ね」

「俺の場合は元の世界があたり一面草原だったから、最初の感想は『雑多』だったな」


 各々が以前の自分を思い出し、懐かしむ。彼らにとって『異世界転移』はとてつもなく過酷な試練だったが、今となればいい思い出なのだろう。それに比べてアラタは「こっちは大変だったけどな……」とボソッとつぶやいた。



 そんな彼らの様子を見ていたミソラはなお一層目を輝かせて、聞く。


「では皆さんが軍にいた時の様子はどうだったんですか?」


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