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不死身の勇者の復讐譚  作者: 元カノ
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[勇者]の適正

紅白のドレスを身に纏った少女が扉を開けた。

観光客だろうか?


「すいませんね、俺は宿主じゃないんですよ。泊まるなら他の宿屋探した方が良いですよ。」


他の宿屋、こんな時間に「泊まりに来る観光客」がいるだろうか?


「いえ、お構い無く。私は貴方に用があって来たの。[勇者]の評価を下された農民、ソルテさん。」


「なんで名前を知ってるんだ?勇者の評価を下しに来た検査員か?」


少女は俺が座っているテーブルに座った。


「あなた、適正検査と勇者がどうやって生まれた知ってる?」


唐突に彼女が切り出した。


「良くしらないな。」


「そう、本題にも関わるから少し長いけど聞いてほしいわ。」






「あの検査の原型は数十年前の戦争で作られたわ。



魔族、獣族、竜族を発端とした戦争。魔族は勝利の為に魔術を用いて研究を発達させたわ。

技術だけじゃなく戦術だったり、その研究はあらゆる事に及んだわ。


その1つが軍隊。完全に統制された組織で侵略を進めた。

次に魔族1人1人の能力を把握することで目的毎に軍隊を作ることを目指した。


そこで生まれたものが、〔個人の能力を正確に算出し評価するシステム〕。今の適正検査の原型よ。


ここからは知ってるでしょうけど。知恵を持つ竜族でもなく力を持つ獣族でもなく、技術発展を続けた魔族の勝利に終わったわ。




人族はその戦争で淘汰の危機に瀕したわ、力無き種族にとってあの戦争は自然淘汰に近いものであったようね。


でもそこで勇者が出現した。正確にはその当時は勇者では無かったけれど、他種族と互角に渡り合う彼らによって私たちはあの戦争を生き残ったわ。


どの三族にも肩入れせず、戦争に巻き込まれながらも中立を貫いた私たちは永世中立の地位を確立。さらに魔族から当時最新鋭の技術を取り入れた。でもいままで永世中立を保てているのは未だに生まれ続ける[勇者]の存在ね。


戦後すぐに魔族から評価システムを取り入れた人族は、それを突如表れた人族の英雄に用いたわ。その評価は[算出不能]。


人族は[算出不能]の評価に[勇者]という名目を挿入したわ。


これにより英雄達は初めて[勇者]という名前を得て人々の感謝を受けたの。


竜族曰く、[勇者]の存在がもう少し早く、多く生まれていたらあの戦争の変わっていた、そうよ。


これが適正検査と勇者の歴史ね。」


ゆっくりと彼女は話終えた。

だがただ歴史の授業をするためにここに来たのでは無いだろう。


「それで、ただ歴史を教えに来たのか?」


「違うわ、貴方に知ってもらいたかったのよ。

勇者という存在がどれ程までに人族にとって重要であるか。そして、勇者という存在はあくまで人々が作ったものということよ。」


「ああ、なるほど。初日の検査場の騒動を聞いてた検査員か。大丈夫だ、あのときは気が動転して「勇者なんてする気がない」といったがちゃんとやり抜くぞ。」


「私は検査員じゃないわ。話に戻ると、勇者は希少よ、それこそ十数年で1人現れるかどうかですもの。

だからこそ、その勇者の適正によっては人族は落胆するでしょうね。」


彼女が何を言いたいのか俺にはまだわからない。だが、明らかに彼女は俺に警告染みたなにかを伝えようとしている。


「何が言いたいんだ?お前はこの異様な静けさの原因知っているのか?」


少し苛立って言う。


「この静けさの原因は貴方ではないわ。」


「だったらなんだよ!言いたいことあるならはっきり言えよ!」


「そうね、もったいぶるのも失礼ね。実はあなたの[勇者]の適正は既に出ているの。さっきあなたが昨日行った検査場に行って来たの」


「なんだよ、それ。あんたは適正を知っているのか?」



「ええ、だから教えて差し上げるわ。」


この異様な静寂と彼女の異質さに圧倒されて俺は息を飲んだ。

勇者の適正に異常があったのか?もしかして本当は勇者ではなかったのか?


「あなたの勇者としての適正は[支援]、それも回復限定ね」


彼女がこう告げると、俺は胸を撫で下ろした。


「なんだよ、ちゃんと勇者じゃないか?確かに回復限定でも勇者は勇者だろ?」


「まだわからないの?あなたはこの王都の技術を見て来たはずよ。この王都では回復薬(エリクサー)の技術も超一流よ。あなたは勇者といっても回復薬の代替でしかないのよ。」


「さっき話したように、人々の勇者への期待は凄まじいわ。だからこそ、代替品でしかない勇者への失望はとてつもないでしょうね。」


「そんなことまだわからないだろ!エリクサーより優秀な回復技術かもしれないじゃないか。それに[勇者]の評価値は一般のそれと規格外なんだろ?それなら別に失望される程じゃないだろ!」


「あなたは今、回復魔術を使えるの?[支援]の評価はあくまでも適正よ。他の評価値に当てはまるけど、才能を表しているの。必ずしも現在その評価値に見合う力を持っているわけではないわ。」


確かに、俺は回復技術なんてものは持ち合わせていない。回復の技術を見せてみろ、といわれても俺は一体何をしたら良いのかわからない。




「回復限定の評価が変わるかもしれないじゃないか!」


「適正検査がなんで16歳で行われるかわかる?

今後の人生に於いておおよそ16歳で個人の適正は決まるからよ。あなたは勇者としての適正が変わることはないわ。それと同じく、回復限定という評価も覆らないわ。」


「じゃあ、一体どうすればいいんだよ。」


勇者として有頂天であった人生の展望は崩れた。

返答の期待もせず、うなだれた俺は彼女に問いていた。


「この王都から逃げなさい。あなたの評価を知っているのは私だけよ、まだ逃げられる。この情報を王宮の人間が知ったらあなたは道具としての使い潰されるわ。そもそも、王宮はあなたを家に帰すつもりなんて毛頭ないのよ。」


彼女は何故そんな事を知っているのだろう。

王宮が俺を道具としての使う?嘘のような情報だが、彼女が嘘を吐いているとも思えなかった。


「わかったよ。もとより俺は勇者になっても農民として行き続けようと思ってたんだ。回復適正しか無いのなら勇者になっても仕方ない。先に教えてくれてありがとうな。」


「パスの記録によればあなたは王都の東の外れに住んでいるようね。勇者の適正は忘れなさい。時期が悪すぎたのよ。」


時期が悪すぎた?俺の適正は時期によって決まったとでも言いたいのだろうか?

思い返すと、「パスの記録」だったり「王宮の情報」だったりと彼女は知り過ぎている。彼女は一体何者なのだろう。





「ともかく、王都にはしばらく近づかない方がいいわ。」


彼女は少し安心したようだった。


「じゃあ、私は行くわね。ここで待っていれば迎えの者が来るわ。」


長い金髪を揺らしながら宿屋から出ていく。

彼女のいなくなった宿屋は彼女が来る前よりも静寂であった


時計の針は午後1時を指していた。






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