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白と赤  作者: 伊月煌
4/5

Even though a monster and heroes couldn't live in the same world,they extended their hands.

続きです。

書きながらプロットの流れがころころ変わってしまう悪い癖が出ています。よくないですね。

髪が白くなって、そのまま倒れた次の日。

『幹部会』の部下の軍人がいつものように出頭命令の伝えに来た。

「処遇を言い渡す。来い。」

裁定が下される。

けれど、今の俺にはどうでもいいことだった。

どんな処分が下されるのだろう。

殺されるのかな。

それは、それでいいかもしれない。

口になんて出したら、彼にも弟子にもぶん殴られるような思考に落ち着いた。

法廷の扉の前に来る。

扉の向こう側に無数の気配を感じた。

扉が開かれると、傍観席いっぱいの下士官たちがいた。

軍法会議は非公開で行われるのが原則となっている。

見世物にされるのか。

そう他人事のように思った。

傍観者が俺の姿を捉えた瞬間ざわざわと騒ぎ出す。

「おい……あの髪。」

俺は軍服を纏っているから髪は隠せない。

「真っ白じゃないか。」

「ふらふらだぞ。」

「本当に『バケモノ』みたいだ。」

……その言葉は聞き慣れてる。

顔に一切の本心を見せないことなど、俺にとっては容易なことだった。

「只今より、軍法会議を始める。」

その声で、室内がしん、と静まり返った。

「イルバ・コートス少佐。裁定を下す前に言い残したことはあるか。」

「……俺は、」

どういう処分が下されるのですか?

いつもより高い声。

いつもより穏やかな口調。

いつもより柔らかい笑み。

姿も容姿も変わったんだ。

いっそ別人になってしまおうか。

そんな出来もしないことを考えた。

「幹部会の皆さんは、俺のことを一刻も早く消したくて仕方がないようですが…俺は殺されるんですか?」

「それを今から……」

「俺のことを殺したいなら、今ここで誰かに撃ち殺して貰えばいいじゃないですか。」

幹部会も、野次馬も騒然とする。

「殺したいなら、こんなまどろっこしいことなどせず、部下に殺させれば良かったじゃありませんか。」

反論などは受け付けない。

これは、俺の演説なのだ。

聴衆をこれだけ集めて『くださった』のだ。

存分に聞いて帰ってもらおうじゃないか。

「それこそ軍務規定違反すれすれの危ない橋を渡る必要がどこにあったのかを、俺は死ぬ前に教えていただきたいのです。殺される前にこの無駄な数日の、生産性のない数日の、意味を知りたいのです。」

教えてくれよ、老将ども。

「コートス家の悪事を暴きたかったのですか?俺は士官学校に入学した時点で勘当された身です。ああ、なんなら電話番号をお教えしましょうか?」

にっこり笑ってみせると、中央に腰掛けていたヘルマン中将がぎりり、と歯噛みした。

「俺に濡れ衣を着せて、ロシュのスパイ容疑を晴らしたかったからですか?ロシュはヘルマン中将の大切なお弟子さんでしたね、そう言えば。」

「黙れ。」

中将が唸るような声で命じた。

が、俺は黙らなかった。

「スパイを立件することによって、ご自分の地位を今より優位にするためですか。あわよくば次期司令のポストが手に入れば、願ったり叶ったりですもんね。」

「裁定を言い渡す!」

中将が声を荒げた、その時だった。

「その必要はありません。中将閣下。」

低いよく通る声が聞こえた。

昨日の夜も聞いた声。

「帝国陸軍特務部隊部隊長、ディオ・アデルカ少佐です。ティム・ルートヴィッヒ陸軍作戦司令の勅命で只今より、この軍法会議を査察致す。恐れ入りますが『幹部会』の皆様にもご協力願いたい。」

