王都王宮内
適正検査場から連れ去られ王都の中心部、王宮の一室へ案内された俺は、高級そうなソファに座らされて平静を取り戻しつつあった。
「強引な形で連れてきてしまい。申し訳ございません。寛いでお待ちください。」
そういうと騎士と共に初老の男性は部屋から出ていった。
考えてみれば[勇者]なんて評価が下されたのだ。この王都にとって、いや人族にとってこれは重要な意味を持つ。
つい先ほどまで農民として終える人生を見ていた者に、勇者として民衆から声援をもらう人生を想像することは難しかった。
ガチャっという音を立てて先ほどの男性とは異なる、明らかに権威を持つこの国の重鎮のような人物が入ってきた。
「お待たせして申し訳ない。私はミハエル・トード、この王都にて総務長に就いております。」
「初めまして、ソルテと申します。」
適当に挨拶を返すと、総務長は俺の身なりを一瞥した。
「挨拶も終えたことですし、早速本題に移らせていただきます。
ソルテ様の適正は[勇者]、これは我らが人族では大変貴重な職業であります。
故に勇者としての精密な適正を下すために明日から二日ほど王宮に滞在していただきます。
「たった二日といっても俺はここから酷く離れた村に住んでいる。別に勇者となるつもりもないし、農民として穏やかな日々を過ごせればそれでいいんだ。」
「現在人族の八割がこの王都に住んでいるためにソルテ様もそうであると早合点してしまいました。お召し物についた泥も農耕のものでしたか。」
顔色一つ変えずに総務長は続けた。
「ソルテ様は勇者になることで激しい日々を過ごされると勘違いなされているようですが、この平和な時代にそうそうそんな事はございません。むしろいままで通り勇者という職を持ちながら農耕に勤しめる事でしょう。
勇者の適正を知っていれば農耕に活用できるかも知れませんよ。」
確かに、かつてに戦時中ならいざ知らず、ここは永世中立の人族の領土。
勇者であっても穏やかな響きを送れるだろう。
「ソルテ様は郊外にお住みでいらっしゃるとのことですから御家族への伝達はこちらで行わせていただきます。この王都の観光ついでに検査を受けていくのはどうですか?」
王都の観光という言葉に耳が惹かれた。
「わかりました、検査を受けていくことにします。」
鼻から帰るつもりでいた俺は、すでに王都の観光で頭がいっぱいで二つ返事で検査を了承していた。
「では、まずお召し物をお着替えになって下さい。
こちらで滞在中の客室は用意させていただきますのでそこで体を休ませて下さい。」
そういうと総務長は一人のメイドを呼び出した。
「では、あとの事はこのメイドにお任せください。」
そういう総務長に頭を下げ、俺はメイドの後に続いて部屋を出た。
どこまでも続くような廊下を歩きながら俺は無言で一歩前を歩く背丈の高いメイドを見ていた。
ふと、メイドが扉の前で立ち止まりこちらを振り向く。
「ご挨拶が遅れました勇者様。私は第三メイド長リーニャと申します。」
「三日間なんて短い時間だけどよろしくな。」
まだ太陽は沈んでいない、このメイドと一緒に王都を満喫するとしよう。