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白と赤  作者: 伊月煌
3/5

Please tell me someone how to get out of this hell.

続きです。

長いです。

この話が一番イルバの心情を吐露しているシーンが多い気がします。

気付いたら手が勝手に打っていたものでww

良ければ是非に。

「ん……、ディオ…?」

気づくと眠っていたらしく呂律の回らない口で彼の名を呼んだ。

「彼奴なら執務室向かったぞ。」

そう答えたのは彼ではなく先生だった。

「あ、せん…せ。」

「お前らなぁ…まあいいや。具合はどうだ?」

呆れたように笑った先生が尋ねた。

「昨日よりは怠くない、かな。」

「恋人のおかげか?」

「恋人じゃないよ、ディオは。」

恋人じゃない。

そんな綺麗なものじゃない。

もっとドロドロしてて、真っ黒な感情を抱いてる対象。

それを恋人と呼ぶには些か気がひけるのだ。

「めんどくさいな、お前ら。」

先生が笑って言った。

「全くね。」

俺も笑い返した。

「さて、包帯外そうか。」

「うん、お願いします。」

そう言うと、先生は丁寧に俺の包帯を解いていく。

「……よし、外れた。ゆっくり、目を開けて。ゆっくり、な。」

言われるがままにゆっくりと目を開ける。

視界の変化は、ない。

「……?」

ふと、先生の顔を見た。

豆鉄砲を食らったような、唖然とした顔。

「……先生?どうしたの?」

「鏡持ってくる。自分の目で確かめればいい。」

硬い声でそう言った後、足早に鏡を取りに行った。

渡されたそれを顔の前にもってくる。

一瞬、なにを見させられているのかわからなかった。

「……何、これ?」

開いた右目の青かった部分が、赤くなっている。

「どういう、こと?」

鏡から視点を外し先生を見る。

「…わからない。すまん。」

先生が苦しそうに答えた。

「そ、か。」

「眼帯をつけようか?」

「……ううん。大丈夫。」

俺は笑って返した後に、右目を髪で隠した。

「これで隠せるでしょう?」

「っ……」

先生の表情が硬くなった。

溜息を1つもらして、再び口を開く。

「目はゆっくり動かせ。閉じたり開いたりするのも……」

が、最後まで言うことはできなかった。

「イルバ・コートス小佐。」

知らぬ声が自分を階級で呼んだ。

顔をそちらに向けると制服に見覚えがあった。

「『幹部会』……。」

恐らく、参謀補佐だろう。男は表情を変えず淡々と続けた。

「貴様に出頭令状の通達だ。」

耳を疑った。

「なっ……なん、で、」

出頭令状。

軍務規定違反や、犯罪を犯した者を取り調べるための令状だ。

そんな令状を発布されるようなことをした覚えはない。

「貴様にはスパイ容疑がかけられている。」

「……心、あたりがないんですが、」

「しらばっくれるな。只今より軍法会議を開廷する。一緒に来てもらおうか。」

待ってくれ。

取り調べもなしに軍法会議だと?