彼が所属する特務部隊は作戦司令直属の部隊だ。

そのため、『幹部会』の影響は一切受けないし、『幹部会』は特務部隊への影響力を持ち合わせてはいないのだ。

「アデルカ。今回の軍法会議を査察する、だ?この会議は正式に執り行われて…」

「正式に?」

中将の荒げた声をたった5文字で遮るほどの威圧感。

たった5文字で部屋の空気が凍り付く。

今、彼は『幹部会』に対してとてつもなく怒っている。

「令状こそ作ったとはいえ、取り調べもなければ法廷にいるべき弁護人の存在も伺い知れませんが、中将閣下はそれでもこの軍法会議が正式だと仰られるのか。」

軍法会議は取り調べを行ったうえで開かれるものだし、一般的な裁判同様被告側には弁護士もしくは国選弁護人をつけることが定められている。

今日は随分と饒舌な彼が更に捲し立てる。

否定など端からさせる気などない、というように。

「作戦司令は私が報告するまでこの軍法会議の『存在すら』知らなかったと仰っているが、公的な手続きはとられたのか?」

司令は、この茶番をご存じなかったのか。

初めて知らされた事実に俺は他人事のように驚いた。

彼はまっすぐ向けた視線を傍聴席に移した。

「……見世物になんかしやがって。」

俺にしか聞こえないくらいの声でそう吐き捨てた。

ああ、

この男は本当に。

「傍聴席にいる者はすぐに退出しろ。ここからは査察対象だ。」

査察は特務部隊以外の人間は関係者以外は居合わせてはいけない、という軍務規定がある。

傍聴席の下士官は彼の言う通りに法廷から出ていく。

「お前は、どうする?」

「え……?」

声を掛けられると思ってなかったからか、突然の問いにどう答えればいいかわからなかった。

「……熱もある。俺の部隊の人間も出入りする。無理に同行してもらうつもりはない。」

気を遣ってくれているのだろう。

「でも、俺も関係者だから……」

彼の今の仕事は関係者から話を聞くことだ。

俺がここにいないと彼の仕事は終わらない。

ただでさえ、戦場の最前線を突っ走る激務をこなしているというのに。

彼の仕事が増えたことに罪悪感を覚える。

「…体中震えてるお前に関係者だから残れ、なんて俺は言えない。ヴェールがこっちに向かってるから一緒に医務室に戻れ。」

指摘されて自分の肩が小刻みに震えてることに気づいた。

「っ……」

思わずしゃがみ込む。

発熱と緊張と恐怖とが一気に襲ってきた。

吐き気がする。

「……被ってろよ。」

彼が俺の隣にしゃがんで耳元で優しくそう言った。

そして、自分が被っていた軍帽を俺に被せた。

この男は本当に、馬鹿だ。

俺なんか放っておけばいいのに。

俺のことなんか「いらない」と一蹴してしまえばいいのに。

そうやって相手にされなくなることには、俺は慣れてるのに。

それでも、俺のために時間を割いてくれる。

自分の体の悲鳴に耳を塞いで。

まるで、カートゥーンに出てくるヒーローのように現れて、俺を地獄から救ってくれる。

この男は本当に、大馬鹿者だ。

「ヴェール・ディサイプ中尉、現着しました。」

遠くから弟子の声が聞こえて、肩を大きく揺らしてしまった。

この髪の色になってからは弟子には会っていない。

なんて言われるか…そんなことを思ったら体の震えがますます止まらなくなった。

こつこつ、という革靴の鳴る音が自分より数歩手前で止まった。

「……貴方がたを許すつもりなど、俺は毛頭ありませんから。」

彼と出会って10年。

彼の色のない声を聞くのはこれが初めてだった。

それだけ言った彼は俺の前にしゃがんでいつもの口調で言った。

「ししょー、帰ろうか。」


***


法廷から、弟子におんぶされて医務室へと向かう。

「……何も、聞かないの?」

ずっと黙っていた俺はふと口を開いた。

「聞いてほしいの?」

こういう意地悪なところは彼に似てると思った。

「いや……」

「…師匠がいろいろ考えちゃう性格なのわかってるし、あいつが何をしたかもわかってるから大方想像はつくんだ。」

あいつ、とはロシュのことだろう。

普段はさん付けして呼んでいるのに、弟子も相当怒っている。

「ディオ兄がね、初めて俺に頭を下げたの。」

何でだと思う?

