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白と赤  作者: 伊月煌
2/5

This was still only the entrance to hell.

続きです。

今回は少し要素があるので読むときは気を付けてください。

事の顛末が決まっていると間のことを書くのが難しいです。

『各班、ポイント地点に到着しました。』

『特務部隊の位置確認完了。』

「よし、では一二〇〇、作戦を開始する。」

無線から各班の準備完了の声が聞こえた。

俺と弟子、そして数人の隊員も狙撃ポイントに配備している。

俺は作戦開始を命ずる。

「『ラジャ。』」

方々から銃声が響き始めた。

「…ディオ兄は相変わらず上手だねえ。」

隣で狙撃の構えを崩さず弟子はそう言った。

彼の視線を辿ると前線を走る特務部隊の姿があった。

それを率いてる彼の采配の才覚はいつも適格だ。

「うん。……強いね。」

つくづく彼が味方でよかった、と思う。

敵陣にこれほどまでに腕の立つ指揮官はそれほど多くない。

『A班、右側殲滅完了。フェーズ2へ移行します。』

「B班も同様にフェーズ2へ移行する。」

『C班は引き続き援護に当たります。』

「ラジャ。」

無線からの応答に短く答え、自分も狙撃ポイントを変えようとした。

その時、ふと違和感を感じた。

「……妙、だな。向こうのスナイパー部隊が見えない。」

我々が使っているライフルと反乱軍が使っているライフルは違う。

ライフルの種類で銃声も異なるのだが。

今の銃声で我々のライフルの音しか聞こえなかったのではなかったか。

そんなことを思った。

「……あれだけ追いやられている状況下で?」

ふと対角にある建物に目を向ける。

「どこに……」

班員の1人が身を乗り出したその時だった。

「っ!?危ない!!」

対角の建物の端で何かが光った。

俺は身を乗り出した彼を引っ張り奥に押しやった。

「っち…」

そしてすぐさま銃口を光った先に向けスコープを覗く。

刹那。

ガシャンという音が鳴り、右目に激痛が走った。

思わずスコープから目を背けた。

「なっ……ぐ!?」

「師匠!?」

弟子の大きな声が聞こえる。

右目がずきずきと痛んで意識が飛びそうになる。

「っ…は、大丈夫…いいか、ら、うっ…て」

言い終わるかどうかのタイミングでヴェールが迷いなく銃声を発した。

「こちらB班。隊長が負傷した。ポイントを変更しつつ医療班に隊長を連れて行く。」

そのまま無線で連絡を取る。

「……ヴェ…ル…」

「師匠…?」

撃ち終えた弟子が俺の体を支えてくれた。

意識が少しずつ遠のく。

「あと……は、たの、むね…」

「ししょ……?」

不安げな弟子の声を耳にしながら、俺の意識は闇の中に落ちた。


***


「ん…あ、れ?」

気付くと真っ白な天井が見えた。

左半分だけ。

「起きたか、イルバ」

声が左側から聞こえて、顔を左側に向ける。

「シルヴァ……せんせ。」

シルヴァ・マクガーデン。

士官学校の先輩で、現在は我が軍の軍医である。

士官学校当時良くしてもらった先輩の一人だ。

「あ…これ包帯か。」

自分の視界の右半分は真っ暗な状態になっていて、俺は右目に触れた。

「お前が被弾するとは思ってなかったぞ。」

「うん、俺もまさか、目に当たるとは。」

あの時、銃声は聞こえなかった。

まさかサイレンサーを搭載してるなんて考えてもいなかったのだ。

なんと、浅はかな考えだろう、と自分が嫌になる。

「生きてることが不思議なレベルだ。」

スコープ越しの被弾だったせいか、すぐに銃を手放したせいか弾が頭を貫通しなかった。

頭を射抜かれるなんて、考えただけでぞっとする。

「俺の目は治る?」

聞いても無駄だろうなあと思いながら先生に尋ねる。

「……無理だ。治らない。」

先生は眉間に皺を寄せてそう言った。

「そ、か。」

「もうしばらくは安静にしててくれ。目については開きはする。でも見えない。硝子はすべて取り除けたが小さいのが一つ、眼球を傷つけてな。」

声を硬くしたまま先生は状況を説明してくれた。

「よかった、眼帯はしなくて済みそうだ。」

目が開くのなら必要ないだろう。

「あとは、熱が出てる。目よりも俺はその熱のほうが心配だ。あまり下がってない。いいか、絶対安静だぞ。」