訝しげに思っていたタイミングで声を荒げたのは先生だった。

「ちょ…待ってくれ!イルバはまだ熱が…!」

「黙れ。戦場から逃げた腰抜け軍医が。」

熱があるはずなのに頭の中が冷えていく感覚がした。

シルヴァ先生の事情を男は『逃げた』とほざいた。

反論しようとした先生の白衣を掴んだ。

「……先生、大丈夫。俺行くよ。」

「イルバ。」

不安げに俺を呼ぶ先生に俺はにっこり笑った。

そのまま男を見やる。

「右目が見えないので法廷までシルヴァ先生に肩を借りてもいいですか?」

にっこり笑って尋ねる。

心と裏腹な表情を作るのは慣れてる。

「……すぐに来い。」

男が表情を崩さずそう言った。


***


軍法会議は数時間に渡った。

俺が医務室に戻ってきたのは日がだいぶ傾いていた刻限だった。

ベッドに腰を掛けてぼんやりとした頭で長考する。

幹部会が俺に目をつけていたのは今に始まったことじゃない。

参謀補佐に就任したころから、ずっと。

それでも誰かに言うつもりもなかったし、誰かに知られたくもなかったわけで。

まさかこういう形で露呈するなんて思っていなかった。

「師匠。」

己を呼ばれて、俯いていた顔を上げる。

「ああ、ヴェールか。」

そこには弟子が穏やかな表情で俺を見下ろしていた。

「右目の包帯とれたの?」

「ん。とれた。」

「見てもいい?右目。」

あどけない表情で尋ねる。

俺は首を横に振った。

「だめー。傷恥ずかしいから見ないで。」

おどけたように言うと、弟子は苦笑してから、真面目な顔を見せた。

「…ねえ、軍法会議に出たって本当?」

もう噂になっているのか、と苦笑する。

「……うん、ほんと。」

「何で?取り調べは?」

「なかった。」

「どういうこと?師匠に何の嫌疑がかけられたって言うのさ?しかも正規の手順を踏んでないなんて。」

弟子が険しい顔をした。

ここ数日俺の周りは難しい顔しかしていないな、と場違いなことを思った。

「まあ、俺は悪いことしてないからさあ。すぐに終わると思うよ。」

俺はへらりと笑ってそう言った。

「……ディオ兄には言ったの?」

弟子がそんなことを問うた。

「ううん。今日は会ってないから。」

朝は会えなかった。会議後も、当然。

「怪我してからは会った?」

「昨日の夜、来たよ。」

「よかったね。ディオ兄焦ってたよ。」

「焦ってた?」

彼が焦ることなど滅多にないのに。

俺は思わず聞き返した。

「作戦終了してからブリーフィング放り投げてうちの隊の作戦室に来てさ。俺に色々聞きに来たの。」

彼が一度たりともブリーフィングを投げだしたことなど今まであっただろうか。

「……、」

「でもその後仕事立て続いててその日は行けなかったって昨日の朝言ってて。」

「……そっか。」

迷惑を、かけてしまった。

自分の怪我が思いもよらないところでいろんな人に迷惑をかけている。

それだけで気が滅入る。

「愛されてるね、師匠は。」

弟子がにやにやしながらそう言った。

「からかうなよ、ヴェール。」

愛されてる、かどうかは別にしても心配されていることくらいはわかる。

「…だから、ちゃんと言ってあげて。心配してる。」

弟子の声が慈愛に満ちていて、この時ばかりは素直に首を縦に振った。

「……うん。今度ちゃんと言っておくね。」

今度、なんて訪れないまま俺にとって最悪な出来事がこの後押し寄せてくることなど、

この時の俺は知る由もなかったのだ。


***


何日目か数えるのを、途中でやめた。

朝起きて、毎日幹部会の補佐役が医務室に来て俺を連れて行く。

先生が何度やめろと進言しても、その度に『腰抜け』と称され俺を無理やり法廷に連れて行く。

何の進展もない非生産的なこの時間を過ごすというだけでも苦痛なのに。

日に日に体が重くなっていく。

頭も、関節も、痛い。

そんなことはお構いなしというように法廷で幹部が声高に話し始める。

「5年前、当時の狙撃部隊隊長である、クリス・シャール少将が殉職した案件についてだが、イルバ・コートス小佐が彼を撃つために狙撃ポイントを反乱軍に密告したとの告発が出ている。これの真偽はいかがかね?」

俺に掛けられたのは反乱軍のスパイだという容疑だ。

証拠として幹部会が挙げたのは2つ。

5年前、俺の上司だったシャール少将が俺の隣で被弾し、そのまま殉職してしまったこと。

幹部会はこれについて、俺が狙撃ポイントを密告したとしている。

確かにあの時、俺たち帝国軍の狙撃ポイントが敵に割れていたのは事実だ。

だが、

「全くもって事実無根です。仰っている意味が分かりません。」

俺がそんなことをして何になるのだというのだ。

この件についての質問は毎日飽きるほどされている。

「そんなわけなかろう。貴様は作戦会議の度に相手の陣形を的確にとらえていた。」

「それは、相手の陣形がパターン化していたからです。」

「それで百発百中陣形が当たるなんぞことはあるのか?」

「地形や戦況を鑑みたら造作もないことでしょう。」

反乱軍にはおそらく、優秀な軍師や参謀が存在しない。

していたのかもしれないが、今の戦況を見ると恐らく失ってしまったのだろう。

過去の陣形をパターン化しているのは明白であり、陣形指揮の訓練を受けている士官学校卒業生には彼等の動きを看破することなど、造作もないことだ。

「じゃあ、今回の自身の負傷はどう説明するんだ?自作自演も甚だしい。」

もう一つは今回の俺の怪我が自作自演だという。

阿保らしい質問に熱があるのも忘れて思わず大きな声が出た。

「な……仮に自分が反乱軍のスパイだったとして、敵方の陣形を聞いたり、自分の商売道具を失ったりすることに何のメリットがあるのですか!?」

俺が態と目を潰したと。

お前らはそう言いたいのか。

何も知らないくせに。

俺が何故狙撃手を志望したのか、知らないくせに。

喉元まで出かかった言葉を俺は飲み込んだ。

「そうやって有利に見せかけて裏でちまちまと工作しているのだろう?企みが明るみに出る前に暴かれてしまって残念だったなあ!」

「っ……なんで、」

そこまで俺を貶めたところで、あんたらに一体何が手元に来る?