弟子は含み笑いを浮かべながら俺に尋ねた。

「……わかん、ない。」

見当がつかなかったから素直に答えた。

彼がこの弟子に頭を下げるようなことがあったのだろうか。

「昨日イルのことを傷つけたんだって言ってた。何があったかも…ごめん、聞いちゃった。だから、明日の会議の時師匠のそばにいてくれないかって。迎えに来てほしいって。」

傷つけた、なんて。

俺だって。

俺だってひどいことをたくさん言った。

俺の方こそ彼を傷つけたに違いない。

「だから俺、ディオ兄のことぶん殴っちゃった。ごめん、師匠。」

「なんで、俺に謝るの。」

それは見たかったな、とも思う。

今では自分より背の高くなった弟子が彼を殴り飛ばしてる様は見てみたかった。

「……司令に査察命令を願ったのは、ヴェール?」

司令は先の軍法会議の存在を知らなかったという。

ならば、誰かが告発したのだろう。

「俺と、ディオ兄。あと、ジェイクとブルースも手伝ってくれた。」

ジェイクとブルースはロシュの動向を不思議に思っていたという。

「そ、か。ありがと。」

「でも、『幹部会』は罷免に出来ないよっても言われた。それもわかってる。悔しいけどあいつらがいなくなると困るのは俺たちだから。」

弟子が本当に悔しそうに言った。

『幹部会』の影響力は絶大だ。

それが一気に失墜してしまえば軍隊の統率はいとも簡単に崩れてしまうだろう。

「まあ、大丈夫だと思うよ。」

今、内輪揉めをしている場合ではないことくらい彼らもわかっている筈だ。

「ねえ、師匠。」

「……ん?」

弟子が穏やかな声で俺を呼んだ。

「不謹慎なこと言っていいかな?」

「…何?」

「俺ね、さっき師匠の髪を見たときにねお揃いだって思ったの。」

一瞬、何を言われたのか見当がつかなかった。

「師匠と俺の髪の色。同じ白になったんだって思ったら…不謹慎だってわかってるけど嬉しかったんだ。」

俺は目を見開いた。

嬉しい、などと言われると思っていなかったから。

「……気持ち悪く、ないの?」

「何で気持ち悪いの?」

その応えはすぐに返ってきた。

「師匠はどう思ってるか知らないけど、俺は師匠のこと気持ち悪いなんて思った事微塵もないよ?」

「っ……」

「俺の大好きな師匠は、イルバ・コートスはちゃんとここにいるよ。」

俺は首に回していた腕にほんの少しだけ力を込めた。

優しくて、聡い子だ。

俺はきっと俺自身を許さない。

自分の弱さも、浅はかさも、無能さも。

許すことはできない。

自分はきっと普通じゃない、『化け物』なのだと。

言い聞かせて、許しを請うことすら拒絶するのだろう。

でも、それでもこの有能な弟子は俺を「師匠」と呼ぶのだ。

そんな資格など、俺は失ってしまったのに。

「俺…ヴェールが弟子でよかった。」

小さな声でそう言うと、弟子は照れ臭そうに笑った。


イルくんの喋り方が変わったきっかけとしてかきたかった「演説」のシーン。元々伊月の初稿(妄想)にはないものでした。書いてて無茶苦茶楽しかったですが、書き終わった後にとってもしんどくなりました。

ヴぇーるくんはいい子です。ディオ君を殴ったけどもいい子なんです(2回目)

もう少し続きます。(こんなに長くなるつもりじゃなかった)

良ければ続きもお楽しみに。

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