「わかった。包帯はいつ取れそう?」

目の上にざらざらした布の感触があるのはどうにも慣れなかった。

「明後日には。」

「そう、視界が遮られているのはきついね。」

何気なくポツリ、というと先生は眉間の皺を深くした。

「……お前、それには慣れなきゃないぞ。」

「あ……そ、か。」

もう、右半分は一生明るくなることはないのか。

そう思った瞬間、心の中にぽっかり穴が開いたような気がした。

何かがごっそり抜け落ちたような感覚になる。

「師匠!」

そう呼ぶのはこの環境の中で一人だけだ。

俺が視線を向けた先には部隊の隊員が揃っていた。

「ヴェール…みんなも。」

「隊長が負傷した、なんて。大丈夫か?」

ジェイクが険しい顔のまま尋ねた。

「うん。へーき。すまないね。迷惑かけて。」

「作戦はとりあえず成功しました。壊滅とはいかないまでも反乱軍はかなりの負傷者が出た模様で、次の作戦への影響は大きいかと。」

そう言ったのはロシュだった。

恐らく報告書の提出とかも済んでいるのだろう。

「ロシュ。いろいろ手続きとか報告とかやってもらったみたいだね。すまない。」

「いえ、隊長はまず治すことに専念してください。」

ロシュは笑ってそう言った。

「ありがとう。」

俺も笑って返した。


***


目が覚めた日はあまり眠れなかった。

目の痛みもあったけど、いろいろなことを考えた。

「……もう、戻れないなぁ…。」

スナイパーとして、目が見えなくなるというのはかなりの致命傷だ。

きっと、スナイパーとしての俺の価値はなくなったわけで。

俺は近いうちに除隊することになるだろう。

そうすれば、

「……守れなく、なる。」

「いつまで起きてる。体に障るぞ。」

突然話しかけられて、慌てて体を起こした。

そこには仏頂面の彼の姿があった。

「ディオ…そっちこそ、疲れてるのに。」

怪我をしてから初めて会った。

きっと任務に追われていたんだろう。

絶対疲れているのに、わざわざ。

「……お前が、被弾したって聞いたから。」

「俺、寝てたらどうするの。」

素直になれない俺は苦笑気味で尋ねる。

「そのつもりで来たんだ。寝顔だけ見て帰るつもりだった。」

ベッドの左側に来て淵に腰かけた彼が俺の髪を撫でた。

「……、ごめん。わざわざ来てもらって。」

「……ヴェールから聞いた。部下を庇って被弾したそうだな。」

「そういうわけじゃないよ、そのまま撃ち殺そうとしたのがよくなかっただけだよ。」

俺が笑ってそう言うと、彼が顔を顰めた。

「包帯は、いつ取れそうだ?」

「明日取ってくれる予定。」

「……痛む、か?」

彼がおそるおそる尋ねた。

「………。」

なんて、答えようと考え込んだ。

「イル?」

「……へー、」

「平気、なわけないだろ。お前、俺にまで虚勢を張るのか?」

彼は優しい声で俺の返事を遮った。

此奴のこういうところが本当に狡い。

「……ディオ、」

「イル、どうした?」

「キス、して……?」

気付くとそんなことを強請っていた。

こんな、お願いするなんて自分でも思っていなかった。

「…おいで、」

身体を彼に預けると、彼は唇を俺のそれに重ねた。

「んっ………あ、熱……おれ、」

ふと、自分が熱を出していることに気づく。

慌てて唇を離すと、彼が俺の耳元に口を寄せた。

「気にしなくていい。うつしてしまえ、」

そう言って、再び口づけられる。

「んっ………ふ、」

彼が唇を離した後、俺は彼の肩口に顔を埋めた。

「っ………イル、?」

「ディオ……いたい、」

右目も、心も。

じぐじぐと痛む。

「もう我慢しなくていいから。」

彼はそう言って、頭を撫でてくれる。

「っ……ごめん、ごめんね、ディオ」

何に対する謝罪だったのか、

俺自身さえも、てんで見当がつかなかった。

ただただ、彼の優しさに、手の温かさに思わず謝りたくなったのだ。

イルくんが弱音を吐く場所はディオ君だけなのだと思うとつらくなります。

この話もなかなかに重たいですがここからがさらに辛いですww

サブタイトルの通りですので。

まだ続きますのでもう少しお付き合いいただければ幸いです。

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