「貴様の言っていることが正しかったとしてもだ。5年前のシャール少将の件に関してはどう言い訳をするのだ?」

言い訳も何も。

「っ……証拠がありません。なんで自分がシャール少将の殉職を望むのですか。」

「証拠がない?きちんと証言してくれた奴がいるぞ。」

自分より高い位置に腰を下ろしている幹部がにやりと笑った。

「……?」

「入れ。」

「失礼します。」

その声と、容姿は見覚えのあるもので。

「!?…ロ、シュ…なんで……?」

「ロシュ・ヴィトス少佐幹部会の招集により参上しました。」

先日まで俺の隣にいたロシュの姿が俺の目の前にあった。

「イルバ・コートス小佐のスパイ容疑について重要な証拠と証言を持ってきたと聞くが。」

「はい。」

そう言って彼が一つの茶封筒を幹部会に提出した。

待ってくれ。

何の冗談だ、これは?

「彼の執務室に反乱軍とのやり取りをまとめた記録が残っていたものです。」

「っ!?」

そんなもの、知らない。

執務室にはそんなものなかった。

「何日分かの日報と一緒にお持ちしましたので確認してください。」

「ま、待ってください!!それはっ……」

その字は、

その字は、俺のものじゃない。

お前のものだろう、ロシュ。

そう言うより先に、耳を疑う発言が聞こえた。

「それから、彼の実家であるコートス家は5年前に反乱軍に多額の資金を寄付していることもわかっています。」

「!?」


***


ロシュが、俺を売った。

自分の右腕が俺に対してしたことは、俺にショックを与えるには十分なものだった。

実家まで調べられていた。

しかも。

敵方に莫大な投資など。

帝国きっての大財閥であるコートス家が反乱軍に手を貸していたなど。

考えただけで、頭が痛い。

重い体を引きずって、自分の服を取りに部屋に戻る。

もはや熱からくる頭痛なのか、持病の偏頭痛なのか、精神的に参っているのかよくわからなかった。

部屋の電気はついていなかった。

彼はまだ帰ってきていない。

今は誰にも会いたくなくて、すこしほっとする。

「っ……なん、で、」

部屋に入って思わず声が漏れた。

何を間違えた?

