「農民」から[勇者]へ
村から出る数少ない大人数用馬車に乗ると、そこには数人の同年齢と思われる者が居た。
数人は顔見知りなのか話しているが、特に友人のいない俺は前方の席に座った。
「私たちなんの職が適正なのかな~!」
「偶像とかいいよね!キラキラしてて女子の憧れだよ!」
「え~、あたしは薬剤師とかでいいかな~」
後ろの少女達の会話に耳を傾けつつ自身の職についても考えていた。
そんなことを考えて馬車の揺れにあわせてうつらうつらと夢の世界に落ちてしまった。
ふと目を覚ます。一体どれくらい時間がたったのかと外を見ると、すでに赤色の装飾に彩られた巨大な門が見えていた。
人族の活動の大部分が集約し、領土の中心に座する王都。
永世の中立平和を謳う人族にとって、最新鋭の医療、兵器、技術が存在するここは最後の砦である。
ほとんどの時間を村で過ごした俺にとって、王都は異世界であった。
王都に初めて入るための手続きを行う。
「生体認証を行います、眩しいですが我慢してください。」
そう忠告した女性は手のひらサイズの箱をこちらに向けて、箱から光りを発した。
「はい、これで生体認証は終わりですのでパスを発行します。
それにしても生体の評価値を見ると顔は人族ですのに骨格は人離れしてます。髪もきれいな色ですし、もしかしたら適正職は偶像かも知れませんよ!」
「幼い頃から畑仕事で苦労してるからかも知れませんね、適正は多分農民ですよ。」
軽く話ながら、一連の手続きを行ってくれた彼女からパスを受け取り適当に別れを告げた。
このパスは身分証明証であり、これに基づいて王都での活動が解禁される。16歳で一般に行えることは適正検査と学業の修了ぐらいだ。
門で身分の確認を行い、門番に検査場への経路を教えてもらった。
「すごいな、本当に異世界みたいだ」
祭りでも催されているかのような喧騒に目を奪われた。
目的を見失って王都を観光しそうになるが、すぐさま検査場へと向かう。
検査場は人で混んでいたが少し待つと自分の番が来た。
「次の方、パスを提示して下さい」
言われた通りに身分証を出す
「ではこれから検査を始めます、と言ってもこのスタンプを右手の甲に押すだけですので気構えないで下さい。」
そういうと右手に八角形の黒と白の幾何学的模様のスタンプを押す。
するとスタンプの模様が光り、検査員の眼前に
評価が出現する。
「は....?嘘だろ!?こんな評価値見たことない!」
そう叫ぶと検査員は俺に少しの間待つように言い、奥に引っ込んだ。
検査員が叫んだために周囲の眼が俺に集中する
こうも人が多いとさすがに腰が引けてしまう。
こんな大勢に見られているのだから緊張するのも仕方がないだろう。
それに畑仕事をしてから来ているから服も汚い。
王都の人間に僕はどう見られているのか。
しばらくすると先ほどの検査員を含む数人を引き連れた、初老の男性が現れた。
「評価を直ぐに出せず申し訳ございません。失礼ながらもう一度右手を出して頂いてもよろしいでしょうか?」
「何か不具合でもありましたか?」
緊張で震える声を出しながらおずおずと右手を出した。
男性がもう一度スタンプを押し評価を確認する。
「僭越ながら評価を下させていただきます。あなた様の能力を算出した結果[勇者]の職が適正であることが判明しました。」
絶句した。
「また今後しばらくの間は王都に滞在していただきよりよい正確な検査を受けていただくことになります。」
「帰れないのか!?俺は勇者になるつもりなんてないぞ!?」
我を取り戻しつつほとんど叫びながら言っていた。
「申し訳ございません。詳細な説明は別室でさせていただきます。御家族へはこちらから連絡させていただきます。」
そばに居た騎士が俺の腕を取り、半ば連れ去られるように別室へと連れていった。
この時既に王都のあらゆる場所に[勇者]が現れたという情報が駆け巡った。
それほどまでにこの[勇者]という存在は希少であり期待されていたのだった。