五人の[勇者]
先程の彼女は驚いた顔をしてこちらに近づく。
「何故こんなところにいるの!?迎えを待たなかったの!?」
「待っていたさ、来たのがきみの言う迎えじゃなかったんだよ。」
「そんな...。今からでも遅く無いわ、ここから帰りなさい!」
「なにがあったか知らないけど、そんな風に言わなくてもいいんじゃないか?」
三人の青年のうち、派手目な服装を着こなす茶髪の少年が口を開く。
「君も勇者なんだ?勇者ってこの世界じゃ珍しい存在なんじゃ?」
「確かに、数十年に一人生まれるかどうかの存在じゃなかったか?それなのに二人もいるなんて。」
理知的な顔をした青年がそう続けた。
「ええ、彼も勇者よ。でも、彼は___」
「へえ!やっぱり君もなんだね!勇者同士仲良くしようね!俺は藤宮類って言うんだ、君は?」
活発そうな青年が彼女の言葉を遮りながら俺の手を握った。
「俺の名前はソルテ、村外れで農民をやっていた。よろしくな。」
勇者をする気はないがな、と心で呟く
「おっ、自己紹介が先だったな。俺は和泉健吾、よろしくな。」
ケンゴはそういいながら理知的な青年の肩を叩く
「で、こいつが山崎峰人だ。」
ケンゴが口を開くよりも早くミネトは言った。
全員の目線が最後の彼女に集中する。
「私はハイネ、ハイネ・バレンシティよ。一応この王都の姫よ」
驚いた。そして納得した。だからこそ彼女は王宮の情報を知れたのか。
一通りの挨拶が終わりケンゴとルイとミネトは固まって話始めた。
「ハイネ、君も勇者なのか?」
「ええ、私も勇者よ。適正は戦徒」
「姫で勇者だなんて凄いな。」
「そんなこと無いわよ。私は王宮に作られたようなものですもの。」
ボソッと彼女は呟いた。
「彼らも勇者なのか?」
「ええ、彼らも[勇者]の評価が下されたわ。と言っても彼らはこの世界の人では無いのよ。」
「どう言うことだ?」
「彼らは異世界からの召喚者よ。王宮の最上の魔術師を動員して召喚した者たち。
言うなれば[異世界勇者]ね」
「[異世界勇者]と[勇者]は何か違うものなのか?」
「彼らは私達にとって、未知の技術、未知の知識を持つ者たちよ。彼らの評価値は私達と比べても遥かに高いのよ。」
「ねえ、君たちは何の適正なの?」
ルイがそう話しかけてきた。
「私は戦徒、ソルテはまだ適正が出ていないの。歓迎式でわかるらしいわ。」
ハイネが俺の代わりに答えた。
[勇者]以上の才能を持つ[異世界勇者]、彼らが入れば俺は必要ないのではないだろうか?
「それは楽しみだね!俺は精神魔術師って言うんだ。俺自身どんな職なのかわからないけど。」
笑いながらルイは言った。適正の職は俺自身聞いたことがないがハイネは知っているようだった。
「ケンゴとミネトは何が適正なんだ?」
「俺は高位槍士って奴だよ。」
高位槍士、槍士に上位職だろうか。
これほど優秀な職が集う中、回復限定支援などという職の名前もつかない適正を知られることは憚られる。
「俺は錬金術士だよ。」
ミネトがそう告げる。
俺は今上流階級で催される上品なパーティーの中、一人みすぼらしい衣装で佇む農民の気分だった。いや、実際そうである。
「皆様、準備が整いましたので歓迎式へ御招待致します。」
メイドにそう告げられ、俺達はあとに続いた。
「ハイネ、もしかして歓迎式って元々は彼らのためじゃないか?」
隣で歩くハイネにそう聞いた。
「ええ、恐らくそうでしょうね。王宮の技術と言っても彼等が召喚できる成功率は三割以下だったそうよ。」
なるほど、だから昨日突如として歓迎式を準備したのだ。
しかし、もう1つ疑問がわいた。
「でもハイネがいただろう?歓迎式はもっと前から準備してるはずじゃないのか?」
「先に教えておくわ。
王宮にとって勇者の存在は昔ほど重要じゃないのよ。評価値もせいぜい他種族と対等、知識も持ち合わせない。
人族が永生中立を保つには他種族と対等じゃ駄目なのよ、圧倒しなくては侵略される。」
「だから、王宮は勇者以上の存在で王都の技術を発展させる知識を持ち合わせる異世界の勇者を必要としたのか。」
永生中立は宣言だけでは無意味だ。そこに軍事力、技術力があって初めて成立する。
「それに王宮の情報によれば魔族が再び戦争を起こそうとしているらしいわ。」
「まさか。一昨日、総務長は平和な時代っていってたぞ。」
「その時はまだ召喚に成功してなかったわ。だから少しでも勇者の力が欲しかったのでしょう。昼にも言ったけど王宮はあなたを家に帰す気なんてないわ。」
彼女の言った「時期が悪かった」とはこのことか。
「だが俺に才能はあっても能力はない。それにやる気もないぞ。」
「魔族の侵略がある以上、王宮はあなたの人格を潰してでも回復能力を使わせようとするでしょうね。
人として扱われたいたいのなら、「勇者をやる気がない」なんて軽々しく言わないようね。」
「王宮は昨日、異世界からの召喚が成功したと民衆にも告げたわ。王都内はそのせいでお祭りムード、だから逃げ出すには今日が最適だったのよ。」
あの異様な静寂は異世界勇者に向けられた歓声のギャップだったのか、と納得した。
「あなたが総務長にやる気が無い、なんて公言したせいで王宮側はあなたへの召喚成功の情報を統制したわ。
そんなことを伝えれば余計、勇者をやらなくなると思ったのでしょうね。」
「この歓迎式、対処を間違えればあなたの人生は一変するわ。
王宮側は今、あなたは勇者を辞退しようとしていると考えているわ。
表には言わないでしょうから、あなたは意気込みを見せなさい。
それと既に回復技能を持っていると伝えなさい。」
彼女は真剣な眼差しで告げた。
異世界の者たちは話し込んでいてこの会話が聞こえているようではなかった。
「王宮にとって[勇者]は兵器でしかないのよ。さしずめ[異世界勇者]は未来兵器ね。」
「ハイネはなんで王宮が俺にそんな扱いをすると思うんだ?[勇者]の適正だって昔ほどはなくても重要だろう?」
「王宮が自分達の意にそぐわない人物をどうするか誰よりも知ってるからよ。」
ハイネとの中に静寂が生まれる
先を歩くメイドが荘厳な扉の立ち止まり、その場にいた一人の騎士になにかを伝える。
俺達五人が横一列に整列すると騎士達が姿勢を正す。
その瞬間、
昂然たる音楽が奏でられ扉が開いた。
俺達は広々とした王室を歩き始めた。