ロシュはなんであんなことしたんだろうか。

「……あ、れ?」

ふと机の上にある鏡を見ると、自分の容姿に違和感を抱いた。

「な……え、あ、」

近くによって確認すると鏡に映った、自分の姿に愕然とする。

金髪だった髪が、真っ白になっていたのだ。

「うあ…あああああああああ!!!!!!」

俺は、パーカーを羽織ってフードを被り医務室に足早に向かった。

どうしよう、

なんで、こんなことに、

せんせいに、はやく、みてもらわなきゃ

頭がごちゃごちゃして、ずきずきと痛む。

医務室に入ろうとすると。

「そうか、まだ帰ってきてないのか。」

「っ………」

聞き覚えのある、でも今一番聞きたくない声が扉の向こう側から聞こえる。

「あいつの容態は?」

「良くなってるわけないだろう。ここ、何日も出頭要請が出て一日中軍法会議で問い詰められてる。熱もそうだが、精神的にも参ってきてると思う。」

先生の声が怒っているように聞こえた。

「…人に頼ることを知らないんだ。」

彼の声のトーンが少し落ちた。

滅多に聞くことのない声色。

「!」

「いつもいつも見栄を張って平気、大丈夫、って言うんだ。しんどいなんて言ったところを見たことがなくてな。」

彼が苦笑する。

「怖いんだ。気づかないうちに壊れそうで。」

「っ……」

彼がこんな風に思ってるなんて知らなかった。

「先生。あいつのこと頼む。俺では、」

「バカ言わないでくれよ。俺なんかよりずっとディオのほうがイルバのこと分かってるんだから。」

「……ああ、そう、だな。」

自嘲気味に笑った彼の声を聞いた瞬間、頭痛がひどくなった。

思わず足音を立ててしまった。

「っ!」

「誰か、そこにいるのか?」

彼の問いかけに思わず下を向いた。

「っ……」

「……イル?」

なんで、わかる。

「こな、いで。」

「イル?」

なんで、そんな声で俺の名前を呼ぶ。

「今、ディオに会いたくないから…来ないで。」

「……、ここから出ないと俺は部屋に帰れないし、お前はこの部屋に入れないが。」

ここに来て正論を返さないでくれ。

「……。」

「イルバ?どうした?どこか痛いか?」

「……どこも痛くは、ない。」

「…イルバ?」

先生の心配の声にも雑に返してしまう。

「………はあ、」

彼が呆れたようにため息をついた瞬間。

ばん、と大きな音と共にドアが開いた。

「っ!!なん、」

思わず、肩が揺れた。

「何でフード被ってるんだ?」

「っ……」

責められているようで俺は俯いた。

「おい、イル。下向くな。」

「や、だ。」

そう返すので精いっぱいだった。

すると、彼が俺のフードを乱暴に掴んだ。

「おい、ディオ……」

先生が止めに入ろうとする。

「やめっ…!!!」

が、一歩遅かった。

フードをはぎ取られた俺は真っ白な髪をさらすことになるわけで。

「お前…髪、」

当然、先生も彼も目を見開くわけで。

「なんでっ……みる、の」

小さく、小さく俺は彼を責めた。

「っ……なぜ隠す必要がある?」

彼がいつもと変わらない調子で返した。

「だって……だって!」

お前が綺麗だって言ったのに。

お前に髪を触られるのが好きだったのに。

突然色が変わったなんて言ったら。

『気持ち悪い』

そんなワードが頭に浮かんだ瞬間、唐突に吐き気がこみあげた。

「イルバ、落ち着け。」

先生がその様子を見たのか、背中を撫でて落ち着かせようとする。

視界が暗くなり始める。

頭がぐわんぐわんする。

「イル…おい!」

彼の焦ったような声が聞こえたような気がしたけど、

もうどうでもいいか。

そう思った俺は、意識を手放した。


***


その世界は見覚えのある世界だった。

自分の子供の頃の世界。

『イルバ様。』

俺に声をかけるのは家族ではなく数多いる使用人たちだった。

『この後は、語学、詩、帝王学の先生がいらっしゃいます。ご準備はよろしいでしょうか。』

『……うん。』

何でもやった。

文学、語学、数学、化学、音楽、美術、剣術、馬術…本当に何でもした。

周りの使用人はこれでもかというまでに褒めちぎった。

今思えば俺に良い顔を見せるための単なる社交辞令に過ぎなかったのだろう。

けれど。

両親も、二人の兄も俺にまるで興味がなかった。

俺がどれだけ学術に長けていても見向きもしてもらえない。

泣きわめいてもあやしてもらえず、悪さをしても怒られることがなかった。

俺は幼くして自分の感情表現は何の意味もなさないことがわかってしまった。

だから、笑みを顔に張り付けて生きることにしたのだ。

そうすれば、波風立てないで済む。

負の感情は反感を買うかもしれないから、笑っておこう。

そうすれば、傷つかなくて済む。

そう思ったのに。

『気持ち悪いのよ。』

母が久しぶりに俺に向かって発した言葉はそれだった。

『ずっとにこにこにこにこ。化け物みたい。』

そう言われても、涙1つ流さなかった。

この世界に俺の居場所はない。

この世界は俺を必要としていない。

ただ漠然とそう思っていた。

寄宿学校で習うことは一通り教えてもらった。

でも、軍人になる訓練は受けていない。

だから、

士官学校に入った。

陸軍に配属になった。

狙撃部隊で任務をこなしていた。

でも。

「ああ、俺。やっぱり化け物だったのか。」

母さんの言っていることは正しかったのか。

そう思った瞬間、何も見えないはずの右目から、冷たい何かが零れ落ちたような気がした。

6000字超えるという。前回の三倍の分量なので本来ならこれ3話分なんですけど分量的にはwwwww

書きたかったところの一つとして、彼の子供の頃の話がありました。回想という形で書かせてもらったけどたぶん後にも先にもここだけです。たぶん、ね。

きっと胸糞悪いお話だったと思いますごめんなさい。そしてもう少し続きますごめんなさい(2回目)

お付き合いいただければ幸いです。

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